2025年の幕開けに、パーソナルコンピュータのハードウェア技術の動向を占う毎年恒例の特集記事「PCテクノロジートレンド」をお届けする。まずは例年通り、業界のあらゆる活動に大きな影響を及ぼす半導体プロセスの動向から。前回のTSMCに続いて今回はSamsungとIntel編だ。
◆関連記事リンク (2025年1月1日掲載) PCテクノロジートレンド 2025 - プロセス編「TSMC」 (2025年1月2日掲載) PCテクノロジートレンド 2025 - プロセス編「Samsung」「Intel」 (2025年1月3日掲載) PCテクノロジートレンド 2025 - CPU編「Intel」「AMD」 (2025年1月4日掲載) PCテクノロジートレンド 2025 - GPU編「NVIDIA」「AMD」「Intel」 (2025年1月5日掲載予定) PCテクノロジートレンド 2025 - Memory編 (2025年1月6日掲載予定) PCテクノロジートレンド 2025 - Storage編 (2025年1月7日掲載予定) PCテクノロジートレンド 2025 - Chipset編 |
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Process編その1はTSMCで終わってしまったので、SamsungとIntelはこちらで。ちなみにRapidusはまだ議論する以前の状況なので今年も取り上げない。試作ラインが建設されるのが今年、実際に試作品が出来上がるのは2026年である事を考えると、今しばらくは様子見である。
Samsung Foundry - 上がらぬYield、計画遅れの巻き返しなるか?
2024年6月にSFF(Samsung Foundry Forum)が開催された時のロードマップ(Photo01)では、2024年にSF3が立ち上がり、2025年はSF2、そして2026年にはそのSF2の改良型が出て来て(Photo02)、2027年には次世代のSF1.4に移行する、という非常に意欲的な計画が示された。とはいえ、2022年にSF3Eをリリースし、そこから2年の熟成期間を経てのSF3の投入だけに、割とこのスケジュールは「意欲的ではあるものの堅い」と2024年6月には受け止められていた。これに先立つ2024年1月には、そのSF3(旧3GAP)の量産試作の評価を開始しており、半年以内にYield 60%を目指すといった報道もなされていた。
雲行きが怪しくなったのは2024年9月頃である。SF2とSF3のYieldが全然上がらない、という報道が複数流れた。まずSF3、先の記事にも言及があったが2024年第1四半期のYieldが1桁(10%未満)、第2四半期は10%台まで来たが、第3四半期になっても20%台で低迷しているとする。D0は公開されていないが、通常この手のYieldが100平方mmのダイで計算する事を考えると、10%というのはD0が3.0前後、20%だと1.4~1.9位という事になる(ちなみにこの計算はSemiAnalysisのDie Yield Calculatorを利用した)(Photo03)。
元々SF3E(旧3GAE)の時も、2022年6月の発表時点のYieldは10%とかで、これが2022年末に40%まで改善したなんて話だったので、2024年初頭におけるSF3のYieldが低いのはある意味予想通りというか驚きはなく、そのあと改善されてゆくことが期待されていたのだが、半年たっても依然としてYieldが20%に達していないというのは流石に想定外であった。
流石にここまで歩留まりが低いと想定顧客も全員NGを突き付ける訳で、現時点でSF3を利用しての量産を決めた顧客は皆無とされている。例えばハイエンドスマートフォン向けの150平方mm程度のダイをD0=1.5で製造すると、Yieldは実に15.8%。408個のダイが作れるが、そのうち良品は63個だけである。もっと大きな、例えば300平方mmのダイになると、200個のダイのうち良品は9個、Yieldは4.8%である。流石にこれで量産しよう、という勇気があるメーカーは皆無である。
このSF3を利用して製造予定だったSamsungのExynos 2500のEngineering Sampleの出荷も遅れていた。2024年12月末に韓国のThe Elecが報じたところによれば、Samsung ElectronicsはExynos 2500を2025年発表のGalaxy Z Flip 7に搭載の予定だという。いわゆるFoldable、折り畳み式スマートフォンであるが、このマーケットは非常に小さい。同社のGalaxy Sシリーズは3億台近い生産予定があるのに対し、Galaxy Z Flip 7は300万台程度と非常に小さいが、これは逆に言えば現在のSF3で量産できるチップの数が極めて少ない事の裏返しであり、Foldableスマートフォンの様なマーケットに供給するのが精一杯という話である。
それでも問題がSF3だけであればまだ良かったのだが、SF2についてもYieldが殆ど同じ状況、という事になっているのが同社のビジネスを極めて難しくしている。こちらは2025年の量産開始であるが、現状でSF2を利用してのEngineering Sampleも同様に極めて低いYieldであり、しかも短期的に向上の手立ては見つかっていないらしい。そもそもSF3のYieldを向上させられない状況で、より技術的難易度が上がるSF2のYieldが上がる筈もないのだが。結果、例えばSnapdragon 8 Elite Gen 2は当初SF2の利用が検討されていたものの、このプランは破棄されてTSMCのN3Pのみでの製造という事が決定したとの事。筆者が知る限り、現状でSF2での製造を明言しているのは、日本のPreferred NetworkのMN-Coreの次世代製品(Photo04)のみとなっている。
話を戻すと何でSF2がビジネスに絡んでくるか? と言えば、同社のFabの増設状況にこのSF2の動向が関係しているためだ。現在同社は韓国のPyeongtaekにP4 Fabを建設中であり、また米テキサス州TaylorにもFabを建設中である。Taylor Fabの方はロジック向けとされて4nm~2nm世代の製造を行う予定であり、一方P4 Fabの方はDRAMとNAND型フラッシュメモリ、それと4nm~2nmのロジックの全てを賄う先端Fabになる予定であった。このP4 Fabの方は4つのフェーズに分かれていて、第1フェーズではNANDフラッシュ、第2フェーズでロジック、第3フェーズでNANDフラッシュの追加ラインとDRAM、そして第4フェーズでロジックの追加ライン、という計画になっていた。さらに同じくPyeongtaekにP5 Fabを建設する予定もあり、こちらは当初は2024年7月末までに建屋が完成する予定であった。
ところが2024年9月の時点で少なくともP5の建設は一時中断。早ければ2025年1~2月に再開される可能性もあるとされるが、現実問題として2026年までずれ込む可能性が高いと見られている。また既に存在するP4 Fabについても、現時点で第4フェーズは現在全く見通しが立っていない。また第2フェーズが後送りとなっており、現在第3フェーズが前倒しで実施され始めている。これに伴い2024年9月に入ってから、第2フェーズ向けの製造装置のメーカーに対して納入を延期するよう通達が行われている事も報じられた。
取りあえず、P4 FabはNANDフラッシュに続きDRAM、それも需要が切迫していると見られているHBM3eの生産を行っている模様だ。このHBM3eも色々と問題はある(こちらはSK Hynixに先行してマーケットを取られてしまい、Micronにも負けている状況)が、ただHBM4は2026年(SK Hynixは2025年に発売するとしているが、HBM4を使うアプリケーションが本格的に出てくるのは2026年だろう)になる事を考えると2025年中はHBM3eの需要が引き続き発生すると思われるので、第3フェーズを前倒ししても作るモノには困らない。とはいえ宙に浮いた第2フェーズをどうするのか、いつまでも宙に浮かせておくわけにもいかないだろう。
もっと困ったのがTaylor Fabである。こちらは元々2024年中に稼働を開始する予定だったが、色々遅れが重なり、2026年後半まで稼働開始がずれ込んでいた。元々は2024年にSF4の量産を開始、そのあとSF3を経てSF2にシフト、という計画だった訳だが、その稼働開始が2026年までずれ込むとなると、「今更4nmの量産をしても仕方ないのでは?」という議論が出てくるのは当然であり、結果として当初の計画にあった4~3nmの量産を取りやめ、いきなりSF2と続くSF1.4の量産工場になる計画だった。
ところが現状SF2/1.4どころかSF3の量産すらおぼつかない状況では、2026年の稼働を目指して設備を入れたところで、無駄に設備が遊んでいる状況になりかねない。P4 Fabと異なりTaylor FabはDRAMやNANDフラッシュの製造の予定は無いから、工場を建設しても代わりに作るものが無い。この結果としてTaylor Fabは操業縮小および人員削減に踏み切る事を決定したとBusiness Koreaが2024年9月11日に報じている。
ただ厄介なことに、米国政府は2024年4月にCHIPS法に基づきこのTaylor Fabおよび既に稼働中のAustin Fabに対して最大64億米ドルの補助金を支出する事を決定している。この補助金のほとんどはTaylor Fab向けで、SF2あるいはそれ以降のプロセスでの生産に加え、先端パッケージの提供に対しても補助金が支出される。現状Taylor Fabで可能性があるのはこの先端パッケージだけという事になるが、それだけのために稼働させるか? というとかなり怪しい。かといって、この補助金を米国政府に返納するのも難しい。このTaylor Fabの扱いがクリアになるまでにはもう少し時間が掛かりそうだ。
皮肉にもSF4に関してはそこそこ真っ当なYieldが実現出来ているそうで、こちらに関しては今のところ順調である。こちらはおおむねTSMCのN5/N4と同等のプロセスであり、TSMCのN5/N4の需要が引き続き逼迫気味である事が理由で、それなりにTape outの数も増えているらしい。個人的にはTaylor Fabも当初の予定通りSF4からスタートすれば、とりあえず作るものが無いという状況からは逃れられそうな気もするのだが、コスト的にそれで帳尻が合うかどうかは良く判らない。
それでもDRAM及びFlash Memory部門があるお陰で、Samsung Electronicsの半導体部門全体としては何とか黒字が維持できているあたりがIntel Foundryより状況的にはまだ良い、というのが2025年初頭の状況である。この状況を打開し、なんとかFoundry Service単体での黒字化を実現するために、2024年11月には事業部長を刷新、12月には拠点をPyeongtaekに移動する事を発表している。こうしたテコ入れで何とかなればいいのだが。そんな訳で2025年のSamsungのロードマップは、とりあえず2024年に出したものを何とか実現すべく努力するといった感じで、新しい話は特になさそうである。可能性としては、特にバリュー向けのGPU製品などにSF4が使われる可能性はありそうだが、現時点で確たる決定が何か伝えられている訳ではない。
Intel Foundry - Gelsinger路線を「当面」継続、未知数のその後
復活のための最大の推進役であったPat Gelsinger氏を2024年12月に更迭されてしまった事で、はしごを外されてしまった感のあるIntel Foundryであるが、後任が決まるまでの暫定共同CEOであるDavid Zinsner氏とMichelle Johnston Holthaus氏は「当面」従来の戦略に変更はないとしているので、今しばらくはGelsinger氏時代のロードマップに従う形になるかと思われる。
さてそのIntel Foundryであるが、2024年4月にIFS Direct Connectを開催してロードマップを披露している(Photo05)。このロードマップをもう少しBreakdownしたのがこちら(Photo06)である。ここで下の目盛りが年だと仮定すると
- 2021: Intel 7
- 2023: Intel 4/Intel 16
- 2024: Intel 3/Intel 16-E
- 2025: Intel 20A
- 2026: Intel 18A/Intel 3-T
- 2027: Intel 18A-P/Intel 3-E
- 2028: Intel 14A/Intel 3-PT/Intel 12
- 2029: Intel 14A-E
というのがこの当時のロードマップである。
ただご存じの通り、Intelは2024年9月4日のリリースで、Intel 20AをスキップしてIntel 18Aに集中する事を明らかにした。これに先立ち2024年9月3日に正式発表されたLunar Lakeは、当初の予定に反してTSMCのN3Bプロセスで製造されて出荷開始された。もともとLunar LakeはArrow Lakeの後となる2025年に、Intel 20Aを利用して製造される予定だった。ところがAI PCブームの急速な立ち上がりに向けて手頃な製品が無かったためだろうか、急遽Lunar Lakeを前倒しで導入する事になり、それにIntel 20Aが間に合わないということでTSMCのN3Bを利用して製品を投入したが、この結果としてIntel 20Aを利用する製品が無くなってしまった。結果的にIntel 18AのためのPathfinderとなり、その代わりIntel 18Aが前倒しで2025年に投入されることが発表された。
ついでにIntel 4とIntel 3についてだが、Intel 4はMeteor Lakeで、Intel 3はまずSierra Forest、次いでGranite RapidsというXeon 6向けでそれぞれ採用した。Meteor Lakeの方は第1世代Core Ultraとして大量に製品も出荷されており、その量産状況に疑問はないのだが、Xeon 6の方は非常にゆっくりとしたペースでの出荷になっている。
このスローペースは、一つにはダイサイズの大きさがある。Photo07がXeon 6の2種類のパッケージで、左はFCLGA4710(56.5mm×77.5mm)、右がFCLGA7529(70.5mm×105mm)であるが、ここでE-Core(左側)のCPU Tileの大きさは25.2mm×22.3mm、P-Coreの方は20.8mm×18.5mmほどと推定される。D0がどの位かの数字は無いのだが、後で出てくる0.4を当てはめてみると、E-Core TileのYieldは15.8%(96 Die中15 Dieが正常)、P-Core Tileは35.2%(148 Die中51 Dieが正常)という、なかなか厳しい数字が出てくる。もっとD0の値が低い事を祈っているが、とにかくDie Sizeが大きいためにYieldが低くなることそのものは避けられない。これがXeon 6の出荷がゆっくりの理由の一つではないかと筆者は邪推している。
さて次にIntel 18A。先に示した2024年9月4日のリリースの中で、既にIntel 18AのD0は0.4を切っている事が説明された。このD0とYieldに関しては、Gelsinger氏が解任後にも拘わらず例えば
speaking about yield as a % isn't appropriate. large die will have lower yield, smaller die - high yield percentage. Anyone using % yield as a metric for semiconductor health without defining die size, doesn't understand semiconductor yield. yields are represented as defect…
— Pat Gelsinger (@PGelsinger) December 7, 2024
https://x.com/PGelsinger/status/1865438772013494730
(Yieldをパーセンテージで語る事は適切ではない。大きなダイはYieldが低く、小さなダイはYieldが高くなる。Die Sizeを定義せずにYieldを半導体の健全性の指標として使用する人は、半導体のYieldを理解していない。Defect Densityを利用すべきである)
などと説明しており、このD0の0.4未満という数字はこの時点の数字としてはかなり優秀である(実際10mm×10mmのダイであれば、Yieldは67.9%に達している)訳だが、それでもXeon 6の様な大きなダイを作ろうとすると、非常に厳しい事になる。ちなみに製造コストは当然不明だが、TSMCのN2が1枚3万ドルに達するらしいという話が出ており、そしてIntelは伝統的にTSMCよりも製造コストが高い(それを下げようとしてIFSを始めた訳だが...)。仮に3万ドルとしても、D0=0.4だとするとE-Core Tileの製造原価は1個2000ドル、P-Core Tileは588ドル(ただしそれを3つ搭載するので1764ドル)になる計算だ。なるほど、CPUの値段が下がらないご時世になるのもわかる話である。
ちなみに256コアのGen 5 EPYCで同じ計算をやると、CCDのYieldは76.1%、CCD 1個あたりは46ドル。それを16個搭載するので製造原価は736ドルほどに収まる計算になる。いかにダイサイズを小型化するか、がこうしたウェハコストの嵩む先端プロセスでは重要なのがお判りかと思う。
話が脇にそれたので戻すと、そんな訳でIntelは今のところこのIntel 18Aを2025年後半に量産開始する予定となっており、今はクライアント向けのPanther Lakeと、サーバー向けのClearwater ForestがこのIntel 18Aの利用の予定となっている。このPanther Lakeの方の出荷状況を見れば、ある程度Intel 18Aの状況が推察できそうではある。
余談ではあるが、2024年9月4日にロイターが「BroadcomがIntel 18Aの評価にパスしなかった」事を報じた。この時にYieldが10%とかいう数字が出て来たわけだが、先に書いた試算の様にD0が0.4でもE-CoreのYieldは15.8%とかな訳で、もっと大きなダイ(例えば25mm×30mm)を作ると簡単にYieldは10%に落ちる。ちなみにこのBroadcomの話について、PDK 1.0を使っていなかったという話も出ており、なので必ずしも正しいとは限らないようだ。
むしろ見えないのは2026年以降である。Intel 18Aは2025年に前倒しされた訳だが、恐らくIntel 3-Tは2026年のままだろう。ただ2027年に予定されていたIntel 18A-Pを2026年に前倒しするのか、あるいは2028年に予定されているIntel 14Aはそこから動かないのか、などは現状全く読めなくなっている。もっと言うなら、この辺はいつ暫定CEOに変わって新しいCEOが着任し、そしてどんな戦略を出してくるかに掛かっている。その辺の見通しが立つまで、何とも言いようがないというのが正直なところである。