お正月の風物詩ともいえるお餅。家族で集まり、祝いの席で振る舞われることが多い食品ですが、その一方で毎年のように餅による事故が報告されています。特に高齢者にとって、餅は窒息など重大なリスクを伴う食べ物となることがあります。

この記事では、長岡技術科学大学准教授であり、燕三条すごろ脳脊髄クリニック 脳神経外科医の勝木 将人先生監修のもと餅による事故が起こる原因や、そのリスクを最小限に抑えるための対策について詳しく解説します。

  • 正月に気を付けたい餅のリスクと対策

■なぜ高齢者は餅を食べたがるのか

筆者の家庭でも、そろそろお餅はやめておこうか……と話をするものの、町内会での餅つき大会で貰ってきたと今年も食べる気満々の祖母がおり、悩みの種です。

お餅は日本文化において縁起物とされており、行事やお祝い事の食べ物として振る舞われてきました。特にお正月には家族の健康や繁栄を願って食べられることが多く、また鏡餅は年神様へのお供えものとして飾り、お正月が終わったら鏡開きをして飾っていた鏡餅を食べる文化が根付いています。

このように高齢者の中には幼少期からの慣習として、お正月には必ずお餅を食べる暮らしをしてきたことから「正月には餅を食べたい」と強い思いを持っている人も多いようです。

餅による高齢者の死亡事故について、消費者庁が発表した平成30年(2018年)から令和元年(2019年)の詳細を分析した資料によると、餅による高齢者の死亡事故の43%(282件)が1月に発生し、特に元旦は67件、正月三が日は合計127件となっています。お正月に集中して餅の事故が発生しているのは明らかで、より一層注意が必要な時期といえるでしょう。

■高齢者にとって餅が危険な理由

高齢者は加齢に伴い、噛む力や飲み込む力が弱くなることが知られています。餅は粘り気が強いため、十分に噛み切れなかったり、喉に詰まらせたりする危険性が高まります。特に義歯を使用している場合や、咀嚼機能が低下している場合は要注意です。

さらに、高齢者では、嚥下(飲み込み)のタイミングが若年層と比べて遅れることがあります。このため、餅が喉の奥に詰まりやすくなり、窒息のリスクが上昇するのです。

また、正月の賑やかな雰囲気の中では、認知機能が低下した高齢者が自身の食べる速度や状況に注意を払えない場合があります。その結果、餅を一度に大きく口に入れてしまったり、噛み切れずに飲み込もうとしてしまうケースが増え、事故につながる場合もあるようです。

■餅の事故を防ぐための対策

危険であると分かっていても、本人の餅を食べたい気持ちに応えたいのが家族としての思い。餅での事故を防ぐ方法として政府広報オンラインでは、餅はあらかじめ食べやすい大きさに小さく切っておくことを推奨しています。

また、水やお茶、汁物などを先に飲んで、喉を潤して食べることもポイントです。なお、うまく飲み込めないからといって、お茶などで無理やりお餅を流し込むのはNG。お茶や汁物はあくまでも唾液の補助として考えるとよいのだそう。

さらに、急いで飲み込まず、少量ずつ口に入れよく噛んで食べるのも重要。噛むことで唾液の分泌が促され、スムーズに飲み込むことができます。

そして高齢者本人には、急いで食べることを避けるよう伝えることが大切です。落ち着いた雰囲気で食事を楽しめる環境作りや、そばで見守り何か異変があればすぐに対処できるよう準備しておくことで、お餅を家族で楽しめるようになるでしょう。

■もしも餅が喉に詰まった場合の応急処置

餅を喉に詰まらせた場合、早急に詰まらせた餅を取り除くことが重要です。咳き込んだり苦しそうにする様子や、チョークサインと呼ばれる声を出せず喉をつかむ動作が見られた場合は、気道異物除去を行います。

咳をすることが可能であれば、できるかぎり咳をさせます。強い咳をすることもできないときには窒息と判断し、大声で助けを呼んで周りの人に119番通報やAEDの搬送を依頼します。救助者が一人の場合、餅を詰まらせた人に反応がある間は、119番通報よりも異物除去を優先しましょう。

気道異物除去の方法には次のようなものがあります。

  • 背部叩打法

・背部叩打法

手のひらの付け根部分で左右の肩甲骨の中間あたりを、数回以上力強く叩きます。

  • 腹部突き上げ法

・腹部突き上げ法(ハイムリック法)

背部叩打法で餅が出てこないときは、次に「腹部突き上げ法」を行います。ただし、この方法は、乳児や妊婦、高度肥満の人には行ってはいけません。

「腹部突き上げ法」は、相手の上腹部を手前上方に強く突き上げて、喉に詰まった餅を取り除く方法です。相手の後ろにまわり、両方の手を脇から通し、ウエスト付近に手を回します。一方の手で握りこぶしをつくり、その親指側をへそより少し上に当てます。その握りこぶしをもう一方の手で握って、すばやく手前上方に向かって圧迫するように突き上げます。

なお、腹部突き上げ法を実施した場合は、腹部の内臓を傷める可能性があるため、救急隊にその旨を伝えるか、速やかに医師の診察を受ける必要があります。

■勝木 将人先生より

お餅は伝統的な日本の食べ物であり、新年を祝うには欠かせない食べ物ですよね。喉につまらせるリスクがあるため、召し上がる際は注意を払ってください。たとえば、一人で食べずに家族といっしょに食べたり、食べる前には飲み物を飲んで口を潤したりしましょう。窒息は命を落とすため、「こんなに小さいと食べごたえがないな」、と思うくらいお餅を小さくして食べるなどしてもよいでしょう。お餅で命を落とさぬよう、新年を楽しく迎えられるように工夫をしましょう。

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