「REDLINE ALL THE FINAL」が終わって3週間が経った。
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いまだに余韻に浸っている。何に一番あてられたかというと、イベント全体の雰囲気だ(自分が参加したのは2日目のみ)。入れ過ぎじゃないかと思うほどみっちみちの大観衆によってほどよく荒れたフロアは、他のイベントであれば何かしらの大きな問題が起こっていたような気がするし、実際、この日も小さないざこざはあったはず。しかし、自分の行動さえ間違えなければ非常に快適に過ごせる空間だった。それだけ「わかってる客」が多かったんだと思う。観客の95%は2日目の出演バンド関連のマーチを身に着けていて、全体的に特定のバンドに偏っていない。あと、なんとなく、変な方向に浮かれた観客はものすごく少なく感じた。現代のパンク・ハードコアのカルチャーの匂いが充満していた。みんなこのシーンを愛しているんだと肌で感じた。
それが確信に変わったのは早かった。オープニングアクトの次、実質1バンド目の出番となるcoldrainの時点で、あのどデカい9ホールから溢れるくらい人が集まっていたのを見たからだ。日曜朝10時半からこんなに人がいるものなのか? しかも、メインステージとなるREDLINE STAGEとBEGINNING STAGEは終日こんな状態。ROTTENGRAFFTYのときにはホールからはみ出した場所でリフトをしている観客が何人もいた。サブステージ的な立ち位置のBODY STAGEとSOUL STAGEでは、時折メインステージの煽りを受けていた時間帯もあったようだけど、基本的にどのバンドも観客に求められていた。これは需要と供給のバランスが完璧だったということだ。
coldrain(Photo by Masahiro Yamada)
ROTTENGRAFFTY(Photo by RUI HASHIMOTO [SOUND SHOOTER])
ちなみに、REDLINEプロジェクトの首謀者はKTRだ。2010年以降、彼はJMSのいち社員という立場で、”限界を超え、すべての境界線を無くすことを目的とする活動体”を目指し、様々な視点を持ちながらこのプロジェクトを続けてきた。このラインナップも彼だからこそ実現した。特定のサウンドに偏らずに幅広く。それでいて主催者の趣味や色がしっかり感じられるとは思わないか。今の日本で「REDLINE ALL THE FINAL」と同様のフェスを開催できる人間は彼以外ひとりもいないと断言できる。
こんなにも稀有なイベントながら、各出演者はMCで彼に変に阿(おもね)ることなく、まっすぐに感謝を伝えているのが見ていて気持ちがよかった。BODY STAGEのトップを担ったCrystal LakeはKTRに対して常に恩義を感じているバンドで、彼との付き合いは10年以上になる。ギタリストのYDはMCで「REDLINEのおかげで今がある」「REDLINEとともにクリスタルはある」とフロアに向けて彼らの絆を伝えた。本当はもっと言いたいことはあっただろうが、その想いすべてを音に詰め込んでいた。だからこそ、彼らのステージはやたらと感動的だったのだ。
Crystal Lake(Photo by Kohei Suzuki)
Crystal Lakeとの歴史は
半端じゃなく長い。
この日のライブの熱量は、
共に歩んできたからこそのパフォーマンスだった。
オレが関わってきたロックバンドの中で、
1番波瀾万丈なバンドだったからこそ、
何度もメンバー脱退という辛い時期を乗り越えて、活動を止めなかったこと、… pic.twitter.com/b8C1TBazr0 — Suzuki Kentaro (@kkktttrrr) December 23, 2024
RIOT STAGEの特別感と親密感
クリスタルもそうだったのだが、「カルチャー」という言葉を使うバンドが目についた。YDは「みんながひとつになってリスペクトし合う、これがパンク・ハードコアのカルチャーでしょう!」と叫んだ。AFJBのステージからも「イケてる奴がいるところからカルチャーは生まれていく」という言葉が聞こえてきた。最近、国内では音楽フェスが乱立していて、そのほとんどが商売っ気の強いものだったり、人気のあるアーティストを集めりゃいいんだろうという思惑が透けて見えたり、そうでなかったとしてもいつメンだらけで、タイムテーブルを見た時点で腹がいっぱいになることが多い。そのせいで、音楽の場所が増えるわりに、カルチャーが感じられる機会はそれに比例していない。だからこそ、この場所では血液レベルで自分が興奮しているのを余計に感じた。
AFJB(Photo by 小杉歩)
幕張メッセでは数多くのフェスが行われているが、REDLINEが特別な存在になったのはRIOT STAGEがあったことがかなり大きい。ここは、サブステージのある11ホールの真ん中に設置されている360度ステージ。フェスでは非常に珍しい形だ。ステージの大きさは初台WALLぐらいだろうか。メンバー、機材、数名のクルーが乗ればもうパンパンという状態。2日目に登場したのは、FOR A REASON、SPARK!!SOUND!!SHOW!!、SHADOWS。それぞれがそれぞれのやり方でこのステージを活かし、バンドが目指すものを観客も尊重しながら暴れ狂っていた。
1組目として登場したFOR A REASONでは、「みんなで全員野球するぞ!」という呼びかけのあとから滝のようなステージダイブが発生。COUNTRY YARDのSitやPaleduskのKaitoも飛び入りし、フロアは完全に混沌としていた。しかし、危険な場面はなく、ぐっちゃぐちゃなのにピースフルという不思議な光景が生まれていたのは、その中心に立っていたのがFOR A REASONだからだろう。
FOR A REASON(Photo by suke)
「ダンスとつくものすべてを肯定しにきました」というスサシでは雰囲気が変わり、混沌としながらもダンスフロア的な遊び場になっていた。音と呼応して自分たちの居心地のいいようにフロアを変えていく群衆が素敵だった。そう、RIOT STAGEで繰り広げられたライブは、「自分たちでこの場所を作る」という性格が非常に強かった。FOR A REASONは巨大なライブハウス、スサシはクラブ、最後のSHADOWSは海外の倉庫みたいな雰囲気だった。どれもほかでは経験したことのない時間だった。これこそがフェスで味わいたい非日常感なんだ。
SPARK!!SOUND!!SHOW!!(Photo by Taka"nekoze photo")
SHADOWSはその前にFACTのライブを終えていたこともあり、これもまた異常な興奮に包まれていた。それによって、パフォーマンスもこの日、この時間にしか生まれ得ない奇跡のようなものになった。これはあくまでも主観だが、RIOT STAGEの3組を観ただけでもこの日幕張に来た意味があったんじゃないかと思ってしまう。わけわかんないぐらい興奮した。
SHADOWS(Photo by Kohei Suzuki)
RIOT STAGE
このステージはREDLINEしかできないステージ。
アーティスト、お客さん、仲間が一つになる瞬間。
SHADOWS
thanx. pic.twitter.com/1Obza25eu2 — Suzuki Kentaro (@kkktttrrr) December 13, 2024
音楽のカルチャーを繋ぐためのフェス
通常、ライブレポートを書くにあたって、いろいろとメモをするのだが、この日に限ってはメモ帳を見返してもそこにはほとんど何も残されていなかった。ピュアに日本のヘヴィミュージックシーンの素晴らしさに感動していたんだと思う。
話は前後してしまうが、FACTへの熱狂はものすごかった。自分は危険を察知して早くからフロアの後方付近で待機していたのだが、時間が迫ってくるにつれて大量の観客が濁流のようにホールに注ぎ込まれてきたのには参った。ライブがはじまってからも曲が終わるごとに濁流が発生。巻き込まれないように必死に堪えた。しかも、あまりの人だかりにステージの様子をうかがうことはまったくできず、ステージとステージの間に設置されていた巨大スクリーンの欠片をたまに捉えることができる程度だった。だからこそと言うべきか、このバンドへの熱量を身をもって感じることができた。
FACT(Photo by Taka"nekoze photo")
バンド同士が臨機応変にステージを行き来するのも楽しかった。前述したほかにも、Paleduskのステージがはじまってすぐに、約15分後にREDLINE STAGEでのライブを控えていたCrossfaithのKoieが飛び入り。まさかの登場に思わず時計を見た。さらに今度は、ライブを終えたばかりのPaleduskのKaitoがさっきのお返しとばかりにCrossfaithのステージに登場。余計な言葉は交わさず、音で会話をする姿勢が渋い。そういえば、昨年開催された「NEX_FEST」にて、自分たちのライブが終わった直後にメインステージにBRING ME THE HORIZONが控えているというタイミングで、「(ブリングミーが待つNEX_STAGEへ)走って行け!」と叫んでいたPaleduskのKaitoだったが、この日はCrossfaithが待つREDLINE STAGEへ走って行けとは言わなかった。「15分後に会おうぜ!」というKoieの言葉に焦った彼は、「行くな! 行くな!」と慌てて連呼。あの伝説的な一日の伏線回収のようで笑った。
Paledusk+Koie(Photo by 小杉歩)
ああ、こういうフェスが増えてほしい。正直、これでREDLINEが幕を下ろすことに不安を感じている。この場所がなくなってしまったら、いったいシーンはどうなるんだろうか。それぐらい素晴らしい一日だったんだ。でも、あの日あの場に居合わせた若者がまた、新しいシーンを立ち上げるんだろう。音楽のカルチャーはそうやってバトンが渡されていくのだ。その一方で、KTRの今後の動きにも注目していきたい。