2024年は“リメイク当たり年”だった。『FINAL FANTASY VII REBIRTH』『ペルソナ3 リロード』『SILENT HILL 2』『ドラゴンクエストIII そして伝説へ…』……、ほかにもたくさんある。リメイクでも新作でも、既存IPのサプライズ復活はファンにとってうれしいものだ。毎年の注目作が表彰される一大イベント「The Game Awards 2024」では、長らく続編が出ていなかった『鬼武者』や『大神』の新作が発表された。

人気作品の新作発表があると、「(作品タイトル) reaction」で動画を検索する。名前も知らない海外の配信者たちが喜んでいる様子を肴に酒を飲むのだ。「うんうん、よかったねぇ」とうなずきながら涙を流す。自分がプレイしたことのないタイトルでも関係ない。

こんなことをするなら、Steamのライブラリに積まれた600以上のゲームを消化するほうがよっぽどいいだろう。なんなら『鬼武者』のリマスター版も『大神 絶景版』も積んだままだ。なのに、作品ファンのエモだけかすめ取りにいく行為をやめられない。不気味である。

さて、そんなリメイクに湧いた2024年。筆者が遊んだゲームは以下の通り。ここから「マイベストゲーム」を考えてみた。

<2024年に遊んだゲームたち>
『ユニコーンオーバーロード』
『真・女神転生V Vengence』
『FINAL FANTASY VII REBIRTH』
『ドラえもんのどら焼き屋さん物語』
『メタファー:リファンタジオ』
『Buckshot Roulette』
『ペルソナ3 リロード』
『パルワールド』
『Mad Island』
『VR Chat』
『SILENT HILL 2』
『Ghost of Tsushima DIRECTOR'S CUT』
『LEGO ホライゾン アドベンチャー』
『未解決事件は終わらせないといけないから』
『ロマンシング サガ2 リベンジオブザセブン』
『Mouthwashing』
『ドラゴンクエストIII そして伝説へ…』
『STREET FIGHTER 6』
『Darkest Dungeon』
『勝利の女神:NIKKE』
『崩壊:スターレイル』
『原神』

2024年はまさかリメイクされるとは思ってもみなかった、思い入れのあるゲームがリメイクされた。初出のリリースを見た瞬間、海外配信者のように全身で多幸感あふれる感情表現ができるかと思ったが、実際には「オッホ♡」という喘ぎ声一発、日本人らしく奥ゆかしさのあるリアクションしかできなかった。ままならないね。しかし、今年のベストゲームであったことは間違いない。

2024年のマイベストゲームは『Mouthwashing』『ドラえもんのどら焼き屋さん物語』『ロマンシング サガ2 リベンジオブザセブン』の3つ。多少のネタバレを含みます。

『Mouthwashing』~責任から逃げま賞~

私事で恐縮だが、睾丸の病気を患った。……待って! すぐにゲームの話につながるから。少し待ってほしい。

始まりは違和感からだった。常に収まりがよくない感じが続く。タマの調子が良くないと、日常のすべてが睾丸の違和感に上塗りされる。

「銭湯に行きたい……。でもキ◯タマを温めすぎるのはまずいかも。見送ろう」
「スト6をやろうかな……。でもアケコン(バカでかく重いコントローラー)を膝に置くとキン◯マに負担がかかる。やめておこう」
「キンタ〇が痛い。仕事ができない」

日数が経つにつれ、違和感は徐々に痛みへと変わっていく。焦った私は泌尿器科に駆け込んだ。

触診が始まり、医者が金玉を押す。激痛が走る。医者が「痛いでしょう?」と聞いてきた。まるで人の痛みがわからない子どもに“痛み”という概念を教え諭すような聞き方で。「痛いとわかってるのになぜ……?」と思いながら私は「っす……」と絞り出すしかなかった。

本題はここから。エコー検査によって映し出された金玉の白黒と、医者が持つエコー検査用の器具を見て、衝撃が私を貫いた。これ、ゲームで見たわ!

  • マイ・ベストゲーム2024

    「The Tulpar(タルパ)に所属する5人は、永遠の日没に包まれた何もない宇宙空間に取り残されてしまった。ここには、神の目も届かない」(Steamの作品紹介より)

それが1つ目のゲーム『Mouthwashing』だ。一人称視点のSFホラーアドベンチャーゲームだ。Steamでは2024年9月の発売から一貫して96%以上のユーザーから高評価を得ている「圧倒的好評」をマーク(2024年12月現在)。コアな人気を集めている。

初代Playstationのようなローポリゴンのビジュアルデザインが特徴的な本作。謎解きやアクションなどはほとんどなく、たまにミニゲームがある程度。ストーリーテリングに比重が置かれたアドベンチャーだ。

舞台は予期せぬ事故により宇宙空間を難破中の宇宙貨物船「タルパ号」。事故を引き起こしたらしい船長は四肢も皮膚も失い、生きてはいるが話すことはできない状態だ。サバイバル状況下で、ほか4名の乗組員たちは生き延びるための物資を探すが、見つかったのは貨物として積まれていた大量の洗口液「マウスウォッシュ」だけ。乗員たちは破滅へと追い込まれていく。

  • マイ・ベストゲーム2024

    「タルパ号」の乗組員たちはクソみたいな労働条件で働きながら、さらに悲惨な状況へと追い込まれる

  • マイ・ベストゲーム2024

    国籍、年齢、事情もさまざまな乗組員たち

  • マイ・ベストゲーム2024

    目的のためには仲間を裏切ることも。ただし良い結果を招くとは限らない

プレイしていて楽しいゲームではない。事態が好転することはなく、取り返しのつかないことをしてしまった誰かのツケを、淡々と払い続けるのみだ。

うんざりするような話が続くが、構成の工夫がプレイヤーを引き込む。ストーリーは宇宙船衝突の事故が起きる瞬間を起点に、衝突前の日々と衝突後の日々が交互に描かれる。衝突前の船長視点。衝突後の乗組員視点。それぞれの視点を通して、ある人間のエゴが徐々に浮き彫りになり、なぜ宇宙貨物船は衝突するに至ったのか、真相が明らかになる。

犯人当てのように書いてしまったが、ミステリ要素があるわけではない。エゴが暴走して狂ってしまった、とはいえすべてが狂気のせいとも片付けられない生々しい弱さを持つ人間が追い詰められる過程を追体験する。そんなゲームだ。

心に残るのは、悲惨な状況下で少しでもマシな人間であろうとするクルーの姿。無能でも、ただいてくれるだけで救いになった部下を指して「忌々しい日差しみたいな役立たず」と呼んだ中年スウォンジーが私のお気に入り。3時間以内に終わる短いゲームプレイの中で、印象に残るセリフがいくつもある。圧倒的好評も納得だ。

で、本作の数少ないミニゲーム要素の1つとして、エコー検査を行う場面がある。プレイ時には何をすればいいかわからず戸惑ったが、今ならわかる。

宇宙貨物船の中で、いったい何をエコーで検査するのか。その正体はぜひプレイして確認してほしい。ちなみに金玉ではない。いや、金玉でもある……? そもそも金玉がなければ……? 責任を被るほどのタマが彼にあれば……?

最悪な状況の中で、マシな選択肢を選び取ることもできず、さらに最悪な顛末へと向かう主人公を見て、私は医者に金玉を握られたときと同じく、「っす……」と絞り出すしかなかった。

  • マイ・ベストゲーム2024

    カーリーは船長(包帯ぐるぐる巻き男)。ジミーはカーリーの旧友。この2人が物語の軸となる

  • マイ・ベストゲーム2024

    ときおり挟まるエ◯ァ風の演出。責任は本作のテーマの1つ

  • マイ・ベストゲーム2024

    どの乗組員も例外なく、限界が訪れる

『ドラえもんのどら焼き屋さん物語』~生きのびま賞~

『Mouthwashing』の結末を見て思い出したのが、藤子・F・不二雄の短編漫画『カンビュセスの籤』だ。結末を伏せてあらすじを紹介する。

紀元前、兵站を絶たれたアケメネス朝ペルシアの軍隊は、くじに当たった兵士を殺して食料にする決断を下す。くじに選ばれた兵士・サルクは、食料になる責務を拒否して逃亡を試みる。

逃走中、サルクは次元の歪みに迷い込む。抜けた先は、終末戦争によって地球上のあらゆる生命が滅亡の岐路に立たされていた未来の世界だった。サルクは、人類(というか全生命)唯一の生き残りである少女・エステルと出会い、介抱される。

共同生活を送る2人。食卓に上がるのは謎の食料「ミートキューブ」。動物も作物もない不毛の土地で、なぜ肉が手に入るのか。実はエステルもまた、サルクと似た極限状態を生き延びてきたのだ。自己犠牲の不条理から逃げたはずのサルクは、再び別の地獄に直面することになる――。

このミートキューブを好きな相手にプレゼントできるのが、2本目のゲーム『ドラえもんのどら焼き屋さん物語』。藤子・F・不二雄作品のキャラクターが勢ぞろいするファン必携の経営シミュレーションだ。開発は数々の経営シミュレーションを手掛けてきたカイロソフトである。

  • マイ・ベストゲーム2024

    モジャ公もいればトリホーもいるぞ

タイトルそのままに、のび太とドラえもん、その他の“いつメン”がどら焼き屋さんを経営する本作。開業間近に手をケガしてしまった哀れなどら焼き職人に代わって、のび太とドラえもんが開業から事業継続まで一気通貫で伴走するストーリーだ。2人の最初の仕事はなんと、どら焼き屋の命名。開業前から店が乗っ取られることってあるんだ……。

客の呼び込みやどら焼きの改良にとどまらず、1年目から大福や餅など新商品開発にはげみ、施設を拡張するなど、積極的な拡大路線を走るのび太たちを前に、もはやどら焼き職人の立場はない。たまに「コロッケ屋を店内に作れ」というキテレツな依頼を寄せる常連客の要望にもこたえ、非関連多角化を推進。のび太たちは練馬区月見台に一大地場産業を築く。数年も経てば自ら「ファウンダー」を名乗りそうな勢いである。

どんな無茶な経営をしても、放置していれば売上は上がるので、シミュレーションに不慣れでも問題なく遊べる、ほどよい難易度。なによりもドット絵で描かれた数々のキャラクターがせわしなくどら焼きを買い求めに来るのを眺めるのが楽しい。『エスパー魔美』『パーマン』『ウメ星デンカ』――。常連客はみんな、藤子・F・不二雄作品のキャラクターだ。

私はそれなりに藤子・F・不二雄好きのつもりだったが、プレイしてみると浅学に恥じ入るばかり。『てぶくろてっちゃん』はじめ、半分以上は知らないキャラクター。見た目のカジュアルさに反して、藤子・F・不二雄のコアなファンであればあるほど楽しめるであろう、ガチなこだわりも魅力だ。

  • マイ・ベストゲーム2024

    「お手伝いします」……?

  • マイ・ベストゲーム2024

    菓子販売だけでなく、プレイスポットや土木用ロボット、某ホテルもびっくりな自己主張の激しいVIP席など、なんでもあり。もはやお手伝いの域を完全に超えている

  • マイ・ベストゲーム2024

    経営を助けてくれる「ひみつ道具」の数々。どら焼き職人の手の怪我をタイムふろしきで直そうなどと思ってはいけない。すでにのび太とドラえもんの店なのだから

藤子・F・不二雄作品への愛が感じられる本作。そこに突如現れるミートキューブ。いったい、なぜ……?

本作は常連客にアイテムをプレゼントできる。中にはキャラクターゆかりのアイテムもあり、キャラクターに合ったアイテムを贈れば、特殊なイベントや効果が発生する。『パーマン』に「マント」、『ウメ星デンカ』に「つぼ」というように。これもまたファンとしての知識が試される楽しい仕様だ。

当然、エステルにはミートキューブだ。ミートキューブは「食材探し」というコマンドを選ぶことで拾える。うーん、これは人の心がない青狸。エステルもエステルで、普通に受け取る。やっぱり滅亡直前の人類のソウルフードはミートキューブよ。

ところで『Mouthwashing』と『カンビュセスの籤』はまったく違う構図・意味合いではあるが、命を賭けて責務を託すという共通点がある。次に紹介するゲームの主人公たちもその系譜に連なる。

  • マイ・ベストゲーム2024

    無垢な目でミートキューブを渡すドラ公

  • マイ・ベストゲーム2024

    てんとう虫コミックス風のキャラクター図鑑。いい

  • マイ・ベストゲーム2024

    人間はミートキューブを嫌がる一方で、キー坊(てんとう虫コミック33巻「さらばキー坊」、大長編「のび太と雲の王国」に登場)などは気にせずもらってくれる。本当はただの肉に過ぎないと思っている人類を、のび太とドラえもんへの恩義の一点で救ってくれたキー坊の徳の高さに改めて感じ入った

『ロマンシング サガ2 リベンジオブザセブン』 ~刺し違えてでもやりま賞~

2024年、私にとってのベストゲームは『ロマンシング サガ2 リベンジオブザセブン』。開発会社は『聖剣伝説3 TRIALS of MANA』などを手掛けた株式会社ジーンだ。

  • マイ・ベストゲーム2024

    まさかリメイクされるとはね

唐突にリメイクの発売が発表された直後は、不安に感じる部分もあった。思い入れが深いと、原作を超えるクオリティをイメージできない。

原作の『ロマンシング サ・ガ2』は1993年にスーパーファミコン(SFC)向けに発売された、スクウェア(現スクウェア・エニックス)開発のRPG。子どものころにプレイした当時は何回も“詰み”の状況に陥り、クリアを諦めて新しいデータで始める、を何度も繰り返した。

ゲームデバッグのバイト面接でやり込んだゲームを聞かれ「ロマサガ2を50周遊びました!」とアピールしたこともある。それは完全に盛っていたことをここに告白するが、それぐらい繰り返し遊べるゲームだった。

本作の主人公は帝国を治める皇帝。領土を拡大しながら、因縁の相手を倒す、何世代にもわたる叙事詩だ。

このゲーム、とにかく敵が強くて考えなしに進めるとあっさり全滅するのだが、実はゲームオーバーに至るケースはあまりない。なぜなら、主人公である皇帝が死んでも、パーティが全滅しても、ゲームは続くからだ。

それが「皇帝継承システム(継承法)」。たとえ先代が倒れても、次の皇帝候補者に能力が引き継がれる。新生皇帝は、一からパーティ編成や装備、戦術を見直し、先帝の無念を晴らす。この試行錯誤が楽しい。

皇帝たちは帝国の礎になる覚悟が決まっているので、「ボスは差し違えてでも私が倒し、あとを継ぐ者にまかせましょう」と平気でのたまう。ミートキューブになるのも食べるのも、歴々の皇帝ならためらいはないだろう。継承法のおかげで、プレイヤーは周回のたびに、違う皇帝、違うパーティの組み合わせで遊べるので飽きない。

フリーシナリオも、何度もプレイを楽しめる大きな要素の1つ。ストーリーを進める上で、どの地方から進めても構わないし、ストーリー中で発生する選択肢もどれを選んでも構わない。無責任な選択肢を選べば、相応に苦しい道のりが待っていることもある。それでも『Mouthwashing』のあいつとは対照的に、皇帝の責務から逃れることは基本的にできない。苦境を乗り越える楽しみが待っている。

ここまでは原作の魅力。ではリメイクはというと、原作の魅力はそのままに、洗練された面白さで、期待を大幅に超えてきた感涙の出来だった。

  • マイ・ベストゲーム2024

    画像は原作のSwitch向けリマスター版

  • マイ・ベストゲーム2024

    新たに3D化して生まれ変わった……だけじゃない!

  • マイ・ベストゲーム2024

    次代皇帝を選ぶ時間が楽しい。クラスごとにアビリティ・陣形が追加されるなど、やりこみ要素が増えた

まずバトルのテンポの良さがいい。3D化して技や術の演出が派手になると、SFC時代のゲームと比べてテンポが間延びしてもおかしくない。ところが本作はSFC版をプレイしているのと遜色ないテンポ感が楽しめる。演出時間の調整はもちろん、SEやエフェクトにもこだわりが感じられる。

リメイクで新たに加わった弱点システムも、テンポの良さに貢献している。ほとんどの敵は4~8種類ぐらいの弱点を持っているので、プレイヤーは常に弱点を突くことを意識しながらコマンドを選んでいく。おかげで、雑魚戦でもボタンをポチポチ押す作業感が薄れる。原作では特定の武器種の独壇場だったところを、すべての武器種に活躍の場が与えられているのもいい。

演出もイイ。どちらかといえば原作は過剰に説明しないドライな演出が特徴的だったが、本作ではドット絵で描かれなかった部分の細かい演出が加わっている。そのどれもが、くどくならない長さで、かつストーリーの奥行きを感じさせる。家族の弔い合戦に向かう父が、息子に声をかけるのをためらう姿とかね。いたるところで、スタッフの原作愛が感じられる。にもかかわらず、こだわって作ったであろうムービーシーンを、初回プレイから台詞送り、スキップできる仕様にしている心配りも、潔くてしびれる。

さらに……いや、長くなりすぎるから、ここまででやめておく。

SFC版を遊ぶ代わりに、今後はリメイク版を遊ぶかも。そう思わせるぐらいのクオリティだった。旧作ファンも興味を持った方もぜひプレイしてみてもらいたい。

  • マイ・ベストゲーム2024

    無責任な選択肢を選ぶと、相応の結果が待っている。だがそれも楽しい

  • マイ・ベストゲーム2024

    シンボルエンカウントは健在。等身大のゼラチナスマターから逃げろ

  • マイ・ベストゲーム2024

    大学など、付属施設も原作よりパワーアップ。クイズも大幅増量

冒頭に挙げた『FINAL FANTASY VII REBIRTH』『ペルソナ3 リロード』『SILENT HILL 2』も素晴らしかったが、『ロマンシング サガ2 リベンジオブザセブン』はまさに継承法の体現ともいえる出色の出来。最も思い入れのあるゲームが、最高の形でリメイクされて、もうこれ以上望むものはない……。といえば嘘になる。

『カンビュセスの籤』でミートキューブの秘密を知ったサルクは「なぜそんなにまでして生きねばならぬのだっ」と激昂する。対するエステルは「1人生きのびれば充分なの」とこたえる。1人が生き延びれば、遺伝情報をたどって全生命を復活させるきっかけになれるかららしい。

というわけで『ロマンシング サガ2 リベンジオブザセブン』が素晴らしい形で蘇ったので、ほかのサガシリーズのリメイクへと続いていくことを祈ろうと思う。お願いします!