CureAppで減酒治療アプリの開発を担当する宋龍平医師が、1か月間の禁酒をすることで得られる効果や禁酒のコツを解説している。
心と体をリセット「ドライジャニュアリー」とは
もうすぐ新しい年が始まる。この時期、多くの人が新たな目標や健康的な習慣をスタートさせたいと考えているのでは。ドライジャニュアリーは、新年を健康的にスタートするために1月の1か月間アルコールを飲まないようにする取り組み。1か月間アルコールを摂取しないことによる変化を体感し、最終的には健康的な生活習慣を築くための行動変容を促すことを目的としている。
2013年頃、Alcohol Change UKによりイギリスで始まったキャンペーンで、2023年には17万5000人が参加登録した。また、英国成人2000人を対象としたアンケート調査では調査参加者の17%が1月に禁酒する予定と回答し、大きな広がりをみせている。近年、日本でも健康志向の高まりとともに、ドライジャニュアリーが認知され始めており、飲食店でのノンアルコール飲料の提供やイベントなど様々な企画が行われている。
ドライジャニュアリーの効果
1か月間の禁酒をすると身体的、精神的にも幅広く様々なメリットがあるという。1か月間禁酒をしたグループと飲酒を継続したグループを比較し、禁酒の効果を調べた研究について、以下で詳しく紹介する。
1.インスリン抵抗性の改善
インスリンには血糖値を下げる働きがあるが、アルコールを摂取することでインスリンに対する感受性が低下し(インスリン抵抗性)、血糖値が下がりにくくなる。その状態が長く続くとインスリン分泌機能が低下し、Ⅱ型糖尿病を引き起こしやすくなる。1か月間禁酒をすると、インスリン抵抗性を評価する指標のひとつであるHOMA scoreが禁酒前に比べて統計的に有意に減少したことが確認されている。
2.血圧低下
1か月間禁酒をしたグループは収縮期血圧が中央値136から125へ、拡張期血圧が中央値89から82へと、禁酒前に比べて有意に低下した。
3.体重減少
1か月間禁酒をしたグループでは、体重も有意に減少した。見過ごしがちだが、お酒にはカロリーが含まれており、特にビールや甘いカクテルには高カロリーのものもある。さらに、一緒に食べるおつまみや食事により過剰にカロリーを摂取している可能性があり、アルコールを控えることでカロリー摂取量が減り、体重管理がしやすくなると考えられる。
4.がんに関わる成長因子の減少
がんに関わる成長因子であるVEGF、EGFも1か月間禁酒をしたグループで減少した。飲酒は複数のがんの発生リスクを高めることが分かっている。
5.肝機能の改善
アルコールは肝臓で分解される。習慣的な多量飲酒は、アルコール性肝障害のリスクを高める。1か月間の禁酒によって、肝機能を評価する指標のひとつであるγ-GTPが中央値22.5から15.0へと低下した。
6.コレステロールの低下
総コレステロールが中央値228.7から202.1へ、LDLコレステロールも中央値131.5から127.0に低下した。
7.その他のメリット
Alcohol Change UKの調査によると、参加者の70%が睡眠の質が上がったと回答している。アルコールは寝付くまでの時間を短縮させるが、睡眠の質を悪化させる。アルコールを控えることで、睡眠がより深く質の高いものになる効果が期待できる。また、アルコールは一時的なリラックス効果があるが、長期的には気分の落ち込みやイライラの原因になることがある。アルコールを控えることにより、ストレスや不安が減り、精神的な安定が得られやすくなる可能性がある。
その他に、経済的にもメリットがある。アルコール代を節約できるのはもちろんのこと、飲み会や外食の頻度が減ることもある。その分、健康的な食材やリラックスできる趣味へ投資することにより、健康的な生活習慣を築くきっかけにもなる。
ドライジャニュアリーを成功させるために
1か月間の禁酒を成功させるためには、計画を立てたり、楽しく続けられる工夫を取り入れることが大切。禁酒を成功させるコツをいくつか紹介する。
1.アルコールを家におかない
アルコール類の買い置きをやめること。禁酒する計画を立てたら、実践する前に自宅のアルコール飲料は処分しておく方が良いだろう。
2.ノンアルコール飲料を楽しむ
現在ノンアルコールカクテルやビールは手に入りやすくなっており、多くの飲食店で提供している。自宅でノンアルコールカクテルを手作りして楽しむ方法もある。炭酸水にミントや果物を加えるだけでも、楽しむことができる。
3.飲酒の代わりになる習慣を見つける
飲酒がリラックスの一環になっている人は、代替の趣味を見つけたい。ストレッチや軽い運動、読書、映画鑑賞など心地よく過ごせる時間を作ると、飲酒欲求を自然と減らすことができる。
4.家族や友人に宣言する
家族や友人に宣言すると、応援してもらえたり、お酒の誘いを断りやすくなる。また、一緒に禁酒に挑戦する仲間を得ることができれば、お互い励まし合うことでより成功率が上がる。
5.あきらめないこと
もしお酒を飲んでしまっても、罪悪感を抱く必要はない。翌日からまた始めれば良いだけだ、と宋先生は述べている。
健康的な飲酒習慣の継続のために
飲酒習慣のある人にとって、1か月間の禁酒をすることにより、身体的、精神的なメリットを多く感じることができる。しかしながら、これらのメリットは禁酒期間中だけの短期的なものではない。禁酒したグループのフォローアップを行った結果、半年後も引き続きアルコール消費量が減っていたことが分かった。WHOにより開発された問題飲酒者のスクリーニングテストであるAUDITの結果が有意に改善していた。このことから、1か月間の禁酒がきっかけで、長期的な習慣の改善に結びついていることがわかる。禁酒期間中に、飲酒頻度や飲酒量を自分自身でコントロールする術を身に着けることができ、減酒につなげられた人が多かったと考えられる。ドライジャニュアリーで得られた気づきや変化を大切にし、無理のない形で習慣を継続することが、減酒や、ひいては将来の健康にも繋がる。