東京商工リサーチは12月25日、全国「旅館・ホテル業」2023年度業績調査の結果を発表した。本調査は、同社の企業データベース(約400万社)から、日本産業分類(細分類)の「旅館・ホテル業」を対象に、2023年の業績(2023年4月期~2024年3月期決算)を最新期とし、5期連続で売上高、利益が判明した1,453社を抽出、分析した。
売上高はコロナ禍からV字回復
全国の主な旅館・ホテル1,453社の2023年度の売上合計は、3兆2,213億9,200万円(前期比25.1%増)、最終利益は2,522億3,100万円(同211.9%増)だった。売上高の伸びは、利用客の増加に加え、単価上昇(値上げ)の寄与が大きいとみられる。利益は前期比3.1倍と売上の伸びを大きく上回った。2023年度の最終利益率は7.8%で、前年度3.1%から4.7ポイント上昇した。
売上高5億円未満が約6割
売上高別では、1億円以上5億円未満の456社(構成比31.3%)が最も多かった。次いで、1億円未満の442社(同30.4%)、10億円以上50億円未満の255社(同17.5%)と続く。5億円未満が全体の約6割(同61.8%)を占め、売上高100億円以上の大手と、地域に特化した中小・零細規模に二分化した構造になっている。
売上高増減別 増収企業が7割超
2023年度の売上高増減は、増収が1,124社(構成比77.3%)に対し、減収は171社(同11.7%)、横ばいが158社(同10.8%)だった。2023年度の売上高伸長率は、10~100%未満が800社(同55.1%)、0~5%未満が287社(同19.7%)だった。旺盛なインバウンド需要を背景にした価格上昇が寄与したほか、労務費の上昇などに対する宿泊価格への転嫁が進み、売上高を伸ばした企業が多かった。
損益別 黒字企業が7割超
最終損益が黒字の企業は1,075社で、7割(構成比73.9%)を占めた。コロナ禍の影響が濃かった2021年度の653社(同44.9%)から29.0ポイントアップした。2022年度(同60.9%)と比較しても13.0ポイントアップした。赤字は378社(同26.0%)で、2021年度の800社(同55.0%)、2022年度の568社(同39.0%)からの改善が顕著だった。
業歴別 50年未満が約半数
業歴別は、最多が10年以上50年未満の725社(構成比49.9%)だった、次いで、50年以上100年未満の549社(同37.7%)、5年以上10年未満の94社(同6.4%)と続く。100年以上の老舗は84社(同5.7%)ある。新規業者が参入する一方で、特定の地域に根差した強みを発揮した老舗の健闘も目立った。
従業員数別 100人未満が8割超
従業員数別は、50人未満が最多の1,044社(構成比71.8%)で、次いで100人以上500人未満が186社(同12.8%)、50人以上100人未満の165社(同11.3%)と続く。従業員数100人未満の中小企業が1,209社(同83.2%)と8割を超えた。
資本金別 1億円未満が約9割
資本金別は、1千万円以上5千万円未満が593社(構成比40.8%)で、次いで、1百万円以上1千万円未満が394社(同27.1%)、5千万円以上1億円未満が195社(同13.4%)だった。資本金1億円以上は、148社(同10.1%)にとどまり、個人企業も含めた資本金1億円未満が1,305社(同89.8%)を占めた。
地区別売上高増減 近畿地方がトップ
地区別の売上高増減は、増収トップは近畿の88.2%。次いで、東北の84.9%、北海道の84.3%と続く。近畿は、観光庁の「訪日外国人消費動向調査」都道府県別訪問率ランキングで上位の大阪や、京都、奈良など人気の観光地があり、他地区よりも売上高が伸長したものとみられる。一方、中部64.7%、北陸68.6%と7割に届かない地区もあり、地域によって差が出た。国内外へのインパクトのある観光地の存在と広報活動の重要性が増しているようだ。
地区別損益 関東地方がトップ
地区別の黒字企業の割合は、関東がトップの79.7%だった。以下、九州78.0%、北海道77.5%と続く。インバウンド需要や国内旅行が堅調な地域で黒字を確保した企業が多い。黒字率が低かった地区は、中国53.3%、北陸62.9%、東北69.0%だった。宿泊価格だけでなく、観光資源の付加価値向上の取組みも必要かもしれない。