年間およそ10万人が亡くなっている「脳卒中」。日本人の死因第4位であり、寝たきりや介護が必要になる主な原因の一つです。また、脳卒中は特に冬に起こりやすいと言われています。今回は、脳卒中の症状や冬に要注意である理由、予防法について解説します。
■脳卒中はどんな病気?
脳卒中は、脳の血管が破れたり詰まったりして脳の一部の働きが悪くなり、さまざまな症状を引き起こす病気です。脳の血管が破れたり詰まったりするのは、長年の生活のゆがみで生じた生活習慣病によって知らぬ間に心臓や全身をめぐる血管が傷み、最終的には脳の血管がダメージを受けることが原因です。
また、脳卒中には血管が詰まって起こる「脳梗塞」、血管が破れて起こる「脳出血」「くも膜下出血」の3つの病気が含まれています。これらいずれの病気においても、半身まひや言葉の障害、意識の障害など、脳卒中に共通する症状が現れますが、病気の起き方が違うため、治療法や病気の経過は異なります。
<脳梗塞>
脳梗塞は、脳卒中の過半数を占める病気です。脳の血管が詰まって血流が充分に脳細胞に行き渡らなくなると、すぐに脳細胞の働きが悪くなり、半身まひなどの症状が出ます。
血流が悪いまま数時間程度経過してしまった場合、脳細胞は死んでしまい、生き返ることはありません。反対に、数時間以内に血流を戻すことができれば、脳細胞の働きも元に戻り、脳卒中の症状が軽くなったり消えたりすることが期待できます。
<脳出血>
脳出血は、脳の血管が破れる病気です。くも膜下出血や硬膜下血腫との区別をわかりやすくするため、「脳内出血」と呼ばれることもあります。脳出血は脳梗塞よりも後遺症が残るケースが多く、脳梗塞より死亡率も高いです。
<くも膜下出血>
くも膜下出血は、「脳動脈瘤」という血管のふくらみが突然破れ、頭痛や意識障害などの症状が現れる病気です。脳動脈瘤とは、脳動脈の血管壁が薄くなったりもろくなったりすることで、そこが膨らんで血液が入り込み、コブのような形状になったものです。このコブが破裂すると、くも膜下出血になります。くも膜下出血は脳卒中の中では死亡率が高く、重症の脳卒中です。
■脳卒中の症状
脳卒中は、脳の障害される部位によってさまざまな症状が現れますが、代表的な症状を覚えておくことが大切です。特に、3つの症状(顔のまひ、腕のまひ、言葉の障害)を取り上げたFAST(Face=顔、Arm=腕、Speech=言葉、Time=すぐに)という標語もよく使われています。
「顔の片側が下がって動かない」「片側の腕に力が入らない」「呂律が回らない・言葉が出ない・他人の言うことが理解できない」などの症状が出たら、脳卒中を疑いすぐに救急車を呼びましょう。こうした脳卒中の初期症状に対する対処は、「ACT FAST」(迅速に行動する)として呼びかけられています。
■脳卒中が冬に起こりやすい理由
脳卒中について、「冬に起こりやすい」というイメージを持つ人も多いでしょう。脳卒中のうち脳出血は冬に多い病気ですが、脳梗塞の季節差については研究者によって見解が分かれるようです。ただし、心臓病や全身血管病のほとんどは冬に多い病気であり、心臓病を原因とするタイプの脳梗塞も同様に冬の病気と言うことができそうです。
そして寒い冬の時期は、「ヒートショック」による脳梗塞に特に注意が必要です。ヒートショックとは、お風呂で湯舟に入った時などの急激な温度変化によって血圧が大きく変動し、心筋梗塞や脳梗塞などを起こす健康被害のことです。
室温が10度前後の浴室で裸になると、血圧は一気に上昇し、心筋梗塞や脳卒中の引き金になると言われています。さらに、寒い浴室で冷えた体のまま熱い湯船に入ることで、今度は血圧が急激に低下し、血圧が乱高下してしまいます。浴槽内で失神すると、溺れて亡くなることもあるため非常に危険です。
ヒートショックを防ぐには、入浴前に脱衣所や浴室を暖める、食事直後・飲酒時の入浴を控える、異変に早く気づいてもらうため、入浴時に家族に声がけをお願いするなどの対策が有効です。
■脳卒中を予防するには
脳卒中にかかりやすい要因を「危険因子」と呼びます。脳卒中の危険因子には以下のようなものがありますが、いずれも生活習慣を見直したり、適切な治療を受けたりすることで、コントロールが可能です。
<高血圧>
高血圧とは、血圧が140/90mmHg以上のことです。高血圧は脳の血管の大きな負担となり、血圧が高いほど脳卒中の発症率は高まりますので、血圧を下げることが脳卒中の予防には効果的です。塩分を多く摂るほど血圧は高くなりますので、食事の際は塩分を少なくすることを心がけましょう。
<糖尿病>
脳梗塞の発症を予防するには、糖尿病の血糖管理だけでなく、高血圧や脂質異常症、肥満などの管理とあわせて包括的にコントロールすることが大切です。
<脂質異常症>
脂質異常症とは、血中のコレステロール値や中性脂肪値が高すぎる、または低すぎる状態です。脂質異常症を発症しこれが進行すると、動脈硬化を招き、さらには脳卒中や心筋梗塞を引き起こす可能性があります。
脂質異常症による脳卒中を予防するには、コレステロール値を適宜計測し、管理することが大切です。特に悪玉コレステロールが高い人は、脂肪の摂取をできる限り制限する努力をしましょう。
<不整脈(心房細動)>
心房細動とは、心臓が正常に血液を送り出さないことにより、血球が滞留してお互いがくっついてしまい、心臓の左心耳と呼ばれる部分に血栓が形成されることです。その血栓がはがれて脳へ血液を運ぶ血管をふさいだ場合、脳への血液供給が妨げられ脳卒中が起こります。
そのため、心房細動の早期発見や、脳卒中リスクを低減するための治療が重要です。
<喫煙>
ニコチンは血圧を高め、動脈硬化を促進すると言われています。また、脳梗塞やくも膜下出血の危険因子となり、喫煙本数が増えると脳卒中の発症リスクが高まります。5〜10年間の禁煙で脳卒中のリスクは低下するため、禁煙が重要です。受動喫煙も危険因子となりますので気を付けましょう。
<飲酒>
たまにお酒を飲む程度の機会飲酒に比べ、大量の飲酒習慣(エタノール450mg/週以上)は脳卒中の発症率を68%増加させ、特に脳出血やくも膜下出血のリスクを引き上げます。大量の飲酒習慣は控えましょう。
最後に脳卒中の予防法に関して、脳神経内科の専門医に聞いてみました。
脳卒中は脳梗塞、脳出血、くも膜下出血があり、疾患ごとに原因が異なり、高血圧、脂質異常症、糖尿病、喫煙などが原因となります。その中でも、高血圧と喫煙は共通する原因となるため特に注意する必要があります。これらは定期健診で指摘されることが多く、適切な対処が可能です。食生活や運動習慣の改善によって予防が期待できます。
健診で指摘されにくい病気は心房細動(特に一過性)と脳動脈瘤です。心房細動は巨大な脳梗塞の原因となりやすく自身の脈のリズムが不整となる不整脈です。持続性と一過性があり、持続性は健診で指摘されますが、一過性は普段は通常の脈に戻っており指摘できない場合があります。普段から動悸症状に気を付け、脈のリズムをチェックすることが重要です。
脳動脈瘤は破裂するとくも膜下出血の原因となりますが、破裂しない限り無症状であることが多いです。遺伝的素因も関連するといわれているので、家族にくも膜下出血を発症している方は脳ドッグを受けることを強くお勧めします。