年末年始の帰省で久しぶりに親の顔を見て、「あれ? 少し老けた?」「前より元気がない気がする」と感じる人も少なくないだろう。元気そうに見えていても、気づかないところで加齢による変化が進んでいることも。前編では、帰省で親の変化に気づいた際のチェックポイントを、LIFULL介護編集長の小菅秀樹さんが指南した。引き続き、親の介護に向き合うための“初めの一歩”を解説していこう。
▼親の「大丈夫」はだいたいアウト…“親の変化”のサインを見逃さないチェックリスト
「介護サービスを利用したい!」と思っても、すぐに使えるわけではありません。通常は要支援・要介護認定を受ける必要があり、その後ケアプランの作成やサービス事業者との契約を経て利用開始となります。流れを理解しておくことでスムーズに手続きを進めることができます。
■介護サービス利用の第一歩! 知っておきたい手続きの流れ
①要支援・要介護認定を申請する
介護保険サービスを利用するためには、まず要支援・要介護認定を受ける必要があります。申請は地域包括支援センターや市区町村の窓口で行います。事前に「介護保険証番号」「主治医の連絡先」「親のマイナンバー」など必要な情報を準備しておくとスムーズです。
②認定調査を受ける
申請後、行政から委託された調査員が親の生活状況を確認しに訪問します。調査では、「日常生活でどの程度困っているか」を具体的に伝えることが重要です。調査内容は要介護度の判定に直結するので、家族も立ち合い、困りごとを具体的に伝えましょう。
③要介護度の判定
認定調査の結果と医師の意見書を基に審査が行われ、要支援または要介護の判定が下されます。この結果によって、利用できる介護サービスの種類や頻度が決まります。判定が出るまで1~2か月ほどかかり、結果が出たら次のステップに進みます。
④ケアマネジャーと契約し「ケアプラン」を作成
要介護認定を受けた後は、ケアマネジャーと契約してケアプランを作成します。ケアプランとは、どの介護サービスを利用するかを決めた計画書のこと。専門知識が必要なためケアマネジャーに任せるのが安心ですが、自分で作成する「セルフケアプラン」という方法も選択可能です。
⑤介護サービスを選ぶ
ケアプランが決まったら、親に最適な介護サービスを選択します。在宅介護では、訪問介護やデイサービス、福祉用具の貸与など多彩な選択肢があります。たとえば、訪問介護では身体介助はもちろん、掃除や買い物のサポートを受ける、デイサービスでは半日ほど滞在して機能訓練や入浴介助を受けることができます。
■自宅生活が難しいと感じたら、老人ホームの検討を
「介護サービスを利用しても、自宅での生活はもう難しい……」と判断したときは、老人ホームや介護施設への住み替えを検討しましょう。公的施設の特別養護老人ホームや民間施設の有料老人ホームに入居すると家族の介護負担はほぼゼロになり、必要なサポートを受けながら生活することができます。「老人ホーム」という言葉にネガティブなイメージを持つ方も少なくありません。しかし、近年の老人ホームは多様化しており、私自身も住みたいと思えるような、快適で魅力的な物件も数多く存在しています。
また、一口に介護施設や老人ホームといっても、その種類は多岐にわたります。親の状況や希望に合った施設を短期間で見つけるのは容易ではありません。老人ホーム選びに迷ったときは、LIFULL介護の入居相談窓口などのサービスを活用してみてください。専門の相談員が条件や要望をもとに最適な住まいを提案してくれます。相談は無料で行えるので、気軽に利用することができます。
■「休む」と「働く」を両立! 介護のための制度活用術
「介護と仕事の両立」には、休暇制度を上手に活用することが不可欠です。法律で認められた介護休業や介護休暇はもちろんのこと、テレワークや時短勤務など社内制度を利用することで仕事も継続しやすくなります。
介護休業と介護休暇、その活用方法
親の介護は突発的に訪れることも多く、時間的・精神的な負担が大きいのが現実です。そのため柔軟な働き方ができる制度を活用しましょう。
介護休業は要介護状態の家族1人につき、通算93日間取得できます。ただし親の介護そのものに充てるとあっという間に休業を使い果たしてしまいます。介護休業は3回まで分割取得できることがポイントです。下記は一例ですが、親の状態に応じて分割するとよいでしょう。
①介護体制を整える(約30日)
行政手続きや介護サービスとの契約を進め、親が子ども不在でも安全に生活できる環境を整えます。
②施設探しや入居準備(約30日)
在宅介護が難しくなった場合に備え、老人ホームなどの施設を検討し、必要な手続きや準備を進めます。
③終末期を共に過ごす(約30日)
親の人生の最終段階を穏やかに迎えるために、心身のケアや見守りを通じて支え合う時間を過ごします。
一方、介護休暇は、年に5日まで(対象者が二人以上の場合は10日まで)取得できます。例えば、平日の行政手続きやケアマネジャーとの打合せなど、短時間の休みが必要な場合や、病院の付き添いなど突発的な対応にも適しています。介護施設へ入所後、手続きや面会のために介護休暇を取得している人もいます。
■休暇取得をスムーズに! 上司への伝え方のコツ
「職場で介護休暇を取得した人がいない」「周りに迷惑をかけてしまうかも」と感じ、相談しづらい方も多いと思います。しかし、制度を活用することは決してワガママではありません。産休・育休と同じく、仕事を続けるうえでの必要な選択肢です。会社としては、ある日突然「介護のために会社を辞めます」と言われる方がよっぽど迷惑なことではないでしょうか。
休業・休暇を取得する際は、上司や総務・人事に相談し、家族の状態や必要なケアを簡潔に説明することが重要です。上司が介護の経験がない場合、状況を理解してもらいにくいこともあるかもしれません。そのため、親の状況を整理して相談時に提示できるようにしておくとスムーズです。
具体的な伝え方としては、「親が要介護認定を受けたため、介護休業(介護休暇)を取得したいと考えています。期間中の業務分担についても相談させてください」など、状況と希望をわかりやすく伝えると配慮されやすくなります。同僚への相談も忘れず、協力をお願いしましょう。
■介護者が笑顔でいるため‐「自分を守る」ケアの方法
介護は何年続くか分かりません。生命保険文化センターの調査によると、介護期間は「平均5年1ヶ月」というデータがあります。10年以上の長期間に渡ることもあり、介護者が元気でいなければ続けることは不可能です。親を思う気持ちは大切ですが、自分を犠牲にしてしまうと心身の健康を損ねてしまうでしょう。特に、マジメな性格で責任感の強い人ほど親の介護を優先にしがちです。介護者が健康でいられるよう、自分をいたわるケアを忘れないことが介護を長く続けるうえで何より重要なのです。
①介護環境をととのえる
子どもがいなくても親の暮らしが成り立つように、訪問介護やデイサービスなど、介護保険内のサービスを積極的に利用しましょう。例えば、訪問介護では掃除や買い物のサポートが受けられ、デイサービスではレクリエーションや機能訓練などが提供されます。これらのサービスを複数組み合わせることで、親が安全で快適に過ごせる環境を整えることができます。
②休息や趣味を楽しむ時間を意識的につくる
「忙しくて休む暇なんてない」と感じる方も多いかもしれませんが、介護サービスの使い方次第で自分の時間を確保することができます。たとえば、親がデイサービスを利用している間に映画を観る、ゆっくりとカフェで過ごすなどのリフレッシュタイムを取りましょう。また、ショートステイを活用して親を短期間預け、その間に旅行や趣味を楽しむのもおすすめです。自分自身をケアする時間を意図的につくりましょう。
③介護者同士の交流を持つ
各地域では「介護者家族の会」や「認知症カフェ」などが開催されています。同じ悩みを持つ人たちとつながりましょう。介護のグチや悩み相談をすると「自分だけじゃない」と感じられ心が軽くなるはずです。経験を共有し合うことで、新しい気づきや励ましを得られる場にもなります。地域包括支援センターに情報が集約されているので確認しましょう。
④介護保険外サービスを活用する
介護保険だけでなく、保険外のサービスを活用することで、親の生活をより柔軟に支えることができます。たとえば、病院の付き添いサービス、家事代行や見守りサービス、配食サービスなどは利用者が増えています。また、社会福祉協議会やシルバー人材センターではより安価に提供していることもあります。親のニーズに合わせた支援が可能なため、介護保険サービスだけでは足りない場合に検討を。
⑤IoTセンサーを活用した安否確認
離れて暮らす親の様子が気になるとき、IoTセンサーが役立ちます。ドアの開閉や電気の使用状況、ベッドでの動きなどをモニタリングし、異常があればスマホに通知してくれる仕組みです。遠隔での見守りが可能で、親の異変にすぐ気づくことができます。家電量販店には見守り機器の特設コーナーもあります。設置が簡単な製品も多いため、一度実機に触れてみてください。
■一番の親孝行は「子どもが幸せでいること」
親の自立した生活を考えることは大切ですが、それ以上に大切なのは「あなた自身が元気でいること」です。いつか介護の終わりを迎えてもあなたの人生はつづきます。頑張りすぎず肩の力を抜いて、自分のために時間を使うことを後ろめたいと思わないでください。
介護は一人で抱え込むものではありません。家族、地域包括支援センター、主治医、ケアマネジャー、介護スタッフ、福祉用具の相談員、老人ホームなども、みんなあなたの見方です。地域包括やケアマネジャーに相談するとき、できないことは「できない」「もう無理」とハッキリ伝えましょう。必ず別の選択肢を提示してくれるはずです。そして疲れたときこそ自分のケアを忘れずに。子どもが幸せでいることが一番の親孝行。親も、あなたが元気でいることをきっと願っています。
帰省時は親の変化に気づきやすいタイミングです。でも、それは「衰えを見つけて落ち込む」時間ではありません。親が自立した生活を送るために、どんなサポートが必要かを考えるきっかけにしましょう。老いる親と向き合うのは容易なことではありませんが、その向き合い方次第で、親も家族も安心して暮らせる日々を作ることができます。この年末年始、親と過ごすなかでその準備を始めましょう。
▼親の「大丈夫」はだいたいアウト…“親の変化”のサインを見逃さないチェックリスト