年末年始の帰省で久しぶりに親の顔を見て、「あれ? 少し老けた?」「前より元気がない気がする」と感じる人も少なくないだろう。元気そうに見えても、気づかないところで加齢による変化が進んでいることも。そこで今回、「LIFULL介護」編集長の小菅秀樹さんが、親の変化を見逃さないためのチェックポイントを指南。「そろそろ親の介護が始まるかも……」と漠然と考えている人に、いざというときに慌てないための介護の心構えとは?
最近、「介護と仕事の両立」や「ビジネスケアラー」という言葉を耳にする機会が増えています。働きながら家族の介護を行うことを指しますが、介護と仕事の両立が難しく離職する人は年間10万人にものぼります。「親の介護が始まったらどうしよう……」そんな漠然とした不安を抱えつつ、何から始めればいいのか分からないと悩む方も多いでしょう。本記事では、親の介護に直面した際に知っておきたいポイントを解説します。親を支えるために、今からできることを一緒に考えていきましょう。
■帰省は、親の変化に気付くタイミング
「久しぶりに帰省したら、親が以前より老けた気がする……」そんな風に感じたことはありませんか? 私自身、離れて暮らす母親と会うたびに「手すりなしに階段を上れない」「食事中にムセる回数が増えた」そんな様子から老いを感じるときがあります。年末年始は、普段離れて暮らす親とゆっくり向き合える貴重な時間。親は「まだまだ元気」と言いながらも、加齢による変化は日常生活に表れるものです。まずは、帰省時に見逃してはいけない「小さな変化」とその具体的なサインを解説します。
■親の変化を見逃さない! 帰省中に確認したい5つのチェックポイント
①家の様子から分かる変化
「きれい好きだったのに部屋が散らかっている」と思うことはありませんか。これは体力の低下や意欲減退の可能性があります。郵便物が溜まっている、冷蔵庫が空っぽといった状況も要注意。「買い物がしんどい」「食事の準備が面倒」といった親の本音が隠れているかもしれません。
②身体的な衰えに気づく
「めっきり外出しなくなった」「以前よりやせ細ってきた」と感じたら、それは足腰が弱り始めているサインかもしれません。こうした状態は要介護の一歩手前である「フレイル」と呼ばれる段階かもしれません。また、支えがないと立ち上がれない、歩行が不安定、姿勢が以前より丸くなっているといった変化が見られたときは、身体機能の低下を疑いましょう。
③認知機能の変化
同じ話を繰り返す、物忘れが増える、冷蔵庫に期限切れの食材が多い、鍋を焦がした痕跡があるなどの変化は、認知機能低下の兆候かもしれません。親自身が気づいていても隠すことが多いため、客観的に観察することが大切です。
④生活リズムの乱れが心配
生活リズムの乱れも、心身の変化を示すサインです。親が夜遅くまで起きていて昼間に寝ている。食事を軽食だけで済ませる。そんな生活の乱れはありませんか。「これくらい大丈夫」と思いがちですが、心身の疲れやストレスを抱えているのかもしれません。
⑤運転能力の低下
親が運転する場面で「ヒヤッとしたこと」があれば要注意です。「信号や停止線の見落とし」「車線変更や合流のタイミングが合わない」「カーブや狭い道でスピードを出しすぎる」などがあった場合は、身体機能や認知機能が低下している可能性があります。
親の言う「まだ大丈夫」はだいたいアウト
こうした変化を目の当たりにしそれを伝えても、多くの場合「まだ大丈夫だよ」と返ってくるでしょう。しかし、その言葉を鵜呑みにするのは危険です。親は心配や迷惑をかけたくないという思いから、本音を隠してしまうことがよくあります。加齢による身体機能や認知機能の変化は、短期間で進行することも珍しくありません。違和感を覚えたら、早急に医療機関での診察や介護の専門職へ相談しましょう。
■介護サービスの利用を考えるきっかけとタイミングとは?
親の老いに気づくのは、とても切なく、直視したくない瞬間です。しかし、親が助けを必要としているサインだと捉えましょう。ではどんな状態になったら介護サービスを導入するべきなのか。具体的なきっかけを挙げてみます。このような状態が見られたらすぐに専門機関へ相談してください。
①日常生活に支障を感じたとき
・着替えや食事、入浴、トイレなどの基本的な動作が難しくなった
・掃除や買い物などの家事を一人でこなせなくなった
②身体機能の低下が見られたとき
・転倒やケガが増えた。米や洗剤など重い買い物ができない
・歩行が不安定になり移動が困難になった
③認知機能の低下を感じたとき
・物忘れが目立つ。会話がかみ合わない。金銭管理ができない
・時間や場所の感覚が曖昧。外出先から帰宅できず警察に保護された
④家族の介護負担が増えたとき
・通院や日常のサポートが増え家族の生活に影響を与え始めた
・家族が精神的・身体的なストレスを抱えるようになった
⑤医療機関で勧められたとき
・定期健診や診察で医師から介護サービスの必要性を指摘された
・地域包括支援センターに相談した際、介護サービスを勧められた
「介護=身体介護」という大きな誤解
親の変化を見逃さないため、親の生活の様子や会話に注目しましょう。また、「どの段階から介護なのか?」と悩む方も多いのですが、介護とはオムツ交換や入浴介助などの身体介護だけを指しているわけではありません。親の通院の送迎、買い物の付き添い、見守りなど、日常生活をサポートする「生活援助」も立派な介護。この段階で親の介護はすでに始まっていると自覚してください。また、「自分が頑張ればまだ大丈夫」と思わず、プロの力を借りることで、親の暮らしをより快適に支えることができます。
■介護サービスの利用手順―初めの一歩を迷わず進めるために
親の介護に直面したとき、「何をすればいいのか分からない…」と戸惑う方は多いと思います。介護という人生初の出来事が突然始まるので無理もありません。しかし、一つひとつ手順を追って進めていけば、親の生活を支え、家族の負担を軽減する道が見えてきます。ここでは介護サービスの利用手順を解説します。
「何からすればいい?」その疑問、まずは地域包括支援センターへ
介護の不安や悩みは、一人で抱え込まず専門家に相談しましょう。地域包括支援センターは全国に5000ヶ所以上設置されている公的な相談機関で、介護や福祉の専門職が常駐しています。センターにはケアマネジャーや社会福祉士、保健師などの専門職が相談に応じてくれるため、具体的で実践的なアドバイスが受けられます。また、地域ごとの介護サービスや医療機関の情報に詳しく、近隣の選択肢を提示してもらえることもメリットです。まずは親の住所地最寄りのセンターに問い合わせてみましょう。些細なことでも構いませんし、「親の介護は何からすればいいですか?」といった初歩的な質問にも答えてもらえます。
【後編】では、いざ親の介護に直面した時の“初めの一歩”と仕事と介護の両立について、さらに詳しく紹介していきます。
▼【プロが徹底解説】備えておきたい「仕事と介護」両立の準備ガイド