ゲリラ豪雨に線状降水帯、夏は猛暑、冬はドカ雪と、否が応でも気候変動を意識せずにはいられないこのごろ、生活になくてはならないのが天気予報アプリです。今日/明日の天気の予報だけでなく雨雲の動きといったリアルタイムの情報もチェックできる、そんな便利なアプリがどのように作られているのか、「Yahoo!天気」の中の人に聞いてきました。
ド定番だけれど、実は日々進化を続けている天気予報アプリ
毎日のように使う、もはや“ド定番”と言ってもいいアプリとなってからも、「Yahoo!天気」は日々進化を続けています。最近発表されただけでも、9月にAndroid向けのウィジェットが一新されたほか、11月には雪の積もり具合がわかる「積雪深モード」がリニューアルされ、「雨」と「雪」を見分ける「雨雪レーダー」の提供が開始されています。
「Yahoo!天気」の企画を担当するLINEヤフーの熊田桂子さんがアプリを作る上で最も意識しているのは、「万人に見やすくわかりやすいこと」だそうです。老若男女を問わず多くの人が利用するアプリだけに、新しい機能を追加する際にも常に、「誰が見てもシンプルで分かりやすいことを目指してきました」と熊田さん。中でも特にこだわっているのが、「ファーストビュー」です。毎日使う天気予報アプリは、さっと起動してパッと見てすぐ閉じるという使い方をされることが多いため、「最初の画面がすごく大切。そこでどれだけ伝えられるかが勝負」というわけです。
「Yahoo!天気」アプリを開くとまず目に飛び込んでくるのは、当日/翌日の天気と、1時間ごとの天気の情報です。一番上のタブを左右にスワイプすることで、現在地や設定した地域のページが切り替えられるようになっていて、ページごとにその場所の情報が見られるしくみ。さらにスクロールすると、最大で17日間先までの長期予報が見られるようになっています。
台風などで注意報や警報などが出た際は、「基本のレイアウトの中に差し挟む形で、目につくように掲載している」と熊田さん。気象関係の情報は都道府県や市区町村ごとに発表されるので、ユーザーの設定した地域や現在地に合わせて、どの情報を優先的に表示するかをジャッジし、掲載するしくみが構築されています。
「情報に優先順位をつけて、そのシーンそのシーンで最適な情報が、最短距離でユーザーに届くようにしています」と話すのは、デザイン担当の梶谷匡佑さん。ファーストビューの情報を絞り込むことは、シンプルにわかりやすくするだけでなく、情報へのリーチにかかる時間にも影響すると説明します。「何をどう出すかによって、ページが表示されるまでにかかるスピードも変わってくる。だから、情報の優先順位の設計がすごく大事なんです」。
「Yahoo!天気」アプリではページ内の情報とは別に、アプリ画面の一番下に「地点検索」「地域の話題」「雨雲」「全国」「メニュー」といったボタンが常時表示されるようになっています。当日/翌日の天気に次いで需要の高いのが、このボタン群の中央に目立つように配置されている「雨雲」だと熊田さんは言います。
「雨雲」では、いつどのくらいの雨が降るかを、15時間先まで確認できる「雨雲レーダー」のほか、「雨」と「雪」を見分けられる冬季限定の「雨雪レーダー」や、雪の積もり具合を12段階で表示する「積雪深」、さらに「雷」や「風」の発生状況や移り変わりを、地図上に表示して視覚的にわかりやすく把握することができます。
熊田さんによれば、「雨雲」は今や利用ユーザーの2人に1人が毎日使っているほど「Yahoo!天気」にとって重要なコンテンツとのこと。ファーストビューではありませんが、ボタンをタップすればすぐに画面が切り替わり、地図上に情報を重ねて見られるようになっています。
「雨雲レーダーでは、ユーザーがどこの市区町村のページから起動したかによって、表示される地図の位置を変えています。地図の縮尺も前回表示した状態を保持できるようにするなど、見たい場所/縮尺の地図で素早く雨雲レーダーが見られるようにしています」と熊田さん。「縮尺を変えた際に、それぞれの縮尺で見やすい文字や線の太さにもこだわっています。拡大/縮小の操作時も地図がシームレスに描画されるようにしているほか、地図の下のグラフもグラフシートの開閉の動きに合わせて気持ちよく動きます。ウェブ上で表示するのではなく、アプリならではの操作感を大事にしています」と話します。
気象や災害関連の情報ソースの中心は、気象庁など公的な機関から発表されるものです。同じ情報がベースでも、たとえば雨雲レーダーの起動時間や処理の速度、操作性、見やすさ、使いやすさなどはサービスによって違っています。「だからこそ、工夫のし甲斐がある」と梶谷さん。同様に天気のアイコンなどにも「Yahoo!天気」独自の工夫があると説明します。
「雨の可能性をいかにユーザーに伝えるか。そのためにアイコンのバリエーションも多くしています。晴れ時々雨か、晴れ一時雨か、時間の経過がわかるようになっているだけでなく、曇りのマークにも黒めと白め、2種類の雲を使い分けていて、黒めの雲はより雨の可能性を孕んでいます。黒と白だけでは判別がつきづらい方もいるので、実は雲の形自体も変えていますし、黒い雲はどんよりしているので雲を2つ重ねています。黒雲を見たらなんとなく『雨が降るかもしれない』ということを、心象的に感じ取ってもらえればうれしいですね。テキストで説明するよりも、レイアウトやマークの組み合わせで伝えたいと思っています」(梶谷さん)
もちろん、天気予報は外れることもあります。天気のニュアンスをより詳細に伝えることは、「“外れた感の軽減”にもつながると、個人的には考えています」と梶谷さん。「パッと見て天気のニュアンスが掴めれば、その日の行動の意思決定が素早くできる。そういうアプリを目指していきたい」と話します。
ユーザーの声を反映しつつ、目指すのは「当たり前」に使えること
「Yahoo!天気」では、ユーザーのニーズをつかむために、アプリ内にユーザーが意見を投稿できるしくみを常設しているほか、どの機能がどれぐらい使われているかといった数字を毎日集計しています。また、ユーザーがどの天気予報アプリをよく使っているか、その理由、最も重視しているコンテンツや情報は何かといった調査も定期的に実施。常にユーザーの声を反映したアプリ開発を心がけているそうです。
今年刷新されたAndroidのウィジェットにも、そうしたユーザーの声が反映されていると熊田さん。たとえば「気温グラフ」ウィジェットには、当日だけでなく前日のグラフも表示。昨日より暑いのか寒いのかを知りたいというニーズに応えるものになっています。また「雨雲レーダー」ウィジェットには、雨がいつ降り始めるかが分かる文言のほか、グラフも表示。いつどのくらい降るかが、ひと目でわかるようになっています。さらに背景を透過にして、壁紙などを隠さない工夫もされています。
気候変動時代に「ユーザーが求める情報も変わってきている」と熊田さん。「今日/明日という1日単位じゃなくて、今は3時間ごと、1時間ごと、さらには5分後が知りたいというように、求められる時間幅がどんどん狭くなってきています。また気温や湿度の数字だけでなく、それは体感としてはどのくらいかを知りたいという声もよくいただきます。多くの人がより詳細な気象情報を求めていると感じています」。
とはいえユーザーの求めに応じて、あれもこれもと情報を連ねれば、わかりやすさが損なわれる可能性もあります。だからこそ、どう情報を出せばより伝わるのか何度も検証を重ねながら、「ファーストビュー」にとことんこだわるのだと熊田さん。「そういう細かなこだわりに気づかれることはありませんが、気づかれないということは、ごく当り前に見られているということ。無意識に見られるのが良いアプリだと思うので、これからも気づかれないところにこだわっていきたい」という言葉がとても印象に残りました。