国内の港から港へ貨物を運ぶ「内航海運」は、日本社会を支える重要な輸送インフラだ。この内航海運業界が抱える課題が「人材不足」。少子高齢化と人手不足により厳しい状況が続く。

そういった課題を受け、国土交通省では船員を志望する就職者と企業とのマッチングを図ることを目的に、企業説明会・就職面接会を全国で開催している。12月14日には、静岡県静岡市の清水マリンターミナルにて「めざせ! 海技者セミナー in 静岡」を実施。その様子をレポートする。

「船の仕事」のリアルな情報を集める

「めざせ! 海技者セミナー in 静岡」には、全国から集まった海運事業に携わる企業50社と、地元・静岡市内に拠点を構える国立清水海上技術短期大学校の学生をはじめ、静岡県立焼津水産高校、三重県立水産高校、愛知県立三谷水産高校、東海大学の学生が参加した。

清水海技短大からは1年生が参加。船員を目指して学ぶなか、就職に向けて「船の仕事」に関する情報収集を行う。清水海技短大の教諭は、様々なブースを回る学生たちに向けて、「『どんな仕事があるのかを見てほしい』と伝えています。ひとくちに船と言っても、コンテナ船、RORO船、一般貨物船など様々な船がありますし、"タンカーで仕事をしたい"という思いはあっても、具体的な仕事がまだわからない状況ですし、会社によっても様々。実際に働いている人・働いていた人から直接話を聞ける機会です」と言葉を寄せる。

午前中にはOBが来校して講演を行い、質疑応答も交わしたという。先輩から話を聞いて解像度を上げたうえで、各々気になる企業の説明を受ける。学生へのアプローチも企業ごとに様々だ。

就職先が保有する船の情報や仕事の内容はもちろんのこと、給与体系や休暇、また乗船中の生活環境に関する話も真剣に情報を収集していく。内航船の仕事は3ヶ月乗船して1ヶ月休暇を取るパターンが主流で、乗船中は勤務先もプライベートも船上で完結する。学生たちは練習船で乗船の練習も行っているが、船上で居住する訓練はこれからだそう。まだ具体的なイメージがついていないからこそ、日々の食事や居住設備、休憩中にやることなど、生活に関する情報は知りたいことだろう。

また、動画を使った説明を行う企業も多い。船内で仕事を行う様子や、ともに働く先輩船員からのコメントなど、動画ならリアルな様子がより伝わりやすい。食い入るように見つめてメモを取る姿も印象的だった。

仕事場は全国!地元・静岡の企業も人気

地元・静岡の企業も多数参加している。静岡市清水区に本社を構える「東洋海運シップマネジメント」は、東洋海運グループの船員部門・船舶管理部門だ。

世界最大級の鋼材専用RORO船や、国内初の鋼材コイル専用RORO船といった鋼材を運ぶ特殊な船舶を所有しており、福山・倉敷や東京をはじめ全国をまわる。静岡に拠点を構えていても、仕事する場所は全国各地、というのは内航船ならではの働き方だろう。

「弊社は20代の船員も多い一方で、ベテラン船員からの技術継承のギャップが課題になっています」と現状を語る。また最近の就職者は、「小さいころから船乗りになりたい」という夢を持つことはもちろんだが、労働条件を重視する方も多いという。入社後に「思っていたのとは違う」というミスマッチが起きてしまうのは、企業としても就職者としても双方不幸なこと。東洋海運シップマネジメントでは相談窓口を設けたりとフォローを行っているそうだが、人間関係や労働条件など、入社する前に気になることを直接相談できる機会は貴重だろう。

「鈴与海運」は、静岡市内に拠点を置く鈴与グループの内航船輸送サービスを担う企業。14隻の船舶を所有し、飼料・穀物等のバルクカーゴを中心とした一般貨物の輸送と、輸出入コンテナの二次輸送であるコンテナフィーダー輸送を柱に全国で展開している。また鈴与海運に所属する船員の半分は、清水海技短大の卒業生だそう。

学生からどのような質問が寄せられるかを聞いたところ、「乗船期間と休暇に関する質問は多いですね。またハラスメントに関する質問も受けます」とのこと。社会に出る際は不安も多いが、同窓の先輩が就職先にいることは心強いだろう。

「福寿船舶」は、静岡市内の自動車運搬船(RORO貨物船)を運行する船会社だ。トヨタ自動車初の内航専用船を手掛けるなど歴史と実績のある企業で、清水海技短大のOBである社員と、女性社員が参加して学生の対応を行っていた。

平均年齢約33歳と若い企業で、女性船員の受け入れ体制も整備している。人材育成に力を入れており、船上の仕事だけでなく、入社直後は社会人の基礎を学ぶ研修もあるという。またこれまでは「見て覚える」風潮だったが、各船で動画やマニュアルを作って共有し、若い方も短時間で効率よく仕事を覚えられる環境を作っているそうだ。

「これから採用していく今どきの人たちの考え方、やり方に合わせていかないと、船は安全に動きません。若い彼らに合わせて、変えていかなければならない」と担当者。人材不足と高齢化という課題解決に向け、各社が様々なチャレンジに取り組んでいることが垣間見えた。