汗をかきやすい、眼球が突出するなどの症状で知られている「バセドウ病」。女性に多いというイメージもありますが、具体的にはどのような病気なのでしょうか。今回はバセドウ病の症状や原因、治療法や日常生活で気を付けるべきポイントについて解説します。
■バセドウ病とは
甲状腺ホルモンは、身体全身の新陳代謝を活発にしてくれるホルモンで、ほとんど全身の器官に関係しています。新陳代謝が活発なのは良いことに思えますが、活発過ぎると問題が起こりさまざまな症状が現れます。バセドウ病は、甲状腺ホルモンを過剰に出してしまう病気(甲状腺機能亢進症)の代表的なものです。
バセドウ病は、人口1,000人あたり2〜6人程度いると言われています。また、女性患者が男性患者より5倍多く、中でも20〜30歳代の若い女性に多いという特徴があります。
バセドウ病は、自分自身を攻撃する自己免疫疾患の一つです。私たちの体には外敵から身を守るための「免疫機能」が備わっており、細菌やウイルスなどが侵入した時には抗体を作ってそれらを排除します。しかし、何らかの原因で免疫機能が誤って働いてしまい、自分自身を攻撃する抗体を作ることがあります。これが、自己免疫疾患です。
バセドウ病になると、甲状腺にある「甲状腺刺激ホルモン(TSH)受容体」という部分を誤って攻撃します。甲状腺ホルモンは、この受容体と結合するTSHの量に応じて分泌される仕組みです。バセドウ病では、受容体を攻撃する抗体が体内で作られてTSHの代わりに結合して刺激することにより、甲状腺ホルモンが過剰に分泌されてしまいます。
なぜTSH受容体に対する抗体が作られるかはわかっていませんが、遺伝的な要因や何らかのウイルス感染、ストレス・過労、妊娠・出産が引き金になっているのではと言われています。
■バセドウ病の症状は? 初期症状はある?
バセドウ病では、代謝を司る甲状腺ホルモンや交感神経系のカテコールアミンが過剰になることにより、さまざまな症状が現れます。「眼球の突出」がよく知られていますが、その他にも以下のような症状があります。
<全身>
体重減少(まれに体重増加)、疲れやすい、起きるのが辛い
<精神状態>
不安、イライラする、落ち着かない
<皮膚・発熱>
微熱、暑がり、汗をかきやすい、かゆみ
<頭部・頸部>
眼球の突出、甲状腺の腫れ
<循環器>
動悸、息切れ、頻脈
<消火器>
空腹感、のどの渇き、軟便・下痢
<筋肉>
指の震え、筋力低下
<月経>
月経不順、生理が止まる、不妊
なお、眼球の突出といったバセドウ病特有の症状は初期にはほとんど現れません。「原因はわからないが、何となく体調が悪い」という状態のことを不定愁訴といいますが、バセドウ病の症状はこの不定愁訴や風邪と間違われることがよくあります。
当てはまる症状がいくつかある場合は、早めに医療機関を受診しましょう。放っておくと、心臓やその他の臓器に大きな負担がかかり命に関わることもあります。
■バセドウ病と診断されたら
<バセドウ病の治療法>
バセドウ病の治療には、大きく分けて以下の3種類の方法があります。
【1】薬の服用
多くの場合、まずは薬の服用による治療から始めます。チアマゾールやプロピルチオウラシルなどの抗甲状腺薬を使い、甲状腺ホルモンの合成と分泌を抑えます。約半数の人が2〜3年で薬をやめることができます。
【2】放射性ヨウ素内用療法(アイソトープ治療)
放射性ヨウ素が入ったカプセルを飲んで行う放射線治療です。安全で効果が確実であり、甲状腺の腫れも小さくなりますが、実施できる施設が限られている、バセドウ病による眼の症状が悪化する可能性があるなどのデメリットもあります。
【3】甲状腺摘除術(手術による治療)
手術によって甲状腺を取り除く治療は、早く確実な効果が得られます。ただし、入院が必要になる、手術による痕が残る、反回神経麻痺、副甲状腺機能低下症などの手術合併症が起こるリスクがあるなどの点に注意が必要です。
<日常生活を送るうえでのポイント>
バセドウ病と診断されて薬を服用している場合、日常生活で大切なのは抗甲状腺薬を飲み忘れないことです。指示通り服用しないと甲状腺ホルモンの過剰がなかなか改善しませんし、症状も軽減しません。3〜4日服用を忘れると、症状が急に悪化することもあります。 また、特に服用から3ヶ月以内は、薬の副作用が出ることがあります。かゆみや湿疹等の軽度なものが多いですが、高熱やのどの痛みが出た場合は早めに医療機関を受診しましょう。
加えて、睡眠を充分に取り、規則正しい生活を送ることも望まれます。ストレスを溜めないことや、甲状腺ホルモンの値が高いうちは、心身に負担をかけない働き方や勤務時間の緩和なども必要です。
運動については、甲状腺ホルモンの値が高いうちは激しい運動は避けましょう。甲状腺機能が正常に戻ったら、軽い運動から始めて徐々に体を慣らしていきます。病状が安定して体力が戻れば、運動の制限は必要ありません。
ちなみに、眼球の突出は喫煙者に多いと言われています。禁煙を心がけ、アルコールもほどほどに控えておきましょう。ヨウ素を多く含む海藻類の摂取制限は特に必要ありませんが、過剰に摂ることは避けましょう。
最後にバセドウ病の予防方法に関して、内分泌糖尿病内科の専門医に聞いてみました
バセドウ病は原因不明の自己免疫疾患です。遺伝的要因と環境的要因の両方の関与が考えられています。確立された予防方法はないため、症状から気づくことが大事です。気になる症状がある場合は、医療機関を受診し、血液検査で甲状腺ホルモン値を測定してもらいましょう。多くの場合、血液検査と甲状腺超音波検査の実施でバセドウ病の診断が可能です。治療は、まずは内服薬での管理を目指しますが、安定しない場合や副作用が出る場合などではアイソトープ治療や手術治療が選択されます。甲状腺ホルモン値が高い間は、運動や強いストレスは避け、安静が必要です。また、バセドウ病は妊娠中の母体や胎児へ影響が生じるため、妊娠前に病状を安定させておくことが重要です。
眼球の突出はバセドウ病眼症と呼ばれ、軽症を含めるとバセドウ病患者さんの30%くらいの方に症状が出ると言われています。喫煙はバセドウ眼症発症と増悪に関与するため禁煙が望まれます。最近、バセドウ眼症に対する新しい治療薬が出てきており、高い治療効果が期待されています。