「青胴車」の愛称で親しまれた阪神電気鉄道の普通用車両5001形が、2025年2月をもって運行終了し、引退する。感謝の気持ちを込めたイベントの第1弾として、12月21日に「HANSHIN ミステリー・エクスプレス 行先不明列車」と題した5001形の貸切運行が行われた。

  • 方向幕や看板は「回送」のまま大阪梅田駅に入線

ツアーの参加者は50名。当日のコースをまったく伝えないまま、5001形は9時37分に大阪梅田駅を発車した。ツアーの開催にあたり、もちろん阪神側はあらかじめコースを決めていたが、当日朝に直通先の近鉄奈良線で事故が発生。これにともない阪神なんば線も遅延したため、あらかじめ決めていたコースは変更を余儀なくされた。文字通りの「ミステリツアー」となった。

大阪梅田駅を発車した5001形の車内で、車掌が1974年当時のマニュアルをもとに車内放送を行う。現在の「です・ます調」ではなく、「ございます調」での放送だった。野田駅入線時には、1975年に廃止された路面電車(国道線、北大阪線)の案内もあった。余談だが、5001形の登場時、阪神の路面電車(国道線、北大阪線、甲子園線)はすでに廃線となっている。今回のツアーは5001形のみならず、あらゆる手法を用いて「昭和の阪神電車」を感じさせるイベントになっていた。

5001形は阪神電車の冷房化に貢献した車両でもある

現行の5001形は2代目にあたり、1977年に普通用車両として誕生した。駅間距離の短い阪神本線において、特急をはじめとした優等列車の運行を妨げないように、高加速・高減速の普通用車両が必要とされた。5001形は加速度4.5km/h/s・減速度5.0km/h/sの高加減速度を実現。「ジェット・カー」の愛称で、40年以上の長きにわたり活躍した。

  • 方向幕を「貸切」に変更。特製ヘッドマークが掲出された

塗装は上部をクリーム色、下部をウルトラ・マリンブルー(青色)の配色とし、「青胴車」とも呼ばれた。昭和の時代、阪神電車の急行用車両は上部にクリーム色、下部にバーミリオン(赤色)の塗装を施した「赤胴車」、普通用車両は5001形も採用した「青胴車」が標準だった。現在、「赤胴車」はすでになくなり、「青胴車」も5001形のみとなっている。

高加速・高減速が強調されがちな5001形だが、同車両の阪神電車に対する貢献は他にもある。5001形が登場した1970年代は、阪神が車両の冷房化にまい進した時代でもあった。

急行用車両は1975年に冷房化を完了しており、冷房化率は他社を圧倒していたが、普通用車両の冷房化が遅れていた。車齢の高い車両は、冷房化改造工事に多大なコストが発生する。そのような背景もあって、冷房車の5001形が誕生した。5001形は計32両を製造。普通用車両の冷房化に大きく貢献した。その結果、阪神電車の冷房化率は1981年度末に95.3%を達成。1983年4月には、大手私鉄初となる冷房化率100%を達成した。

  • 「昭和の阪神電車」の雰囲気を色濃く残す5001形の車内

  • 中吊り広告に「青胴車」の写真を掲出

  • 5201形5201・5202号車はステンレスカー。「ジェット・シルバー」と呼ばれた

  • 急行用車両「赤胴車」、普通用車両「青胴車」が並んだ写真も

  • 5001形が甲子園駅に到着

  • ウルトラ・マリンブルーと阪神の社章

近年は新たな普通用車両5700系の導入が進み、交換部品の入手も難しくなったことから、5001形の廃車が進んでいた。2024年12月現在、5001形は5025編成(4両編成)のみとなっている。

尼崎車庫で撮影会、普段見られない方向幕の表示も

5001形の高加速・高減速は説明した通りだが、実際の運用では乗り心地を考慮し、抑えめに加速しているという。今回のツアーでは、車両性能いっぱいの急加速も披露された。立っていると体が傾くほどで、あっという間に約65km/hまで加速する。ただし、5001形は急行用車両と比べて車輪が小さいこともあり、65km/hからの伸びは悪いとのことだった。

ところで、1977年登場時の5001形は2両編成だった。1970~1980年代にかけて、阪神本線の普通は2両編成で運行することもあったという。本線と西大阪線(現・阪神なんば線)の普通が終日4両編成になったのは1987年のことである。5001形も2両編成同士をつないで4両固定編成とした経緯がある。

  • 5001形の運転台

  • 方向幕の操作器

  • 甲子園駅の引上げ線から西九条駅へ

今回のツアーで、5001形は最終的に「大阪梅田駅→甲子園駅→西九条駅→尼崎車庫」というコースで走行。尼崎車庫で5001形の撮影会が行われ、列車種別行先表示器(方向幕)や方向板などを用い、通常の運用では見られない表示も見ることができた。5001形の登場時、方向幕は設置されていなかったが、4両固定編成化した際に設置されている。

いまは運用のない「準急」「区急(区間急行)」の方向幕もあった。運用の準備が行われたものの、実際に5001形が準急や区間急行の運用に就くことはなかったようだ。

  • 大物駅から尼崎車庫へ。撮影会では、「区急 梅田」や「準急」などの方向幕が見られた

5001形は2025年2月に引退予定だが、それまでは後輩の5500系や5700系に混じって阪神本線の普通運用に就く。貴重になった「昭和の阪神電車」の姿を目に焼きつけておきたいと思った。