子どもたちの年に一度のお楽しみ・クリスマスイブが今年もやってきます。街のいたるところにはクリスマスツリーが飾られ、駅前のイルミネーションが光輝いて、幻想的な雰囲気を盛り上げてくれているでしょう。クリスマスといえば、みなさんは何を思い浮かべるでしょうか。子どもたちの欲しいものをなぜか知っているサンタさんが、真夜中にそっと枕元に置いてくれるプレゼントでしょうか。それともクリスマスツリーを囲んで家族や親しい人たちで集まる楽しいパーティーでしょうか?

サモーンがクリスマスをシャケで埋め尽くす

日本では、クリスマスパーティーのメインを飾る料理として、ローストチキン、あるいはフライドチキンがポピュラーですね。しかし最近は、どういうわけか「シャケを食え!」という大きな声がどこかから聞こえてくるらしく、チキンではなくシャケ料理を食べるご家庭が増えている? といったウワサが流れてきています。

その出どころは、今から6年前に放送された東映のスーパー戦隊シリーズ『快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー』の#45「クリスマスを楽しみに」が大評判を取ったことにあるそうです。なぜチキンではなくシャケなのか? 詳しい理由はわかりませんが、6年もの間、とてつもないインパクトを与え続け、農林水産省のX(旧Twitter)公式アカウントでも紹介されたという本エピソードを紹介し、お互い子どもたちに夢と愛を届ける「クリスマス」と「特撮ヒーロー」との浅からぬ関係を探っていきたいと思います。

『ルパパト』の略称で愛されている『快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー』は、異世界犯罪者ギャングラーに奪われたお宝=ルパンコレクションを取り戻そうとする3人の「快盗」と、ギャングラーから人々の平和と安全を守る3名の「国際警察戦略部隊」の戦いを描くストーリー。快盗の側から見ると、国際警察はコレクション奪還のさまたげとなる邪魔な存在となり、国際警察の立場からだと、ギャングラーとの戦いを妨害することもある快盗は迷惑な存在でしかありません。目的の異なる2つの戦隊が時に対立し、場合によって共闘する予測不可能なストーリーが、多くの特撮ヒーローファンの興奮を誘いました。

#45「クリスマスを楽しみに」では、素性を隠して国際警察(圭一郎、咲也、つかさ)と親密さを増していく快盗(魁利、透真、初美花)との、危ういバランスで保たれている関係性に微細な変化が現れます。親しく接しているビストロ・ジュレの3人が、もしかしたら快盗なのでは……と疑惑を抱くパトレン1号=圭一郎の心のモヤモヤを寸描しながら、ストーリーのメインは、クリスマスを目前に控えた街で起きたとんでもない「事件」を追いかけるパトレン2号=咲也の活躍が中心となりました。

今回のギャングラー「サモーン・シャケキスタンチン(声:津久井教生)」は、クリスマスにチキンを食べる人々を(なぜか)憎悪し、チキンを置いているあらゆる店を襲撃して(どういうわけか)シャケの切り身と入れ替える、奇妙な事件を巻き起こします。幼稚園の子どもたちとのクリスマスパーティーを楽しみにしている咲也は、街からチキンを奪ってシャケを与えるサモーンを捕まえるため、ビストロ・ジュレで調理を担当する透真(実はルパンブルー)に協力を依頼します。

街じゅうのチキンを奪い取り、クリスマスのメインで食べる料理を失くすのではなく、代わりに大量の「シャケ」を並べてなにがなんでも食べさせようとするサモーン。その強引なまでの「シャケ推し」作戦が強烈なインパクトを残し、劇中に登場するシャケ料理のフルコースも実においしそうだったこともあってか、「クリスマスにはシャケを食え」をほんとうに実践する人も出てきたといいます。全体のストーリー展開としてはだんだんとシリアス傾向に動き始めている中で、今回のようなドタバタ風味の強いクリスマス回を放り込んでくるあたりの「硬軟の使い分け」こそ、『ルパパト』の醍醐味だといえるでしょう。

特撮ヒーローとクリスマス

大人も子どもも一夜限りの「夢」の時間をすごすことができるクリスマスは、人々の夢と希望を邪悪な敵から守る「特撮ヒーロー」との親和性が極めて高いといえるでしょう。この章では、子どもたちが楽しいクリスマスを過ごせるよう、命をかけて悪と戦ったヒーローたちのエピソードをいくつかかいつまんでご紹介してみます。

『仮面ライダー』(1971年)第39話「怪人狼男の殺人大パーティー」では、児童養護施設で暮らす子どもたちの願いを聞き入れた一文字隼人が、クリスマスパーティーの席に仮面ライダーの姿でかけつけるシーンが見られます。サンタクロースよりも仮面ライダーに会いたいと言っていた子どもたちは、憧れのライダーからプレゼントを手渡しされて大喜び。子どもたちと直接ふれあうことのできる等身大ヒーローならではの、心憎い演出がなされました。

円谷プロのウルトラマンシリーズ『ウルトラマンA(エース)』(1972年)の第38話「復活!ウルトラの父(チチ)」は、クリスマスにふさわしい幻想的ムードに満ちたエピソード。なんと、西洋のお祭りであるクリスマスを憎み、日本のクリスマスを破壊しようと超獣スノーギランを差し向ける「ナマハゲ」が出現しました。その出で立ちは秋田県の民俗行事で知られるあのナマハゲそのものなのですが、なぜ超獣を操って東京を襲わせるのか、その理由と目的、そもそも正体がまったくの謎。西洋にかぶれる日本人に怒りを燃やすわりには、超獣に「スノー(雪)」と英語名を付けるなど矛盾した思考もうかがえる、近寄りたくないヤバさを感じさせる怪人です。暴れるスノーギランの前に、われらがウルトラマンエースもエネルギーが尽き、倒されそうになりますが、そこに現れたのがエースと同じくらいの大きさになった「サンタクロース」でした。その神々しい巨大サンタを見上げて、超獣攻撃隊TACの竜隊長は「ウルトラの父だ……」とつぶやきます。傍らにいたスタッフは「竜隊長、あれはサンタクロースですよ」と隊長の正気を疑うような失礼な発言をしますが、実はその巨大サンタこそ、エースをはじめとするウルトラ兄弟の偉大なる師「ウルトラの父」だったのです。かつてヒッポリト星人との戦いで命を失ったウルトラの父は、魂だけの存在となって復活を果たしました。宇宙からやってきて万能の超能力を発揮し、人間に深い慈しみの心を寄せてくれる神秘の存在=「ウルトラマン」と、年に一度のクリスマス、人々に奇跡のような体験をもたらしてくれる「サンタクロース」は、とても近しい存在だといえるかもしれません。

翌年の『ウルトラマンタロウ』(1973年)では第38話「ウルトラのクリスマスツリー」というエピソードで、ウルトラマンタロウが東京タワーを超巨大なクリスマスツリーに見立て、キラキラ輝く飾りつけを施す名シーンが生まれました。直前に凶悪なテロリスト星人を氷漬けののち粉々に粉砕し、雪のように降らせるなど、巧みな空間プロデュースを行ったタロウの卓越したセンスには脱帽するしかありません。ウルトラ兄弟の中でも特に、大人から子どもまで幅広い地球人との「直接交流」を進んで行ってきたタロウならではの、すばらしくスケールの大きなクリスマスプレゼントでした。

スーパー戦隊シリーズ・珠玉のクリスマスエピソード

第1作『秘密戦隊ゴレンジャー』(1975年)が来年(2025年)で放送開始50周年という節目を迎えるスーパー戦隊シリーズでは、『ルパパト』のシャケ回のほかにも「クリスマス」にまつわる魅力的なエピソードがたくさん見られます。ここではその一部を、かいつまんでご紹介してみましょう。

『忍者戦隊カクレンジャー』(1994年)では第45話「慌てん坊サンタ」で、クリスマスにプレゼントを配るため、大勢のサンタクロースが準備をしている「サンタの国」の子どもサンタが登場。慌て者のため人間界に早く着きすぎた子どもサンタのおかげで、妖怪オオムカデの邪悪な陰謀が発覚し、カクレンジャーが活躍するというストーリーでした。

  • コロちゃんパック「げきそうドキドキクリスマス!!」(日本コロムビア)表紙(著者私物)

『激走戦隊カーレンジャー』(1996年)では、ハザード星の少年ダップとカーレンジャー5人のつながりを絶ち、カーレンジャーの力の源であるクルマジックパワーを奪い取ろうとする宇宙暴走族ボーゾック&暴走皇帝エグゾスの猛攻と、この逆境をはねのけてダップとの絆を取り戻し、一緒にクリスマスを祝おうと奮起するカーレンジャーの激闘が第41話「暴走皇帝 戦慄の燃料チェック」、第42話「全車エンスト!巨大ロボ絶体絶命!!」、第43話「メリークルマジッククリスマス!」の3回にわたって繰り広げられました。地球に来て初めて体験するクリスマスに興味しんしんのダップの様子が、ほほえましく描かれています。等身大のヒーロー像を強く打ち出した『カーレンジャー』では、子どもたちが素直な「夢」を膨らませることのできるクリスマスに着目し、オリジナル・クリスマスソング「Merry Xmas!from カーレンジャー」シングルCDや、同名のクリスマスソングCDアルバム「Merry Xmas!from カーレンジャー」や、カセットテープ&絵本のコロちゃんパック「激走戦隊カーレンジャー げきそうドキドキクリスマス!!」を発表。出演者による「歌とおはなし」でクリスマスの気分を最大限に高める役割を果たしました。

クリスマスを代表するキャラクターとして「サンタクロース」が劇中に登場し、戦隊ヒーローと関わり合うエピソードにもさまざまなバリエーションがあり、クリスマスの奥深さを感じさせます。『轟轟戦隊ボウケンジャー』(2006年)のTask.43「危険な贈物(クリスマスプレゼント)」では、ボウケンレッド=明石暁がミニスカサンタ風の美女・イブ(演:秋山莉奈)に遭遇し、トラブルに巻き込まれるストーリー。イブはまるでコスプレのようでありながら、正真正銘・本物のサンタであるところに新鮮味がありました。一方で『炎神戦隊ゴーオンジャー』(2008年)のGP-43「年末オソウジ」GP―44「聖夜ヲマモレ」では、子どもたちにプレゼントを届けたいという気持ちこそ強いものの、失敗の多い中年サンタ(演:桜金造)が登場。ゴーオンジャーの助けを借りて、無事に務めを果たそうとするお話が描かれました。

『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』(2022年)のドン41話「サンタくろうする」では、ふだんドンブラザーズと対立しているはずの「脳人(のうと)」三人衆ソノイ、ソノニ、ソノザが、戦いを一時中断してドンモモタロウ=桃井タロウたちに「サンタクロースの正しい情報を教えてほしい」と頼みに来ました。人間の出す波動によって世界が成立している脳人は年に一度、人間への感謝を込めて(交代制で)サンタクロースを務めるのだそうです。特訓の末にサンタの極意をつかみ、クリスマスイブにあちこちの家庭へ飛び回るソノイたちの、ふだんとは違った穏やかな表情がとても印象に残るエピソードです。またこの回では、現代の子どもの心をつかむことができず、すっかりやさぐれてしまったリアルサンタ(演:螢雪次朗)が、タロウとの再会をきっかけに立ち直ろうとする、泣かせるドラマも盛り込まれていました。

今回取り上げなかった作品の中にも、子どもたちの夢をはぐくむファンタジックなクリスマスエピソードや、過酷な運命に翻弄されたヒーローたちが束の間の安らぎを得る、貴重なイベントとしてクリスマスが使われるエピソードなどが多く存在します。また来年、クリスマスが近づいてきたころ、いろいろな特撮ヒーローのクリスマスエピソードをご紹介したいものです!