ここ数年声高に叫ばれるようになった「男性育休」。人手不足に悩まされる中でメンバーが抜ける育休を推進しなければならない……この難しい問題にマネジメント層はどのように向き合えばよいのだろうか。社員の個性・才能を発掘する"タレントマネジメントシステム"を提供するカオナビのアカウント本部 部長の福田智規氏に解説してもらった。
押さえておくべき「男性育休取得率」のトレンドと重要性
Q.「男性社員の育休取得を進めるよう会社から求められているのですが、どのように考えて行動するのが良いのでしょうか。私の世代では取得例もなく、現場のリソースに余裕もないので戸惑っています。」(40代後半・会社員・管理職)
A. 福田氏の回答
男性育休推進はまさにここ数年で急激に進められているトレンドですが、戸惑いはごもっともだと思います。そこで、まずは最近の社会全体の潮流について確認していきましょう。
まず、令和6年7月に公表された厚労省の「令和5年度雇用均等基本調査」において、男性育休取得率は前年度から約13ポイント上昇し、30.1%と過去最高の数字を記録しています。
政府も2025年4月に改正雇用保険法の施行を予定しており、両親共に14日以上の育休を取得する場合「最大28日間は休業給付率が8割(手取り10割相当)」とする仕組みでこの流れを後押ししていこうとしています。各企業も制度改定を進めるでしょうから、給与面での心配が和らいでいくことで、数年後には取得率は50%〜60%に到達していくかもしれません。
さらに見逃せないのが、男性育休取得率が人材確保に与える影響が大きくなっていることです。直近の「若年層における育児休業等取得に対する意識調査」において、「男性の育休取得実績がない企業」に「就職したくない」と考える若者は61%にのぼることが分かっています。
企業の成長の要は人ですから、経営層はこうした社会の動きを受けて「チームメンバーの男性育休取得を推奨してほしい」とミドルマネジメント層に要請しているというのが現状です。
「欠員発生」が予測可能な方がマネジメントしやすい
予算達成に向けて、限られた人員リソースでやりくりしている管理職の方が多い中、現場からメンバーが抜ける「育休」を勧めなくてはならないというのは、正直頭の痛い話だろうと私も思います。ただ、ぜひこの機会にマネージャーの方々には一度視座を切り替え、長期的な視点でマネジメントを捉え直してもらうのが良いのではないかと思っています。
育休に限らず、チーム内で異動や病休、退職といったイベントが起こることは避けられません。同じメンバー構成で全力疾走を継続することが難しいという事実は、皆さん当然気づかれていることと思います。しかし、欠員発生が予測不能なものかというと、そうではありません。私の経験上、定期的な1on1でメンバーとのコミュニケーションがしっかり取れていれば、発生を半年前には察知することが可能なケースが多いです。
育休取得の大きな阻害要因は「職場の雰囲気」にあると言われています。ギリギリのリソースで回っている現場から抜けるような選択は「同僚に迷惑がかかる」と思いがちですし、上司の顔色も気になってしまうことでしょう。しかし、休むことを言い出せない雰囲気が組織に広がっていると、かえって欠員に関わる相談は遅くなり、突発的な対応にチーム全体が右往左往することになってしまいます。
そのため、「欠員が出る可能性を織り込んで、業務を回せるような仕組みづくりはできないか」と、マネージャーを筆頭に、組織内の風土・雰囲気づくりを進めていく方が、予実管理面も含めて適切なマネジメントができるようになっていくのではないかと、私は考えています。欠員が出る可能性を考慮し、80%ぐらいで回せる世界観を意識したチーム設計ができると理想的です。
進めるべきは、仕組み化と前例づくり
こうした点も踏まえて、マネージャーができる男性育休取得率推進のキーワードと取り組みをいくつか挙げておきたいと思います。
まず、一つめが「仕組み化」です。例えば、売上管理をしやすくなるよう「型化」するのは一つの有効な手立てです。フルメンバー時と欠員時の両方を織り込んで予算達成を計画することで、全体にバッファーを持たせるのです。
また、メンバーの顧客とのやり取りの「見える化」を進めるのも一つでしょう。顧客とのやり取りの属人化は、担当が変わったときのトラブルの元です。現場業務の見える化を進め、業務のバトンタッチが可能な仕組みを整えていきましょう。
これらの仕組み化は男性育休に限らず、人材の流動化への適応力を高め、チームを強くします。
二つ目は「前例づくり」です。弊社でも取得率向上に向けた取り組みを進めていますが、やはり前例があることで取得拡大につながる実感があります。
なお、カオナビ社内では人事通達で育休取得者の名前と期間が全社公開されているのですが「この人もこのぐらい育休を取っているんだ、とわかると育休が取りやすくなる」という声があがっています。また、男性社員の育休取得者を囲んだ勉強会では「自分の部署の先輩に取得者がいないので、実際にはどんな手続きや、やり取りがあるのかイメージが湧かなかったから参考になった」という感想も聞かれました。
前例はマネジメント側にとっても次への足場になります。ある企業ではタレントマネジメントシステムを活用して「育休時のリソースをどう賄ったか」「復帰時はどのようなプロセスを行ったか」などの情報にいつでもアクセスできるよう共有しています。前例を作るほど、それを見越した戦略立案のための情報が増えていくので、管理職としても対応が容易になるというわけです。
翻って考えると、マネージャーとしてはチームメンバーとのコミュニケーションをしっかり取り、育休取得に関わる話が出た場合にその後押しをして前例を作ることをまず大事にするというのが基本となるでしょう。当たり前ですが、それが育休を取りやすい雰囲気やノウハウ伝播の発信源となるはずです。
男性育休を進める上司の心得「長期的な視野とバッファーを」
ミドルマネジメント層の業務が多い中、男性育休を推進していくのは大変です。しかし、現場が今だけを見た視野狭窄に陥ると、不平不満の悪循環が広がってしまいます「男性育休推進は事業全体や未来への視座をチームにもたらす可能性があるもの」として、マネジメントを少し見直す機会の一つとして捉えてもよいかもしれないですね。