「リートン」というAIサービスをご存じだろうか。生成AI活用の入門にも適した便利なアプリだそうで、「誰にとっても利用しやすい生成AIのプラットフォーム」をうたい、主に個人がAIを活用して日々実際に「役に立つ」機能をまとめて使えるようにしたサービスを提供している。なお、サービスはスマホやPCから無料で使うことができる。運営会社は昨年11月に日本法人が立ち上がり、1周年も迎えている。
今回、これまでリートンに(筆者を含め)詳しくなかった人に向け、この新しいサービスについて運営に直接伺う機会があったので、その内容を紹介したい。話してくれたのは、リートンテクノロジーズジャパン Head of Japanのキム・キハン氏と、同ゼネラルマネージャーの増田良平氏の両名だ。
「リートン」とは? カジュアルで便利な生成AIアプリ
「リートン」は、大規模言語モデル(LLM)をベースとした文章作成や画像生成など、生成AIを使った流行りのサービスを集約した「AIプラットフォーム」だ。まだまだ敷居が高そうなAI活用だが、特に個人用途での使い道の明示、操作しやすいUIなどが手厚く用意されたリートンのサービスは、特別な知識がなくとも、ポチポチと直感的に入力していくだけで、生成AIによる具体的な成果物を出力できるように工夫されている。LLMは、「ChatGPT」「SD3」などの最新のAIモデルを使っているが、リートンはユーザー登録をするだけで(数量上限や期間などの制限もなく)無料で使えることもポイントだ。
運営会社のWrtn Technologies, Inc.は2021年に韓国で創業。創業者の一人で同社代表のイ・セヨン氏は、まだ28歳の若さだそう。学生時代のインカレイベントなどでの活動が発展し、友人たちと数人でWrtn(リートン)を立ち上げたという。社員数は現在100人ちょっとの規模になっており、半分以上はエンジニアと、まさに、ザ・テック系スタートアップというおもむきだが、韓国ではApp Storeにて人気ランク1位、かつライフスタイル部門で1位を獲得。Google Play ストアでもライフスタイル分野で1位を獲得と、すでに評価を得ている。日本では東京都による「金融機関等と連携した海外企業誘致促進事業」第1号企業として選定されており、2023年11月に日本法人「リートンテクノロジーズジャパン」が設立されている。2024年現在、月間ユーザー数は日韓の10代後半から20代後半の若いユーザー層を中心に500万人を超え、韓国以外での認知が広がりつつあるという状況だ。
今回お話を聞いたキム氏と増田氏が声をそろえるのは、現状の日本における生成AIの「みんな知ってはいるが、使っている人は1割程度に過ぎない」という活用度の低さという課題だ。それに対し、リートンは「BtoCのサービスとして、カジュアルに、"みんなのAI"になることが目的」なのだという。
また、「生成AIに興味はあるのに、使っていない」という属性の人が増えているとともに、「試してみたけど、がっかりした」という人が多いことも指摘する。世の中の多くの生成AIサービスが、不慣れな人にとっては「何をやったらいいのか、わからない」ことも多く、期待したような成果までたどり着けなかったという可能性がある。
はじめてAIを使おうと望む人たちが、使い始めるまでのハードルの高さを下げること、使ってみて、「思ったものと違う」と感じてしまうギャップを埋めるための使いやすさと使い道のわかりやすさの実現が、リートンのつくりの重要な部分をしめている。
両氏は、「日本の生成AIの利用率向上に貢献したい」とも話している。それには、アプリの使いやすいUIはもちろん、普通の人でも体感できる「とりあえず打てば響く」生成AIの成果のわかりやすさも必要だろう。数ある生成AIサービスのなかでもリートンはそこを重視している印象だ。そして、その「簡単で便利な生成AIアプリ」を目指していることが、世界中でリリースが相次ぐ数多くの生成AIサービスのなかにあって、リートンが強みとして差別化しようとしているポイントになっている。
最新版リートンでは何ができる?
日本上陸から1周年も迎えたという節目で、リートンでは直近でいくつかの大きなアップデートが行われている。まず今年10月8日の大型アップデートでは、「AI検索」機能の高度化と、「AI自動作成」機能の実装が行われている。次いで10月24日にも大型アップデートがあり、その目玉として、自分が作成したAIキャラを他の人に公開する「AIキャラ共有」という新機能も追加された。
ここで改めて、実際に最新版のリートンのアプリでどんなことができるのか、本当は使ってもらうのが一番早いだろうが、いくつか代表的なものを簡単に紹介しておこう。
生成AIで使ったことがある人が多いであろう、文章生成機能は、Chat-GPTなどの複数のLLMを選択して無料で利用できるし、画像生成機能もStable Diffusionを使ったテキスト入力からの画像生成が利用できる。なお画像生成のプロンプト入力は、ちょっと敷居の高い一般的な英語入力だけでなく、それに遜色無い出力が可能な日本語入力にも対応しているので、気軽に試すことができる。
新機能の「AI自動生成」は、メニューの「自動生成」のタブに「ブログ」「レポート」「自己PR書」「パワポ作成」の目的別の項目をダイレクトに用意。段階的に出現する案内に沿って必要な情報を入力するだけで、目的の文書が自動作成される機能だ。ものの数秒~数分で十分な文章が得られるが、関連リンクやファイルを添付するなど、詳細な指定を追加して文章のクオリティを高めることにも対応している。
かねてからのリートンの人気機能のひとつに「AIキャラ」というものがあるが、これも今回の大型アップデートで強化されている。AIキャラ機能では、作りたいキャラクターの情報を入力することで、見た目や性格、口調などが設定されたバーチャルキャラクターをつくることができ、そのキャラクターと会話(チャット)を楽しむことができる。
今回のAIキャラ機能の強化では、新しいAIモデルにより、さらに高度で自然な会話ができるようになる「スーパーモード」が追加されたほか、AIキャラの「共有機能」も追加された。共有機能で、自分のAIキャラを公開、他のユーザーが自分のAIキャラとのチャットをしたり、フォローしたりすることもできるようになった。自分の作ったオリジナルAIキャラが、人気者になったり注目される機会がひろがるという楽しみ方ができるようになった。
なお、AIキャラの作成も、作成ステップの見直しなどで以前より簡単になっているそうなので、もしリニューアル前のAIキャラ作成で「うまく思い通りの設定で作れなかった」とあきらめた人がいるなら、またチャレンジしてみると今度はうまく行くかもしれない。
今後の展望、日本市場で独自の進化も
リートンの増田氏は、「AIキャラ」が特に日本のユーザーと相性が良いのではないかと見ているそうだ。創作文化が根付いているという土壌もあるが、AIキャラ機能については日本のユーザーからの熱心なフィードバックをもとに改良している部分が多々あるとのこと。日本側が先行して発展させていく機能のひとつになってきているそうだ。
またAIキャラで注目すべき事例としては、今年、「AIキャラクターを教育に活かせないか」という要望があり、実際に学校の授業にリートンのAIキャラ機能を提供したというものがあった。
この要望を受けて、授業中の生徒のグループワークに、外部から招いた専門の有識者や実務者に加わってもらうというイメージで、生成したAIキャラが加わるといった使い方が試された。科学の知識を持つAIキャラを作成し、そのキャラとの対話を通して生徒が主体的に学ぶといった活用が行われたり、農家として設定されたAIキャラと対話して、農業の現場視点での課題を知るといった学びができるというものだ。
リートンが目指しているのは、日常で毎日使う、スマホやPCの画面をつけて最初にアクセスしたり、メイン画面に設定したりして使われる、新時代の「ポータル」サービスになることだそう。同社のキム氏は、「検索エンジンが世の中を変えたように、生成AIが、世の中を変えていく時代が来る。生成AIを通じてIT・デジタルを利用していく世の中に変わると信じている」と期待を述べる。
ポータルとしての生成AIプラットフォームをめざすリートンの機能拡張として、今後はローカルサービスとの連携を強化していくという方向性も示している。これは、日常で使うサービスをより便利にするローカルサービスとの連携であり、例えばECで物を買うとき、ショッピング中のコンシェルジュのようになってくれたり、タクシー配車サービスで、近くのタクシーから料金や配車ルートで条件の良いものを抽出してくれたりといった連携ができるようにしていく計画だ。
最後に、気になる「無料」の今後についても聞いた。最新LLMの取り込み、積極的な機能拡張で、コストがかかるはずなのだが、BtoB向けのサービスというわけでもなく、"儲け"が出ていなそうなBtoC向けに無料というまま提供しているのは大丈夫なのだろうか。「"みんなのAI"として、まずはユーザーを広げることを目指しています。韓国ではテスト的に広告バナーを入れたりもしていますが、でも基本は無料無制限です」とのこと。世界を変えたGoogleだって無料だったしね! せっかくなので使いまくらせてもらおう。
きっとこれからの若い世代は、どんどんAIネイティブになっていくのであろう。実際、「AI食わず嫌い」を乗り越えて使ってみればわかることで、AIは便利なのだ。我々のような中年世代がパソコンを立ち上げて最初に検索エンジンの画面を開いていたように、最初にAIプラットフォームをポータルとして開くことが当たり前になる時代が、もしかしたら本当にすぐそこに迫ってきたのかもしれない。