BREIMENと令和ロマンが語る、垣根を掻き乱す「生き方」

オルタナティブファンクバンド・BREIMENのベースボーカルを務める高木祥太が、今話を聞きたい人を招いて対話する連載企画。今回のゲストは、「型破りなポップミュージック」を生み出し続けているBREIMENがメジャーデビューすることを祝して、「型破りのルーキー」としてM-1グランプリ2023で王者となった令和ロマンが登場。BREIMENは早稲田大学の音楽サークル・THE NALEIOやセッションで出会ったメンバーで結成されたバンドであり、松井ケムリは学生時代に慶應大学のバンドサークル・総合音楽研究会に所属しベースを担当。さらに3人は同世代という共通点もある。「文化の迷子な世代」「売れるためではなくウケるための分析」など、示唆に富むワードが飛び交ったカルチャー対談をお届けする。

※この記事は2024年3月25日発売の雑誌「Rolling Stone Japan ol.26」に掲載されたものです。

【撮り下ろし写真を見る】BREIMENと令和ロマン、同世代の2組が邂逅

同世代が天下を取った

高木 はじめまして。

くるま・ケムリ はじめまして。

高木 今回なぜお二人をお呼びしたかというと……あれですね、うん、チャンピオンだから。

ケムリ 清々しいですね(笑)。

高木 普通に生きていて、チャンピオンの人と会う機会ってなかなかないと思うんですよ。

くるま ああ、確かに。

高木 それだけではないんですけど。『M-1』とか色々見たりしていて、マジで同世代だなって思ったんですよね(※編集部注:高木、くるまが29歳、ケムリが30歳)。ミュージシャンでも芸人でも、最初は自分より歳上の人たちが活躍してるじゃないですか。いざこういう歳になって、お二人を見て「同世代が表舞台に立ってるぞ」と実感したんですよね。美容院でアシスタントが思ったより歳下だった、みたいなことがあるじゃないですか。ちょっとあれに近いような……「追いついた」という言い方は変だけど……。

ケムリ ああ、あります(笑)。美容師は全員歳上だと思ってました。歳下もいるんだな。

くるま お前はQB HOUSEしか行かないだろ。

ケムリ そんなことないよ!

高木 (笑)。感覚、話してるところから感じるもの、見てる先とかが、同世代な感じがして。

くるま お笑いは一番辿り着くのが遅いですからね。確かにお笑いは歳上の人のものを見ることが普通は多いですもんね。

高木 だから(令和ロマンは)早いですよね。ここ(高木とくるま)が同い歳だし、ケムリさんがベースをやってるということもあって、あと共通の友人も一人いたりして、今回呼ばせていただきました。でも本当に包み隠さず言うと、まだ「天下」の「て」の字も取ってない身からすると、同世代の違う畑の人が天下を取ったことが嬉しかったんですよ。他の同じ世代の人たちも思うことがあったと思うんです。

ケムリ その話はすごく嬉しいな。

くるま 嬉しいよな。

高木 そういう意味で、同世代として呼ばせてもらいました。

松井ケムリと、ベース 髙比良くるまと、ラップ

ー令和ロマンのお二人はなぜ今回のオファーを受けてくださったのでしょうか。

くるま 僕は雑誌とYouTubeを非常に大事にしているので。雑誌って面白いですからね。僕、雑誌が大好きなのでよく読むんですけど。雑誌って、本当に好きな人しか読んでないじゃないですか。自分たちのことを知らない場所に出たいという気持ちもあってお受けしたのもあります。BREIMENの曲も何曲か聴いたことがありました。

ケムリ 僕は(BREIMENを)聴いたことなかったです。

くるま せきららボイス! お前、『ノンストップ!』(テレビ番組)じゃないんだぞ。

ケムリ 『ノンストップ!』にせきららボイスというコーナーあるんです。僕も一応音楽はやっていたので。

くるま ベーシストの端くれとしてね。

ケムリ 本当の端なんですけど。

くるま どう? 本物のベーシストを目の前にして。

ケムリ でも見た目で言ったらベーシストっぽくないですよね。

くるま 俺たちのベースのイメージってUNISON SQUARE GARDENの田淵(智也)さんのイメージしかないもんね。

ケムリ しかないことないよ! 僕は休日課長スタイルでやってるんですけど。休日課長を意識してベースを弾いてるので。

ケムリ 意識してるの? ちゃんと音色を?

くるま いやいや見た目を。

高木 ケムリさんはどういう音楽が好きなんですか?

ケムリ 結構バラバラなんですけど。

くるま まず尾崎でしょ?

ケムリ 尾崎豊、好きなんですよ。中学校の時、尾崎豊しか聴いてなかった時期がありました。尾崎豊を聴きすぎて、まだ聴いたことない尾崎豊の曲の歌詞を予想できたことあります。

高木 どういうこと?(笑)

ケムリ 当時自分が尾崎豊になった瞬間がありました。

高木 それ、すごいですね(笑)。

ケムリ 当時、僕らの世代でいったらYUI、ASIAN KUNG-FU GENERATION、BUMP OF CHICKENとかが好きでしたけど、それと同時にベースを始めたあたりから、ベースの最上級って何だろうと思ってファンクとかを無理して聴いていた時期がありました。

くるま 無理して聴いてたんだ。

ケムリ ソウルとかも。「ラリー・グラハムがすごいらしい」みたいなことを聞いて、スライ&ザ・ファミリー・ストーン、グラハム・セントラル・ステーションとかを聴いてわかったふりをしている時期はありました。マーカス・ミラーとか。

高木 マーカスまでいったんですね!

ケムリ かっこいいはかっこいいですけど、心から好きかどうかはまだわかってないです。

高木 レッチリ(レッド・ホット・チリ・ペッパーズ)とかは?

ケムリ レッチリは、もちろん聴いてますけど、「フリーが好き」とかはそんなになかったですね。スラップ(ベースの奏法)をかっこよくやりたくて、スラップをし始めた時に親指が上のスラップをしたんですよ。

高木 ああ、レッチリの方(フリーのスタイル)じゃなくてね。

ケムリ そう。だから「これは違う」ってなって(笑)。それこそ僕はマーカス・ミラーとかのスタイルだったので、こっち(フリーのスタイル)の原理がまだわかってないですもん。

高木 こっち(フリーのスタイル)は見た目がかっこいいですけどね。

くるみ 俺はマーカス・スミス。

ケムリ 誰? マーカス・スミス?

くるま ラグビーやってたから。マーカス・スミスはいい選手だなって。

ケムリ 音楽と関係ないから! 好きな音楽とかあるの?

くるま 中学くらいから、音楽詳しい友達がiPodにいっぱい曲を入れてくれるようになって、ちょっと上の世代のELLEGARDEN、9mm Parabellum Bulletとかを聴くようになりましたね。邦ロックが多くて。それでtacicaとかをめちゃくちゃ好きになって、そのあとユニゾンも知って、その2組をめっちゃ好きだった時期が長くて。『SCHOOL OF LOCK!』(ラジオ番組)の影響もデカかったですよね。みんながRADWIMPSを聴いてるから俺はtacicaを聴くみたいなところがありました。「具体的な歌詞よりも抽象的な歌詞の方が偉い」みたいに思って。そこから色々聴くようになりましたね。

高木 ラップしてる動画がYouTubeに上がってますよね?

くるま ヒップホップを聴くようになったのは最近ですね。小学校くらいの時からnobodyknows+、RIP SLYMEとかは好きだったんですけど。

高木 俺ら世代ですよね。

くるま 「世代音楽」みたいなものは一通り通っていて。今もApple Musicとかでポンポン飛んで聴くのがめっちゃ好きなので。それでTENDRE、Tempalay(どちらも高木がサポートを務めている)とかも聴いてました。

高木 あのラップの動画がめちゃくちゃかっこよくて。

くるま え! 嬉しい。

高木 めちゃくちゃ声がいいなと思って。あと普通にリズム感がめちゃくちゃいい。あ、上からとかではなく。

くるま いや上からとかでいいでしょ。上から言ってくれないと困ります。

ケムリ さすがに上からですよ、プロだから。

くるま でもあんまりね、よくわかってないんですよ。そんなに耳よくなくて。

高木 いや、どうだろう? 耳がいいからできる感じな気がしましたけどね。

くるま 音の高さとかがわかんないんですよ。モノマネとかはできるから、声色はできるんだと思うんですけど。CM撮影で歌う時とか、ずっとキーが合わないからずっと怒られてて。

ケムリ あったなあ(笑)。

高木 だからラップはすごく合ってるんじゃないですか。声、低くて通るから。

くるま でもめっちゃやってます、家で一人で。

ケムリ 一人でやってんだ?

くるま そうそう。1日のことをまとめるのにちょうどいいですからね、ラップは。タイプビートを流して、鏡見ながら自分に向かって喋るとスッキリするよね。

ケムリ ジャーナルラップ!

高木 (笑)。やっぱり通ってきたところが同じですね。ネタを見ていても、直接的に出してるわけではないけど、節々からこの世代がわかる特有の「あれ」みたいなものを感じて。だからより深くウケるところがあるんですよね。

くるま 別にわざと言おうとはしてないけど、細かいところに出ちゃう部分もありますね。

ケムリ しゃべり方とかもそうでしょうしね。

Photo by Satoshi Hata, Hair and Make-up by Riku Murata, Styling by Yuya Nakajima

テレビとTikTokの狭間でどの世代を狙うのか

くるま 今はこの世代のエンタメがちょうどまだないんですよね。YouTubeとかはもっと下の世代だったりするし、テレビは今流行ってるものでも「ちょっと上の人が作る面白いもの」というか。

高木 めっちゃわかります。上の世代はテレビで天下を取って、なんならYouTubeまで手を出していて。下の世代はTikTokとかで、それって肌感覚的にはわからないところじゃないですか。俺ら世代はその切り替わりに若干取り残されたような気がするんですよね。YouTubeを見始めていたら下ではTikTokがバズってるし、でもYouTubeで天下を取るほどまだ歴もない。その世代なのかなと勝手に思っているんですけど。

くるま 僕、いつもめっちゃ思ってます。文化の迷子みたい。

高木 だからその世代の令和ロマンが、テレビという場所で天下を取ったことがすごく意味深いなと思って。

ケムリ 僕らの世代でエンタメをやってる人って、上合わせの人が多いような気がしません? ちょっと無理して上に合わせてやってる人が多い。

くるま ギリギリそうなれるというか。

ケムリ どっちもいけるから取り残されてるのかもしれないですね。

くるま 俺たちは芸人として、ボーッとしていたから取り残された感じがある。俺らの世代で下にシフトしてる人も上にシフトしてる人もとっくにいて。霜降り明星さんみたいにテレビで後輩として(上に合わせて)バーンっていく人もいれば、下にシフトしているYouTuberの方とかもいて。俺らはボーッとしてたらどこにも入れなくて。裸のまま残ったから奇跡の同世代感のあるお笑いなのかもしれないです。

ーM-1の決勝ネタには新しい学校のリーダーズなど今のトレンド要素も入れられていて、それで優勝されたことから「テレビでウケるもの」の変化を感じるところもありました。「文化の迷子」な世代として、世の中に刺さる作品作りのためにできることとは何か、それぞれどのように考えていますか。

ケムリ 新しい学校のリーダーズは、この世代に刺さるというよりは、ギリギリ上の人もわかるところでやっていたのもあるもんね。

くるま うん。お笑いの「刺す」はどんどん変化していると思うんですけど……結局、同年代にしか刺せないしなとは思ってますけどね。

高木 めちゃわかる。

くるま あ、本当ですか?

高木 音楽でいうと、下の世代だとTikTokの15秒とかの尺間で意味を成し得ているか、インパクトがあるかどうかが大事じゃないですか。俺らの世代はもうちょっと長い感覚で音楽を聴いていたと思うんです。そこにシフトしていくやり方も選択肢としてないことはないんだけど、どうしても肌感覚レベルで「ちょっと違うな」ってなっちゃうところがあって。ついこの間アルバムを作ったんですけど、そこを捨てるわけじゃないけど、考えてもわからない部分もあるなと思って。だから確かに同世代を意識してるのかもしれないです。

くるま 俺はそれでいいと思いますけどね。

ケムリ 自分らが楽しいと思えないと、というのはありますよね。お笑いは特に、面白いと思ってないとやりたくはないし。

くるま 上や下に合わせてできる人のことは本当に尊敬しますけどね。すごくプロだなと思う。自然体でいようと思ったら必然的に同世代がターゲットになって、そこに感覚が若い上の世代の方とか大人びてる下の子がたまたま入ってきてくれたらそれは大歓迎で。「わかりません」って言われてしまったら「ごめんなさい」としか言えないですよね。

高木 ネタからそのスタンスを感じました。「ここで笑いが途絶えると流れとして成り立たない」みたいなことがある中で、一番誰でも笑わせられる選択肢ではなく、あえてわからないこととか「この世代だったらわかるけど」みたいなことを一瞬入れている。そのバランス感覚が俺はすごく好きです。

くるま 嬉しいね。トータルで考えた時にその方が成功するなって。このたとえが合っているかわからないんですけど、ディズニーのファストパスみたいな感じ。ファストパスと普通の列があるじゃないですか。自分たちのネタがジェットコースターだとした時に、前提知識が必要なボケがあって、それを知っていたら早く辿り着ける。でも知らなくても意味は通るようになっていて。「別にファストパスを取ったやつが早く乗れる分にはよくないですか?」って。それをやった方がパーク全体が回るじゃないですか。

高木 面白い、なるほどね。

くるま その方が活発になるでしょ、っていう。

Photo by Satoshi Hata, Hair and Make-up by Riku Murata, Styling by Yuya Nakajima

ズラす、令和ロマン 被りを避ける、BREIMEN

高木 ネタってどうやって作ってますか?

くるま ネタによって作り方が違うんですけど。「しゃべくり漫才」と「漫才コント」があって、漫才コントの場合は、基本的に既存の作品からしかほぼ作らなくて。映画、漫画、アニメとかを見てあらすじを書き出して、それをズラすという感覚が僕は好きなんですよ。

高木 へえ!

くるま 漫才コントって都合いいことが多いんですけど、お笑いのためにストーリーが歪むのはあまり気持ちよくないなと思って。すでに成功してるストーリーの型をズラした方が早くできるし違和感が少ないなと思って、そういうふうにやってます。

ケムリ ……知らなかったです。

高木 知らなかった!?(笑)

くるま 知っとけよ。音楽の歌ネタとかもやったりするんですけど、それも既存の音楽を聴いてそのまま歌うネタが多くて。back numberさん、AKB48の歌をそのまま歌うネタとか。大体みんなはオリジナルソングを作るネタが多いんですけど、俺らはあまりやらないですね。事実を面白く解釈することがすごく好きなので。

高木 ああなるほどね。

くるま ないものよりあるものの方が好きなんですよね。あるものでやってるから、あるものを知ってるかどうかによって面白さは変わってくるんですよね。でもそれでいいと思ってて。

高木 そもそも前提として、文化が好きなんだろうなと思いました。

くるま 好きですね。

ケムリ 二人とも人の話が好きなんですよね。人を見てるのが好きですね。

くるま そこはどうなんですか? 音楽の人も、音楽を聴いてヒントを得たりするじゃないですか。

高木 そうですね。音楽だと、コード進行とかも人が気持ちいいと思うラインに留めようとするとある程度限られているので、俺の場合、どう何とも被らないようにするかをやってますね。音楽の特性上、そもそも人の聴き方が、「何かと似てる」ということで引っかかったり、どこかで自分の記憶と結びつけたりしないとわからないんだと思うんです。前提がそうだから、逆にいかないと本当に似ていっちゃうというのが俺の持論で。あと単純に、自分がなるべく聴いたことないものを作りたいという意思で頑張っていて。その中でもポップミュージックに落とし込むとどこかで自ずと聴き馴染みは出るから、それでいいバランスなのかなと思ってますね。

くるま なるほど。聴いたことのないパーツを集めてるけど、最後に調整することで、ちょっとは寄っていくみたいな。

高木 そうですね。ポップミュージックという範囲だと、音楽の持つ性質上、そもそもそうなるのかな。

くるま お笑いはある種「コード」が全部一緒ですよね。これもあまりバレてないけど、気持ちいいのは大体一緒じゃないですか。大体出揃っている。まじで中身の勝負なんですよね。

Photo by Satoshi Hata, Hair and Make-up by Riku Murata, Styling by Yuya Nakajima

分析か、感性か?

ー最後にひとつ、テーマを放り込んでもいいですか? 下の世代はそれこそTikTokとかを分析して戦略的にコンテンツを作ることが当たり前という感じになっていて、逆に上の世代はどちらかというと「ミュージシャンが作品作りにおいてマーケティングを考えるのはダサい」みたいな感じがあったと思うんです。その狭間世代でもある気がしていて、「分析」と「感性」のバランスを令和ロマンとBREIMENがそれぞれどう考えているかを聞いてみたいです。

くるま 今の言い方でいうと、俺は逆を当ててますね。上の世代のものに対しては分析してるし、下の世代のものに対しては感性でぶつかってるところがあるかもしれないです。

高木 おもしろ。

くるま 今言われた時に思いました。それこそM-1は上の世代のものなわけじゃないですか。それを「やりたいことをぶつける感性の場」だと言ってるから、下の世代の道具としての「分析」をするし、逆に下の世代のYouTuberの人とコラボする時は、お笑いとして成立させよう、分析的に伸びるための動画を撮ろうとかは考えず、ただ話が合ったやつとゲームしたりしゃべったりするだけと思うようにしているんですよね。僕は自然とそこをチョイスしてました。

ケムリ くるまが「分析してる」というふうに見られていて、「分析してるんだと思ったら笑えない」とか言ってくる人をたまに見るんですけど、分析は全部した方がいいと思うんですよ。

高木 「分析」という字面がちょっとアレなだけで……。

ケムリ そうですね、「考える」っていう。

高木 そう、考えるということはしますよね。俺だったら、たとえばKing Gnuがちょっと上の世代の友達で、音楽業界で革命的なことをしたと思うし「なんでそうなったんだろう」ということは普通に考えるし。分析した上で、そのやり方やロジックをそのままやるわけではないじゃないですか。分析して「これだったらウケる」ということだけをやっていても楽しくはないから、バランスなのかなと思うんですけど……どんな感じですか?

くるま 「売れるための分析」と「ウケるための分析」はまたちょっと違うじゃないですか。「自分にとってよりいい音楽になるための分析」と「売れるための分析」、2種類あると思ってて。僕らは、分析こそしているんですけど、「売れるため」というより「ウケるため」にやっている。だからある種、上の世代っぽい価値観ではあると思うんですよ。自分にとって幸せになるための解析をしてるだけという感じかもしれないですね。

高木 俺もかなり同じです。むしろ「売れるための分析」が苦手で。世で売れているものを聴いても、自分の感覚が乖離しすぎてるなと思って。4月に出すアルバムでメジャーデビューになるんですけど、そのタイミングでソニー・ミュージックと関わるようになって、売れるための分析はチームに任せちゃってるかも。曲を作る時に「売れるため」を考えちゃうと、俺は筆が動かなくて。だから分けて考えているんですけど、そもそもやっていることがポップスの範囲に入っているとは思うから。そうやって人を頼ってバランスを作ってる感じかもしれないですね。

くるま でもそれがいいバランスですよね。お笑いは、売り出すプロデューサーみたいな人がいないんですよ。

ケムリ 芸人がやるしかない。

くるま そうそう。吉本は劇場を運営する会社であって、マネージャーさんもスケジュールを管理する仕事であって、プロモーションをする人がいないんですよ。

高木 ディレクターみたいな人もいないのか。

くるま お笑いの業界にはいないんですよ。「売れさせてもらった人」なんていないので。

ケムリ 劇場も売れた人を出す場所みたいなところがあるので。

くるま 本当は自分で売れるためのことを考えなきゃいけないんですけど。でもそうか、その代わりにM-1とかの賞レースがあって、考えることを排除して乗っていればいいから楽なのか。

ケムリ 面白さの分析だけでいいというね。

高木 M-1で順位が出ることで成り立っている部分はあるのかもしれないですね。音楽の場合、どこからが「売れた」なのかがすごく曖昧なので。

ケムリ 音楽は「売れてる音楽はクソ」みたいな空気も別であるじゃないですか。お笑いにはありえない。

くるま ありえないもんな。音楽は人間に近すぎるんですよ。芸術全般的に心とか人間との距離感で曖昧さが決まると思っていて。ニュアンスが多くて体系化ができないから、「こうしてこうしたら売れるから」みたいなものがないんですよね。お笑いもまあまあ人間の根幹に近いんですけど、音楽の場合はもっと、国境も越えられるし、構成要素も多いし、自分の肌のリズムみたいなものってかなり体に近すぎて。絵、彫刻とかはもっと遠いんですよ。

ケムリ お笑いは「笑う」という一個の感情にフォーカスしてるから、笑いで返ってくるし。でも音楽は悲しい曲も楽しい曲もあるから。

高木 それはそうですね。盛り上がってるライブが必ずしもいいわけではなくて。めっちゃ沁みてる時って別に盛り上がりはしない。音楽はジャッジ基準がたくさんありますよね。

ケムリ 音楽も「楽しい曲を演奏する人たちの大会」とかはできるんじゃないですか。どの曲が一番楽しかったか。

くるま 確かにね。それはもしかしたら見てみたいかもしれないですね。お笑いも、本も、全部、比べるのがナンセンスなことをわかった上でやってるから、音楽もやっていったら何かになるのかもしれないですよね。それでいて音楽は単純に楽器が上手い下手とか、アスリート的な部分もあって……本当に難しい世界ですね。

高木 二人と会ってみて、比べられる前提であることに腹を括っていることをすごく感じました。賞レースに出てたし、しかも優勝しているし。そこまでの葛藤とか色々あっても結果を出せていて、それって何にも変えがたいし、説得力になりますよね。本質的にいいと自分たちで思っていても、結果を何かに紐付けないと行けない場所があると思う。いざチャンピオンを目の前にすると、そこの覚悟がすごいなと思いました。優勝した直後のタイミングで言っちゃうとすごく嫌らしいですけど……普通に友達になりたいです。本当に呼べてよかったです。ありがとうございました!(※編集部注:このあと3人はLINE交換してました)

New Single

『Rolling Stone』

BREIMEN

発売日:2025年2月12日(水)

CD予約リンク https://VA.lnk.to/4jYH4M

収録楽曲

1. Rolling Stone

2. Bowling Star

3. Rolling Stone(Anime Version)

4. Rolling Stone(Instrumental)

5. Bowling Star(Instrumental)

HP:https://www.brei.men/

『漫才過剰考察』

著:髙比良くるま

辰巳出版

発売中