トップシークレットマンしのだが語る、大胆すぎるマッシュアップ、100 gecsからの影響

耳の早いリスナーを中心に、ライブハウスとSNSで大きな話題を集めているバンド、トップシークレットマン。1stミニアルバム『漫喫、レイプされた先輩へ』がコンプライアンスに引っかかって配信停止されるなど過激なニュースでも注目を集めたが、何より注目すべきは、そのサウンドだ。パンクロック、ハードコア、テクノ、EDM、ハイパーポップ、青春パンクをごちゃ混ぜにして大胆にマッシュアップしたそのサウンドは、どこか懐かしくもあり、新鮮さも持っている。果たして、トップシークレットマンとは何者なのか? フロントマンのしのだりょうすけにインタビューで迫った。

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ートップシークレットマンの音楽は、刺激的で斬新でありながら、どこか懐かしさも感じてとても新鮮です。どのように楽曲を生み出しているんでしょう?

シノダ:いま言ってくれたことが、多分もう答えで。そもそも僕はただの音楽ラバーで、好きなジャンルを全部マッシュアップしているみたいな感覚なんです。だから、新ジャンルを作ってやろうとか、新しいジャンルやってるなみたいな感覚はなくて。懐かしさもちょっとあるよねって意味は、そういうことなんでしょうね。

ー元々はハードコアパンクとかがお好きだと拝見しました。

シノダ:そこは本当に多岐に渡ってって感じで、クラシカルなジャズやブルース以外ほとんど聴いてきて。今まで蓄えてきた引き出しの中から、特に好きだったパンク、ハードコア、ヒップホップ、テクノ、EDMなどを中心に、このバンドでやっているって感じですね。

ー別のインタビューで、最初はグランジがお好きだったとも拝見しました。

シノダ:僕、マキシマム ザ ホルモンがめちゃくちゃ大好きで。小学生くらいのときから、ずっとホルモン一強みたいな感じで聴いていて。中学生くらいで、POLYSICSとか電気グルーヴ、THE MAD CAPSULE MARKETSあたりが好きになり、日本のバンドばかり、ずっと聴いていたんですよ。海外のバンドを聴き始めたきっかけがニルヴァーナで。そこからニルヴァーナ寄りのグランジも聴くようになりました。そういう意味で、マジで最初に洋楽にハマったのは、グランジと、アークティック・モンキーズですかね。ガレージリバイバルのバンドはめちゃくちゃ影響を受けました。自分の音楽性には直接的には投影はされてないんですけど、めっちゃ大好きです。

ー例えば、リバティーンズとかストロークスなども好きだった?

シノダ:自分の趣向的には、ブルース寄りのガレージロックの方にはあまり傾かなかったんですよね。アクモンがちょっと異質すぎたじゃないですか? むしろリバティーンズの方がガレージロックリバイバルって言われてる通り、ちゃんとリバイバルしているというか。

ートップシークレットマンの楽曲で、デジタルハードコアっぽく感じる部分は、THE MAD CAPSULE MARKETSなどの流れからの影響ですか?

シノダ:どっちかというと、アタリ・ティーンエイジ・ライオットですね。アタリがむっちゃ好きだったので、前に出したアルバムだとアタリだったり、最近の曲で言うと、100 gecsっていうハイパーポップのヒップホップユニットなど、雑多に影響を受けていますね。そこにメロコア、青春パンク、ハードコアが掛け算されているような形というか。

ー確かに、キックの音はアタリの感じが強いですもんね。

シノダ:完全にアタリと同じ音を作って出しました(笑)。

ーそうした音楽ルーツを、1曲の中でかなり大胆に融合させているのが、できそうでできないことだと思うんですよ。

シノダ:今でこそ、自分の中でこう展開させていったら安牌でハマる、みたいな方法がわかってきたところはあるんですけど、例えばメロコアをやりたいんだったら完全にメロコアっぽく作るとか、ハードコアがやりたいんだったらハードコアっぽく作るとかってだけじゃ、シンプルにつまらないじゃないですか? 本当は、自分はもっとめっちゃ好きな音楽がいっぱいあって、それを全部やりたいのにみたいに思っていて。

ー自分が好きなものをとにかく全部融合させたほうが刺激的だったと。

シノダ:100 gecsってユニットは、それを大胆にマッシュアップしたんですよ。バンドサウンドから、いきなりトラップになり、EDMのドロップダウンするみたいに、徐々にいろんな要素を加えて展開していく。彼らの音楽を聴いたとき、僕もその要領で実験してみたくなって。前回出したアルバムは、完全にそういう考え方で、ほぼ全曲を作りましたね。

ー大胆でありながら、それを1曲にまとめ上げるのがすごいところですよね。

シノダ:当時の僕は、いい感じに何もわかってなかったので、それも相まって、今よりももっと自由に考えて曲を作れていたなって思いますね。

ー楽曲制作は独学で?

シノダ:完全に独学ですね。1回、音大に行こうと思って試験を受けて受かったんですけど、結局、入学式に行く前、辞退して。だから、人に教えてもらう感覚はずっとなかったですね。僕は、結構音感はあると思っていて。あと、メロディだけはすごく自信があるんですよ。なので、楽譜とかに書き起こして理論と照らし合わせてやっているわけじゃなくて、鼻歌でメロディを歌いながら、ギターを弾いて作っているぐらいで。めっちゃいいメロディを書けると思っていたので、人に習うっていう気持ちはまったくなかったですね。

ー辞退したとはいえ、音楽理論などは勉強したんですか?

シノダ:音楽理論でいうと、例えば楽典で今でも文字媒体の教科書を使っているじゃないですか? それが本当に苦手で。今でこそシンセサイザーの使い方とかで文字を見たり、文章の動画とかを見て学べるんですけど、やっぱり楽典だけは自分の中で本当にはまらなくて。5ページ目ぐらいまで読んでそのままだったので、ほぼ勉強はしなかったですね。

ー実際に機材を触ったりする中で知識を培っていったと。

シノダ:そうですね。あと、学校に通っていなかっただけで、友達だったり、先輩だったり、いろんな人とのディスカッションが、イコール学校に行く行為みたいな感じだったのかもしれないです。なので、完全に独学ってわけではないとは思うんです。

ーちなみに制作するときは、どんな機材を使っているんですか?

シノダ:それこそMACでDTMを立ち上げて、ドラムも打ち込みだし、ギターは自分で家で弾いて、それ以外もほぼ打ち込みです。

ートップシークレットマンって、ライブと音源の印象も結構違うなと思うんですね。ライブと音源の部分では、どう接続して考えているんでしょう?

シノダ:もちろん最初は、ライブで音源通りできたらいいなって感覚でやっていたんですけど、今のメンバーになって1年半くらいライブをやっていて思ったのは、全く違うものだなってことで。2ミックスの音源は2ミックスの音源作品だし、ライブでやっている音は、例えばMCバトルとかでDJの人が音源をかけてバトルするじゃないですか。それが、たまにバンドセットになったりするみたいな感覚です。音源にバンドセットがつきました、みたいな、そんな感覚かもしれない。その中で、ライブとしてのかっこよさをちゃんと出せるように、毎回ずっと音を気にしながらやっているし、メンバーもみんなキャラクターがいいので、みんなのことを信頼して任せていますね。

ーライブでの集客も増えてきていると思うんですけど、そこはどう捉えていますか?

シノダ:もちろん嬉しいですよ。なんですけど、僕は、いろんな人にちやほやされて承認欲求を満たすっていうよりは、自分は音楽しかできないって、いっときから思っちゃって。時間が経つごとに、どんどん真実味が増してきたみたいな状況なんです。だから、数字が増えてきたことは嬉しいけど、それ以上、特に何も思っていないみたいな感じですね。結局、俺にはもう、これしかないからみたいな。

ーただ、数字は音楽がリスナーに刺さっている、わかりやすい指標でもありますよね。

シノダ:それって、僕の中ではX(旧Twitter)でいいねをされるのと同じで。だって、Xで「ちんこ」って言って、めっちゃいいねつくこともあるじゃないですか? それは音楽でも別にありえるというか。そういうことなのかなと思います。

ーアルバムのジャケットが過激で、配信停止になってしまった事件もありました。歌詞でも過激的な表現もありますが、センセーショナルであることへの意識はありますか?

シノダ:例えば、90年代のサブカルでゲテモノとかそういうものが流行ったじゃないですか? あの人たちは、してやろうみたいな感じで、意図的にああいうことをやっていたと思うんです。たまに、そういう思想というか感覚的な部分で、僕を紐づけてきそうな人がいて。僕はそれにプライドを持ってやっているわけではないので、いつもそれを否定するんです。してやろう!みたいな感覚として自分の中であった部分でいうと、あのアルバム本当は流通するつもりだったんですよ。あるレーベルを通じて流通する予定だったので、全部をストレートにして、ビジュも出し切って。これがショップに並んで、かつ売り上げを立てられれば、俺、業界ちょっと変えられちゃうんじゃね?とか思っちゃって。とにかく全部やってやろうみたいな感覚だったんですよ、正直。何も濁さず。で、やった結果、流通できなくて、ショップからも弾かれちゃって。そういう意味では、してやろう!という気持ちはちょっとありますね。ただそれは、グロいことをやることにプライドを持っていたわけではなくて、1回全部伝えちゃおうと思って。ちゃんと伝えたいものを確立した上で、いろいろ表現をしたかったという気持ちでした。

ーもしあのアルバムがショップに置かれていたら、みたいなことは考えますか?

シノダ:そのとき考えていた利害と、今考える創造的利害はもちろん違うんですけど、自分が思うのは、社会人じゃないというところで。ただ表現して、それをたまたまお金にしてくれるチャンスを得られるのが、CDショップに置いてもらったりすることだから、僕らは事件を起こさないといけないと思うんですよ。それが人を不快にさせる一方で、誰かには新たな刺激となって、いい方向に転ぶこともあると思う。そうやって事件を起こして、起こして、起こしていきたい。革命もそうじゃないですか? 1回反乱を起こして、無理やりストロングスタイルに変えるのが革命じゃないですか? 僕はめっちゃ叩かれるんすけど、あまり何も感じてないですね。要は革命を起こしたかっただけなので。言葉がちょっと政治的すぎて嫌ですけど(笑)。

ー正直、受け手がちゃんとキャッチアップできなくなっている部分もあると思うんです。みんなコンプラにがんじがらめになっているというか。

シノダ:10年前くらいでも厳しくはなりつつあったけど、まだ全然行けたじゃないですか。でも今って、コンプラ的な意味合いとかもさらに極致にきてると思って。リスナーも普段の会話ではそんなこと絶対考えてないのに、目立ったところには、めっちゃ言ってくるみたいな状況で。意味わからないですけど、確かにそれは言えているかもしれないですね。

ーそういういまの時代において、トップシークレットマンの音楽は、レベルミュージックだと思うんですよね。

シノダ:結局、伝え方とか、言い方とか、そこだけだと思うんですよね。別に僕は意識してやっているわけじゃないんですけど、清楚系っぽく見える人が不倫したらめっちゃ燃えるじゃないすか? でも不倫してそうなやつが不倫を取り上げられても、そうだよねみたいな。受け手の8割ぐらいは、ただ風潮に乗っ取られてるだけみたいな。僕、今めっちゃ叩かれるんですけど、タフに続けてれば、多分あと5年ぐらい経ったら完全に巻き返せるのかなとちょっと思っていて。逆に、僕が折れたら、おそらくもっと叩かれるんですよ。

ー最近では、LiVSというアイドルグループにも楽曲提供をしたり、音楽家としての幅も広がっていますね。

シノダ:LiVSへの楽曲提供は、すごく勉強になって。自分の声の資本は男だから、それをエフェクトでピッチを上げたりすることしかできなかったので、それを女の人の声で、しかも6人分の声のキャラクターでやらせてもらったことが、すごくいい経験だったんですよ。ただ、今後の自分の魂胆としては、自分のやりたいことを100%ずっとやり続けることに尽きるので、コンスタントにいっぱい人に曲は作らないんじゃないかなとも思います。

ー現状、音楽的な部分での野心というか、チャレンジしたいことはありますか?

シノダ:自分の好きな音楽たちをマッシュアップすることが、自分の中の楽しみなので、それに尽きるんですけど、数字が伸びてきちゃったことで、メンバーの生活もちょっとずつ抱えるようになってきて。そういう意味で言うと、ここ2、3年くらいには、メンバーが生活できるぐらいに伸ばしていきたいなって、数字に対しての野心はちょっとあります。でもそれくらいです。別に1億円、2億円給料をもらったところで、新宿のタワマンに住んでその次どうすんの?みたいな話じゃないですか。別に金持ちになっても、車はワゴンRでいいと思っているし、スポーツカーとかいらないので。やりたいことを100%やり続けられたらなと思います。

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