土壌改良、マルチング、保温材などいろいろ使える
わが家で収穫したコメは、家のすぐ近くにあるライスセンターで乾燥・調整作業(※1)をやってもらっている。ライスセンターでは、近隣の多くの農家からそうやって生のもみを受け入れており、施設の裏にはもみすりのあとに出るもみ殻が巨大な山になっている。もみ殻は田んぼや畑にまくなどして処理しているようだが、量が量なのでそれなりに手間と時間がかかる。だから「少し分けてほしい」と言えば、「少しと言わず、できるだけたくさん持っていってくれよ」と、合板で即席の高いアオリを立てた軽トラの荷台に、ホイールローダーでバケットいっぱいのもみ殻をごっそりと入れてくれる。
※1 コンバインなどで収穫したもみを乾燥、もみすり、選別し、玄米として包装するまでの作業。
家庭菜園愛好家にとってもみ殻は、たいへん有用な資材だ。畑にすき込めば透水性や通気性の改善に役立つし、畝や通路に敷けばマルチング材になる。堆肥(たいひ)の材料としても使えるし、冬季にサツマイモやサトイモを保存する際の保温材にもなる。
それで、軽トラで家とライスセンターを4往復して、大量のもみ殻をもらってきた。1杯目はうちで飼っているニワトリとヤギの敷料に。2杯目は貯蔵するイモ類の保温に。3杯目はマルチングなど畑への施用に。最後の1杯はもみ殻くん炭を作るために。
ゴミが出ない多機能有機物マルチ
もみ殻は一片一片が小舟のような形をしている。畑にすき込むと土の粒子の間に入って隙間(すきま)をつくり、それが水や空気の通り道となって透水性や通気性が向上する。もみ殻の組織自体にも細かい隙間がたくさんある。そこに水分や肥料分が入り込むと、なかなか外に出ることができなくなり、それによって保水性や保肥性も高まる。
もみ殻の主成分はセルロースやリグニンといった硬い繊維質で形が崩れにくく、土にすき込んでも分解に時間がかかる。通常、もみ殻のような炭素率が高い有機物を土の中にすき込むと、微生物が急激に増えて、土壌中の窒素が不足する窒素飢餓が発生し、植物の生育に悪影響を及ぼすが、もみ殻は非常に分解されにくいため大量にすき込んでも窒素飢餓が起こりにくい。分解されにくいということは土壌改良効果が長持ちするということでもある。
もみ殻自体の小さな隙間と舟形によってできる大きな隙間に含まれる空気には、断熱効果もある。マルチング材として畑に敷けば夏の地温上昇が抑えられるし、冬は地温低下を緩和できる。また、雨水は通すが、地表からの蒸発は防ぐので土壌の乾燥を防ぎ、適度な湿度が保たれる。厚く敷き詰めれば雑草の防除効果も高い。そのどれをとってもポリエチレン製のマルチより優れていると私は思っているが、何よりも使ったあとでゴミにならないのがいい。マルチとしての役割を終えた後は畑にすき込んでしまえば、そのまま土壌改良に役立つのである。
肥料分はほとんどなく、窒素は0.5%程度。含有成分の特徴としては、植物にとって重要な微量要素で、植物体を丈夫にするケイ酸を20%近く含む。これは身近な有機物の中でも段違いに多い含有量だ。ケイ酸は病原菌の侵入を防ぐ働きがあるといわれ、キュウリやカボチャ、イチゴなどのうどんこ病を抑えることも確認されている。
もみ殻くん炭にすると効果がパワーアップする
もみ殻はそのままでもこれだけの実力をもつ優れた資材だが、蒸し焼きにして炭にすることでさらにパワーアップする。もともと持っている効果が底上げされ、新たな機能も加わるのだ。
もみ殻が炭化すると組織内のガス成分が燃焼し、そのあとには極めて小さな無数の穴が残る。それが菌根菌や糸状菌といった有用な根圏微生物(根の周りに生息する微生物)のすみかになり、土壌微生物の増殖や活性化を促す。そうやって土壌の小さな生き物が豊かになれば有機物の分解が進み、作物への養分供給がスムーズに行われる。土の団粒構造も発達し、多様な生物が拮抗(きっこう)することで土壌病害の抑制にもつながる。作物が育ちやすい環境ができていくのだ。マルチとしても、黒く炭化することで太陽熱を吸収しやすくなり、気温が低いときの地温上昇効果が高まる。
また、もみ殻くん炭のpHは8~10の強いアルカリ性であるため、石灰の代わりとして酸性に傾いた土壌の矯正にも役立つ。もみ殻に含まれるケイ酸は炭にすると水に溶けやすくなり、植物がより吸収しやすくなる。重量あたりの含有量は50%近くまでアップする(炭にすることで体積が減り、重量が軽くなるため)。
もみ殻くん炭の作り方
もみ殻くん炭は「くん炭製造器」を使って簡単に作れる。ホームセンターやインターネットで3000円くらいから手に入る。
もみ殻くん炭作りは、火を扱い、煙が大量に発生するため、周囲に迷惑がかからない広い庭や畑などで、風が静かな日に行う。最後に消火して熱を冷ますための水も準備しておくこと。井戸や水道を使える場所なら問題ないが、そうではない場合、水はなるべくたくさん用意しておく。炭化時は500℃を超える高温になるので、少々水をかけたくらいでは熱は冷めない。冷却が不十分だと消火したつもりでも発火する恐れがある。
くん炭製造器で一度に焼けるもみ殻は200リットルが目安。一般的なドラム缶1個分の量だ。炭化したもみ殻は体積が6~8割に縮まるので120~160リットルのもみ殻くん炭ができる。
まずは着火。乾いた枝や細い薪(まき)を井桁に組んで中心にスギの葉をこんもりと山にする。その上にさらに枝や薪を乗せてスギの葉に着火する。最初はもくもくと煙が上がるが、それが収まると勢いよく燃え上がる。スギの葉がなければ市販の着火剤を使えばすぐに火がつく。
小枝や薪に火が燃え移り、安定したらくん炭製造器をかぶせてスコップで周りにもみ殻をかけていく。燃え始めは空気を遮断しすぎると消えてしまうので、もみ殻は下の方から徐々に寄せていき、薪が燃え尽きる前に煙突の側面に開いている空気孔の最上部が隠れるくらい盛り上げる。
煙突から白い煙が大量に出始めればうまくいっている。煙が出ていなければ火が消えているので、最初からやり直し。
30分ほどすると煙突の周りのもみ殻が少しずつ焦げて黒くなってくる。炭化は上部から周囲に広がり、まだらに焦げていく。
炭化していないところのもみ殻をスコップですくい、黒く焦げたところにかけてやる。この作業を繰り返し、山全体を均一に炭化させていく。
全体の8~9割が黒く炭化したらスコップで山を崩して手早く広げ、たっぷりと水をかける。
熱が冷めたら広げたまま1日以上置いて、その後、畑に施用するか、すぐに使わない場合は袋や容器に入れて保管する。熱が完全に冷めていないうちに袋などに入れてしまうと、発火の恐れがあるので気を付けること。
かつて、ある雑誌の取材でもみ殻くん炭の効果を、私の畑で実証したことがある。もみ殻くん炭を施用した畝と普通の畝で、ソラマメの生育と収量を比較したのだが、結果は普通畝に比べてくん炭畝が1.5倍の収量アップ。生育中の地表の温度は、くん炭畝が約1℃高かった。さらに収穫後に根を掘り上げると、くん炭畝のソラマメの根には大量の根粒(※2)がついており、土壌微生物の増殖と活発な活動も確認できたのだ。
※2 マメ科の植物には、空気中の窒素を固定する根粒菌という微生物が共生し、根粒といわれる粒が根につく。
もみ殻くん炭作りは多少の手間と時間がかかるが、タダで材料が手に入る上に、これだけの効果が期待できるのだから、それをやるだけの価値はある。そういえば、近所の直売所では500グラムのもみ殻くん炭が300円で売られているのだが、じゃんじゃん作ればちょっとした小遣い稼ぎもできるかも。