日本メーカーが得意としてきたタイの自動車市場に異変あり? クルマの電動化の進展とともに中国勢がシェアを伸ばしつつある? このあたりの実相を探るべく、バンコクで開催された国際モーターショー「モーターエキスポ2024」の会場を取材してきた。
中国メーカーの参入が急増中
「モーターエキスポ」はタイの首都バンコクで開催される2大モーターショーのひとつ。毎年初冬の開催で、日本のモーターショー同様、4輪車と2輪車の新車を中心に展示が行われる。
日本との最大の違いは現場でセールスが行われること。このため、一般公開日となると各社のブースには多くのセールスマンたちがスタンバイし、来場者に熱心な売り込みを行うのが通例となっている。多くの自動車販売会社がお買い得なキャンペーンを実施するため、購入検討者たちにとっても絶好の機会だ。
これまで、モーターエキスポの出展社といえば日本の自動車メーカーや欧州の有力自動車メーカーが中心で、そのほかには韓国のヒョンデやキア、中国のGWMやMGなど、早くからグローバル展開をしている中・韓のメーカーが加わる程度だったのだが、ここ最近、電気自動車(EV)メーカーを中心に参入企業が増えているのが中国勢だ。今回は全体で42のブランドが出展していたが、その半数近い19ブランドが中国メーカーであり、今回だけで9つの新興EVメーカーが加わったというから、その参入スピードには驚かされる。
中国メーカーの多くはEV中心の展示だった。実際に見ると、前衛的な内外装デザインやダッシュボードに鎮座する存在感たっぷりの巨大ディスプレイなど、先進性を売りにするクルマが多かった。世界感としてはテスラに通じるものがあるが、高級車を中心に独自性も見えるようになってきた。
高級ミニバンに勢い
今回のショーで目立ったのは、中国メーカー製のピックアップトラックと高級ミニバンだ。タイ市場では「1トンピックアップトラック」と呼ばれるボンネット付きのトラックのニーズが高い。2024年に日本再上陸を果たした三菱自動車工業「トライトン」も、タイで生産されるピックアップトラックのひとつだ。その市場を狙って、EVやプラグインハイブリッド車(PHEV)のピックアップトラックを展示する中国メーカーも多かった。
トヨタ自動車「アルファード」などの高級ミニバンは日本で人気が高いが、その流れはアジア諸国にも広がっている。タイでもアルファードは大人気車で、街中でも多く見かけるようになっている。
そのブームにあやかろうとしてか、今回は中国メーカーが多くの高級ミニバンを出展していた。家族を大切にするタイ人の高級ミニバンへの関心は高く、多くの人が見て触れていたのが印象的だった。
日本メーカーの展示内容は?
日本車メーカーではトヨタが2024年10月に発表したばかりのハイブリッドセダン「カムリ」(フルモデルチェンジモデル)を展示。このクルマの歴代モデルは、タイでカンパニーカーとして重宝されてきた歴史がある。
日産自動車はミニバン「セレナ」をタイに初導入することを発表。マイルドハイブリッド車は先代モデルを、e-POWER(ハイブリッド)車は現行型を投入するという。仕様違いで新旧を投入するという計画には驚かされた。これには価格戦略的な意味もあるのだろう。
ほかにはマツダがミッドSUV「CX-5」とピックアップトラック「BT-50」、いすゞ自動車が新開発のディーゼルエンジンを搭載するミッドSUV「MU-X」とピックアップトラック「D-MAX」、タイで人気の高いホンダが「HR-V」(日本名:ヴェゼル)をそれぞれ展示していたが、いずれも改良型(マイナーチェンジモデル)であるため、ちょっとインパクトに欠けていたというのが正直な感想。日本車メーカー各社はタイで充実のラインアップを取りそろえているものの、新興勢力が拡大するショーの現場では目新しさを打ち出すのも重要だと思う。
BYDは高級EVミニバン投入! 中国勢が躍動
BYDは現時点でEV中心のラインアップだが、PHEVの導入も始めている。さらには高級車ブランド「デンザ」のタイへの導入も推進中だ。第1弾モデルは2023年の「ジャパンモビリティショー」(JMS)でも大きな話題となった高級ミニバン「D9」となる。EVのみの展開で価格は199.99万バーツ(日本円で900万円ほど)からと超高価だ。将来的には日本へのデンザ導入も狙っていることだろう。
今年の「タイカーオブザイヤー」は、やはり中国メーカー製の「MG 3ハイブリッドプラス」が受賞した。小型5ドアハッチバックのストロングハイブリッド車で、26.2km/Lの低燃費と手頃な価格が評価されたという。私自身は運転していないので日本のハイブリッドカーとの比較はできないが、燃費と価格でいえば競争力が高そうなクルマだ。ちなみにMGは伝統的な英国車ブランドだったが、ブランドを保有していた英国のMGローバーが破綻した際、中国の自動車メーカーである上海汽車が買収したという経緯がある。
タイの自動車市場、現状は?
モーターエキスポでの新車予約の結果だが、1位はトヨタが獲得したものの、なんと2位につけたのはBYDだった。3位にホンダ、4位にAION(アイオン)、5位にMG、6位にDEEPAL(ディーパル)、7位に三菱、8位に日産、9位にGWM、10位にNETA(ネタ)と続き、上位の多くを中国車が占める結果となった。とりわけBYDの存在感が際立つ結果だ。
予約が成立したクルマ全体の41.3%を占めたのはEVだった。もちろん各社の販促による後押しがあったには違いないが、タイでEV購入検討者が増えているという傾向は読み取れる。
タイ市場全体では、依然として日本メーカーが高いシェアを維持している。2024年1月~10月の数字では日本勢の乗用車シェアが63.2%、中国勢が19.4%だった。ただ、ショーのデータほどの影響は出ていないものの、近年、徐々に中国車のシェアが拡大しているのも現実だ。ちなみに、商用車については全体の84.4%が日本車と圧倒的なシェアを獲得している。
タイで勢いを増す中国のEVメーカーにも悩みはある。タイの新車販売自体が低迷気味で、特にEVでその傾向が強いことだ。また、中国EVメーカーの多くは、近い将来の現地生産を条件に現在の関税を免除してもらっているため、今後、規定された台数のEVを現地製造するという義務を負っている。すでに中国のEVメーカーからは、タイ政府に台数削減の陳情が出ているとも聞く。このまま中国車が勢いを増していくかどうかは不透明な情勢だ。
個人的には、これまで同様、多くの人に日本車が愛されるタイであってほしいと願うばかりである。