岡さんは、株式会社富士通研究所、NIH(アメリカ国立衛生研究所)およびウッズホール海洋生物学研究所研究員を経て、1995年に慶應義塾大学理工学部機械工学科専任講師に。その後、1998年にシステムデザイン工学科助教授、2005年には生命情報学科教授に就任し、2023年4月に北里大学未来工学部の学部長に就任しました。
◆“未来工学部”とは?
はじめに笹川は、あまり聞き馴染みのない“未来工学”という学部について伺うと、「“未来工学”という言葉自体は造語で、いま問題になっていること、そもそも我々がまだ問題だと捉えていないことを調べたり、研究するところ。“工学”は問題を解決する学問なので、そういう意味では“未来に起きるかもしれない問題を先に手を回して解決しましょう”というのが、私たちの考える未来工学です」と岡さんは解説します。
北里大学は、新千円札の肖像でもある医学者で細菌学者の北里柴三郎を学祖とし、北里研究所創立50周年を記念して1962年に創設。医療と生命科学(ライフサイエンス)の分野、特にライフサイエンスに関しては農業や漁業に関わることまで幅広く扱う私立大学で、2023年4月に25年ぶりに開設した新学部が未来工学部です。
設立した背景について、「(北里大学には)生命系の情報などが非常に多くあるのですが、そうしたものを(効果的に)使うと、もっと我々の生活が良くなるのではないか。例えば、病気になる前に気付くことができて先手を打つことができるのではないか。そういうことを期待して設立されたのだと思っています」と話します。
続いて、そんな学部にどんな学生が集まっているのかを聞いてみると、「僕は最初から“瞳がキラキラした人”が欲しくて。すぐにでもイタズラしそうで、新しいことに『面白そうだからやってみよう』『どうなっているか分からないから調べてみよう』と、自分で積極的に動ける子が面白いと思っているし、いま集まっている子もそういう感じです」と期待を込めます。
◆社会に出て役立つ未来工学部の“学び”
続いて、未来工学部の授業内容について伺うと、岡さんは「工学部ではあるんですけど、実験や機械を作ることはやりません。そうなると、我々が生み出せるのは“プログラム”なんですよね。だから、今はプログラミングにかなり力を入れて教えています。ゆくゆくは(生徒たちを)『プログラミングができます!』と堂々と客先で言えるようなエンジニアにしたいですね」と力を込めます。
また“データサイエンス教育”についても言及し、「データをいかに定量的に扱うか、または、複雑で山のようなデータをどうしたら理解できる形に仕分けることができるのか。これがデータサイエンスのやりたいことで、その大量のデータを仕分けるためには多少の“理屈”が必要です。この分野で理屈となると数学なので、そこは少し学ばないといけない。一方で、理屈だけでは(学生は)なかなか動かないし、理屈だけを詰め込むと頭が爆発してしまうので、実際にデータを渡していじってみることも必要になります。そういう際にも、やはりプログラミングはできたほうがいいので、“知識としてのデータサイエンス”と“手に職としてのデータサイエンス”の両方から攻めていくのが我々の教育になります」と説明します。
この教育方針に、笹川は「データだけ集めても、それを使いこなせて仕分けられないと仕事に活かせない。その学びを得ていると、社会に出たときに即戦力になれますよね」と感心しきり。
さらには、「ライフサイエンス・メディカル系に強い大学のデータサイエンスというと、医療や創薬の分野に向かいがちですが、我々の学生には『お花屋さんにいけばお花屋さんの、魚屋さんにいけば魚屋さんのデータサイエンスがあって、そういうところに関わることで今までとは違った新しい気づきがある』という話をしています」と岡さん。
これは“新しい課題には常にゼロから立ち向かうこと”が重要なことと言い、「“私は〇〇の専門家だから……”ということは全部捨てて、『相手が言っている言葉が分からなければ「どういう意味ですか?」とちゃんと聞いて、相手と同じ土俵に立つ。そこからが仕事だよ』という話をよくしています」と声を大にします。
◆デジタル社会が進んでも重要なのは“人”
未来工学部では、データサイエンスを学ぶことで学生をアップデートすることを目指しています。岡さんは「大学在学期間というのは“社会や人との接点を改めて考え直す時間”だと思っています。そこに、データサイエンスという考え方が入っていると、それを使って相手との関係に新しいものが見出せる。それはすごくいいことだと思いますし、社会人になっても常にアップデートをしていかなければならない。そう考えると、そのファーストステップとして(大学を)使ってもらえるといいんじゃないかなと思います」と言います。
さらには「今後、コンピューターがやってくれることはどんどん増えてくると思いますし、人と人との距離は広がり、疎遠になる。でも、(対面して)話をすることが本当は大切なんですよね」とも。
最後に、岡さんが考える未来工学部の学生たちの将来像を聞いてみると、「北里大学では創薬研究がすごく進んでいますが、地面を掘って微生物から薬を作る研究もいまだにあって、それは新規性が高くていいんですけど、これからは“コンピューターのなかで掘ってみようよ”っていうことがでてくるようになってもいいのではないかと思います」とコメント。
ほかにも、「“(今までと)違う見方をしたい”“今までのやり方では解決できない”という人がいるような業種は、我々が関わっていかないといけない分野だと思います。だから、(未来工学部の)一期生には『学部の仲間と一緒の会社に行きたい』ではなく、それぞれがいろんな業種に散らばって活躍して欲しいなと思っています」と期待を寄せていました。
次回12月21日(土)の放送は、引き続き、岡浩太郎さんをゲストに迎えてお届けします。貴重な話が聴けるかも!?
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<番組概要>
番組名:DIGITAL VORN Future Pix
放送日時:毎週土曜 20:00~20:30
パーソナリティ:笹川友里
番組Webサイト: https://www.tfm.co.jp/podcasts/futurepix/