パリ市立近代美術館の「L’Âge atomique」展を探る|アートと原子の交錯

原子力というものに対して、日本は当然ながら明るいイメージだけではない。むしろ、福島の事故以降、その印象はさらにネガティブになっている。フランスでは、今後自動車を電動一本に絞る政策に舵を切った。そのため、国民すべてが電動自動車に移行すれば、現在の電力供給では追いつかないとして、11基の原子力発電所を増設する法案が通った。フランスは原子力を「クリーンエネルギー」と呼ぶ。

【画像】パリで開催中の原子力をテーマにした美術展「LÂge atomique(原子の時代)」(写真26点)

パリサロンの給電システムを展示した各コーナーでも、クリーンエネルギーをイメージさせる太陽光パネルや風力発電のビジュアルやイラストが並ぶ。しかし、そこには原子力のイメージはほとんど登場しない。やはり、こちらでも原子力に100%ポジティブなイメージがあるわけではない。ヨーロッパにはチェルノブイリ原発事故の記憶があるからだ。

そんな原子力をテーマにした美術展が、現在パリで開催中だ。「LÂge atomique(原子の時代)」展は、20世紀を象徴するテーマである「原子」を通じて、科学と芸術の交錯を探求する画期的な展示となっている。展示作品は約250点に及び、絵画、写真、映像、インスタレーション、漫画、さらには未公開の貴重な資料が並ぶ。これらの作品から、原子がいかにアーティストたちにインスピレーションを与え、議論を引き起こしたのかを体験できる。

20世紀初頭、原子の構造や秘められたエネルギーに関する科学的発展が進んだ。展示はキュリー夫人の手帳から始まり、ヴァシリー・カンディンスキーやヒルマ・アフ・クリントが追求した「神秘的抽象」を紹介している。さらに、マルセル・デュシャンは科学の進歩によって明らかにされた感覚を超えた現象に触発され、コンセプチュアル・アートの道を切り開いた。

1945年8月、広島と長崎に原子爆弾が投下されたことで、原子の破壊的側面が露わになり、「原子の時代」が始まった。人類の運命を左右する核兵器と、その象徴であるキノコ雲に、アーティストたちはどのように反応したのかを示す展示が続く。

フランシス・ベーコン、サルバドール・ダリ、ジャクソン・ポロック、ルーチョ・フォンタナなど、20世紀後半を代表するアーティストたちは、それぞれの視点から核のテーマを探求した。核エネルギーの壮大な力に魅了され、中立的または美的なアプローチを取る者もいれば、核爆発の「壮観化」を批判し、人類の悲劇性を描いた者もいる。

また、冷戦時代における東西の核に対する異なる視点も紹介されている。ソ連や東側諸国における核のプロパガンダ、アメリカのポップカルチャーでの核の象徴化、そして日本では反芸術運動が核兵器への批判を展開した。これらは核というグローバルな問題に対する地域ごとの反応の違いを示している。

この展示は、科学と芸術の交差点に立ち、原子というテーマがいかに私たちの文化、思想、未来を形作ってきたかを再確認させてくれる貴重な機会だ。冷戦が終わり21世紀になって、ふたたびきな臭い世界に突入している。「LÂge atomique」は、アートを通じて現代社会の問題を捉え直すための鍵となる展示と言える。

タイトルを日本語に訳すと「原始時代」とも読める。原子力を誤れば、人類は「原始時代」に逆戻りするという皮肉にも見える、考えさせられるタイトルだ。

開催は2025年2月9日まで。

写真・文:櫻井朋成 Photography and Words: Tomonari SAKURAI