フィアットのMPV「ドブロ」(Doblo)の改良モデルが発売となった。「フィアット」はイタリアの自動車ブランドで、「MPV」はマルチ・パーパス・ヴィークル(日本で言えばミニバン的なクルマ)の頭文字だ。ミニバン大国の日本で、あえてドブロに乗る意義とは? 改良モデルに試乗して考えた。

  • フィアット「ドブロ」

    フィアット「ドブロ」の改良モデルが登場! 試乗してきた

改良で何が変わった?

改良の主な変更点は内外装だ。

外観では「FIAT」のロゴを刷新。新装備のLEDヘッドライトも相まって、より洗練された顔つきとなった。

  • フィアット「ドブロ」
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  • 今回の改良で「FIAT」のロゴが新タイプに。ヘッドライトはLEDになった

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    こちらが改良前の「ドブロ」

車体側面には、単に保護用という以上の素材の質感を備えた「サイドバンパー」を装着。グロスブラックの加飾とボディカラーの対比が目を引くデザイン要素となっている。

  • フィアット「ドブロ」
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  • ボディサイドにグロスブラックのサイドバンパーを装着

室内は黒を基調としているが、チャコールグレーのような明るさも感じる色調だ。そこに銀色のアクセントが織り込まれ、オシャレな雰囲気になっている。ドブロは「商用車ベースの乗用車」という出自を持つが、内装は簡素すぎず、イタリア車らしい色使いの快さが魅力だ。座席は濃紺(ネイビー)の生地に刺繍が織り込まれ、そこにも銀色の横線が彩りを加えている。

  • フィアット「ドブロ」
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  • 商用車ベースと聞くと内装は質素なのかと想像してしまうが、「ドブロ」はイタリア車らしくおしゃれな雰囲気だ

機能面ではアダプティブ・クルーズ・コントロール(ACC)の使い勝手が向上している。ACC作動中、渋滞などで停止した際には、3秒以内であれば自動で再発進してくれるようになった。車線維持機能の作動時には、右寄りや左寄りなど、運転者の希望に則した位置をキープしてくれる。

もっとも顕著な改良は、これらの運転支援機能を起動させるスイッチがハンドルのスポーク部に移動したこと。これで利便性が上がり、使う頻度も高まるだろう。

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  • 運転支援機能の操作スイッチがハンドルスポークに移動。改良前はレバーで操作する方式だった

欧州MPV3兄弟でドブロの立ち位置は?

今回試乗したのは、3列シート7人乗りの「ドブロ・マキシ」だ。

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    「ドブロ」には2列シート5人乗りの「ドブロ」(414万円)と3列シート7人乗りの「ドブロ・マキシ」(436万円)がある。写真は新色「ボラーレブルー」のドブロ・マキシ。落ち着いた外装色だがイタリア車ならではのしゃれた装いだ

フィアットはステランティス傘下のブランドだ。ドブロには、同じグループ内にプジョー「リフター」、シトロエン「ベルランゴ」という兄弟車が存在する。基本は同じMPVだが、外観を含め各ブランドがそれぞれの個性を盛り込んでいる。ドブロは3車種の中でいうと「標準車」(最もシンプルなクルマ)という位置付けであるという。

ドブロの価格が414万円からであるのに対し、ベルランゴは439万円、リフターは448万円からの価格設定となる。値段を見ても、ドブロの標準車的な商品性がうかがえる。したがって、これら3台のMPVの素性を知る上でも、ドブロに試乗する意味は大きい。

標準的な車種とはいいながら、ドブロはイタリアのフィアット製ということもあり、原価重視の廉価車種というよりも、乗用車として所有する喜びをもたらすMPVに仕上がっていると感じた。プジョーとシトロエンのフランスもファッションなどで知られる国柄だが、服飾でもそれぞれに別の魅力を発揮しているように、イタリア車には気持ちを揺さぶる佇まいがある。

ドアを開けて運転席に座ると、座席の色合いなど含め、決して「実用一点張りの廉価な標準車に乗っている」という失望感はない。スポーツカーであろうとセダンであろうと、そしてMPVであろうと、あえて選んだ嬉しさを感じされてくれるのがイタリア車の魅力だ。

座席はフランス車的なゆったりした座り心地のなかに、きちんと体を支えてくれる確かさを感じる。運転を始める前から、移動の疲れを和らげてくれるのではないかという期待感がある。

座席の寸法はやや小さめの印象だが、いざ走り出すと、的確に体を支える十分な機能を備えていることがわかった。試乗中、腰などに違和感を感じることもなかった。クルマの座席として、よく仕上がっている。

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  • 3列目シートを折りたたんでおけばラゲッジスペースを広く使える

ドブロの乗り味は?

直列4気筒のディーセルエンジンは排気量が1.5リッターで、ターボチャージャーによる過給が付く。それによって最高出力が高められているので、高速走行も楽だ。走り出しはディーゼルエンジンのよさがいかされていて、1.6トンほどあるドブロがスッと軽やかに動き出した。ディーゼルエンジンならではの騒音も耳に軽やかで、それほど気にならない。

ハンドル操作は軽く、思い通りに曲がれる快さがある。7人乗りのマキシ・ドブロは車体全長が4,770mmと5人乗りに比べて長いが、運転のしにくさは感じない。車幅は1,850mmとそれなりに広いものの、ビルの地下駐車場など狭くて圧迫感のあるところ以外では、クルマの大きさを意識させない身近さを感じた。路肩への幅寄せも容易だった。

もともと商用でも使うクルマとして設計してあるだけに、道路が込み入った都市部での使い勝手が悪いはずもなく、そこが乗用においても取り回しのよさとしていかされているのだろう。

乗り心地は快適だ。しっかりした手ごたえで信頼感がありながら、それでいて突き上げるような衝撃もない。商用と乗用で兼用の車体となると、かつては乗用専用に比べ乗り心地で不利な場面もあったが、ドブロにそうした心配は無用だ。同様のことは、新しいルノー「カングー」にもいえる。商用としての実用性と乗用としての快適性や走行性能が、よい方向で融合している。

高速道路に入り80km/hあたりになると、タイヤの接地感覚が増し、安定性がさらに向上した。これが、欧州車の味だ。欧州では郊外へ出ると80km/hで走れるため、そこで最大の性能を発揮するようクルマを仕上げる傾向が強い。さらに、欧州の高速道路は130km/hで走れるので、80km/hから上の操縦安定性に優れるクルマが多い。ドブロでも、そうした欧州風の走行性能を体感することができた。

高速道路では操作性が向上した運転支援機能を使ってみた。スイッチの操作方法については日本車のような丁寧さに欠ける面はあるものの、作動機能として文句はなく、高速での長距離移動が楽になるのは請け合いだ。

かつて、プジョーのリフターが発売されて間もなく試乗した際には、後ろのスライドドアの開閉がやや硬かったが、ドブロではより容易に開閉できた。

2列目シートの着座姿勢と座席の作りも優れていた。姿勢を正してきちんと座れるので、長距離移動でも疲れにくいはずだ。車内の静粛性が高いので、前席の人とも普段通り会話できる。

特筆すべきは3列目の座席の居心地のよさだ。足元にゆとりがあるだけでなく、床から座面までの距離が十分で、しっかりと足を下ろして座れる。なおかつ、3列目シートにも前後スライドとリクライニングの機能が付いている。

  • フィアット「ドブロ」

    3列目シートは「緊急用」ではなく、しっかりと座って移動できる作りになっていた

ドブロは想像以上にできのいいMPVだった。国産ミニバンとは違う乗り味があって、こちらを選ぶ意義も十分にあると思えた。ミニバンを検討している人にとっては有力な選択肢のひとつになるだろう。

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