【精神科医が解説】「実家や親の様子が、何だか違う……」「認知症ではなさそうだけど、元気がない」久しぶりの帰省で、家の様子に違和感を覚えたとき、子どもはどうすべきでしょうか? 精神科医の立場から回答します。

◆Q. 一人暮らしの母の元気がない。それだけで病院を受診させるべき?

Q. 「実家で一人暮らしをしている母がいます。年に1、2回ほど帰省するのですが、久しぶりに会うと、普段よりも元気がなさそうでした。母本人は、『何も困っていない』と言っており、話していても認知症を疑うほどの言動はありません。

元気がないだけで病院に行くよう促したほうがいいのか、高齢者なら自然なことなのか、アドバイスをいただきたいです」

◆A. 認知症だけでなく、うつ病などの可能性も。様子を見て

久しぶりの帰省をきっかけに、離れて暮らす家族の異変に気付く人は少なくありません。「元気がない」というだけで、どのような病気が考えられるか挙げるのは難しいのですが、認知症を除外すると、高齢者に多い「うつ」も見逃してはいけないものの1つです。

うつ病は珍しい病気ではありません。人口のおよそ5~8%の人が、人生で一度はうつ病を発症すると言われています。注意すべきなのは、誰でもなる可能性があるという点です。「長い人生で色々なことがあったけれど、心の病気になったことはない」という人でも、例外ではありません。

「うつ病」の場合、精神的な落ち込み以外にも、さまざまな変化が起こります。

・それまで楽しめていたことや趣味を楽しめなくなる

・食欲がない。または、反対に食欲がありすぎる(体重の減少や増加)

・寝つきが悪い、早朝に目が覚める、眠りすぎるなどの睡眠障害がある

・不安、焦燥感が強い

・自責の念が強くなる

・頭の回転が遅くなり、記憶力が低下する

・物事の決断をするのが苦手になる

・疲れやすく、日中の活動量も低下する

もしこれらの異変が見られるなら、注意が必要です。人間には気分の浮き沈みがありますから、一時的な落ち込みということも考えられます。しかし、うつ病の場合は通常の落ち込みとは異なり、放っておいてもよくなることはなく、悪化していきます。

「元気はないが、それ以外は大丈夫そう」と迷われるなら、まずはまわりの身近な人たちにその事実を共有し、離れていても見守りができる体制を作りましょう。2週間以上、抑うつ的な状態が見られる場合は、精神科(神経科)の受診を促すことを考えてください。

◇中嶋 泰憲プロフィール

千葉県内の精神病院に勤務する医師。慶応大学医学部卒業後、カリフォルニア大学バークレー校などに留学。留学中に自身も精神的な辛さを感じたことを機に、現代人の心の健康管理の重要性を感じ、精神病院の現場から、毎日の心の健康管理に役立つ情報発信を行っている。

文=中嶋 泰憲(医師)