「フューエル・ドクター」騒動と、鳥に襲われた話|『Octane』UKスタッフの愛車日記

『Octane』UKスタッフによる愛車レポート。1971年ホンダZ600で久しぶりに出かけることにしたリチャードが、予期せぬトラブルに遭遇した。

【画像】ホンダZ600でイギリスの風光明媚な山道をロードトリップ!(写真3点)

なかなかの体験だった。凍えるようだった手の感覚が徐々に戻るとズキズキし始めたが、少なくとももう車を押す必要はなくなった。冷たい雨の降りしきる中、私たちが車の中に戻ると、今度はカモメたちが襲ってきた。

ロードトリップで訪れたウェールズでの週末。荒れた天気と鳥の急降下爆撃のせいで、このオレンジの愉快な車での晴れやかなムードが一気に暗くなってしまった。

何が起きたか順番に話をしよう。

正直なところ、最近このZ600にはほとんど乗っていない。何度かスーパーに行くくらいだ。あとは、うっかり地元の夕方のカーショーに行ってみたものの、そこではこのおバカっぽい”Kei Car”よりも、日本の”チューナー”カーが人気だった。それに、このホンダの共同オーナーであるクリス・リースとの予定が合わないというのも理由のひとつだった。

しかしようやく、私たちにチャンスが訪れた。シュロップシャーの私の家を出発し、スノードニアとポートメイリオンを目指すことになったのだ。

私たちはスノードニアを堪能した。ホンダは急勾配の坂道でも平気だったし、下り坂も少し怖い程度だった。ポートメイリオンには行けなかったものの、ポルスマドグでは多くの時間を過ごした。クリスはフェラーリの会報誌の仕事で、喉の乾いたエキゾチカ(=燃費の悪い異国の車の意)とよく戯れる機会があることもあり、ガソリンスタンドを見つけるたびに燃料を満タンにすることがベストだと考えていた。

そしてこのとき、ガソリンポンプではなくディーゼルポンプを使ってしまうという、ちょっとした、否、大きな手違いがあった。

クリスは、給油開始から30秒ほどで自分のミスに気づいた。私たちはすっかり青ざめた。エンジンはかけなかった。その代わり、土砂降りの雨と強まる強風の中、駐車場を見つけるまで車を押した。この時、私たちは何度も金物屋に立ち寄っては、チューブやそれを切るためのナイフなど、車のトランクに積み忘れていたものを手に入れようとした。しかし、結局ガソリンタンクを空にすることはできなかった。仕方なくグリーンフラッグに電話して対応してもらうことになった。

作業員の到着を待っている間、雨が車の屋根をたたき、ウィンドウは曇ってきた。外から、何度も鈍い音がしてきた。ヒッチコック的だ、カモメたちがホンダを襲い始め、リアのオーバーライダーのゴムが犠牲となった。カモメも簡単には撃退できなかった。

その後、なんとか車の整備は済み、私たちは曲がりくねった道を通って夜にドルゲラウにたどり着き、翌日、オズウェストリーを経由して帰路についた。道中、私たちが笑い続けている間も、この小さなホンダは休まず走り続けてくれた。間違いなく今までで最高の車だと褒めてやりたい。

文:Richard Heseltine