88ヘクタールの水田を手掛ける中核的担い手
宮城県の北西部に位置する栗原市。同市一迫金田地区は昼夜の寒暖差が大きく、清らかな水質も相まって、食味に優れた米の県内有数の産地として知られている。一方でほぼ全域が機械化の困難な中山間地域であり、20アール以下の小区画田や未整備地も多い。こうした背景もあり、1995年に食糧管理法の廃止によって米価が下降線をたどるのと並行して、地区では担い手不足や高齢化による離農が相次いだ。
引き受け手がいない条件不利地も一手に引き受け、米を軸とした多角化経営に結び付けているのが、2001年に設立された川口グリーンセンターである。
「自分たちが価格を決められる直接販売でないと経営が成り立たない。将来的に組合自体も存続できなくなるだろう」。同社の前身は水稲の作業受託組合だったが、人材不足によって存続が危ぶまれた地域の産業を救うため、米の直接販売などができる法人化に向けて動き出したのが、当時機械オペレーターだった白鳥さんだ。
「私と現専務の2人で組織の立ち上げに動いたのですが、当時は反対意見も多くありました。若い2人に田んぼを任せるのが不安だったのでしょう。『乗っ取りではないのか』という質問状も来たくらいです」と笑う。
こうした経験もあり、条件の悪い圃場(ほじょう)も分け隔てなく引き受ける事で地域の信頼を得ていった。初年度には十数ヘクタールの圃場を集積し、敬遠されるような山手の条件不利地なども無償で引き受けるなど、行き場のない圃場を担ってきた。
現在の経営規模は設立時の4倍以上に上る88ヘクタール。米の販売は9割が直販で、約16トンをアメリカやフランスに輸出しているほか、コメ卸大手との契約栽培も行っている。直売所で始まった直接販売は、現在はインターネットが主戦場。特に、EC立ち上げ当初から出店しているという楽天市場での売り上げは上々だ。
中山間地、小区画田での農作業をどう省力化
地域農家の信頼を得て、毎年のように経営面積を増やしていった同社。水稲の大規模経営では大型機械などによる作業の効率化が欠かせないが、20アール以下の小区画田や中山間地では難しい。加えて、経営面積に比例して人員を雇用する必要もあるが、期間作業が主の水稲では、通年での仕事づくりが課題になる。課題が散見されるように見える条件下で、同社はどのように米作りと向き合っているのか。栽培と経営戦略の面からひも解いていく。
まずは栽培における作業の効率化の面から見ていこう。
同社では早生品種のササニシキやひめぼれ、晩生種のミルキークイーンなどの主食用米のほか、もち米や飼料用米計7品種を手掛けている。「消費者の趣向に合わせて品種を選定していますが、植え付け場所も各圃場の特性に合わせています。品種ごとに区画を分けて栽培拠点を固定することで作業性を良くし、もち米とうるち米が異品種混合するリスクも排除しています」(白鳥さん)
ICT技術を活用した圃場管理も、広大な圃場の管理と従業員の作業指示に役立っていると白鳥さんは評価している。2017年ごろから県の実証事業に参画し、大手Slerが展開する圃場管理システムの活用によって年間の圃場データや栽培に関する数値を見える化。次回の栽培でどの程度省力化できるかなどを検証してきた。結果的にこの事業は採算性が課題となり暗礁に乗り上げたが、ここで抽出したデータが後の栽培に生きていると白鳥さんは話す。
「2019年ごろからfacefarm(フェイスファーム)という履歴管理アプリを導入し、ここで抽出したデータを転用して活用しています。現場では作業指示や作業管理に利用しているほか、栽培のPDCAサイクルを回すことに役立っています」
直近ではGPS搭載の可変施肥田植機や農業用ドローンを導入するなど、農業機械の大型化により、生産性も飛躍的に向上している。計約500枚にも及ぶ水田の害虫防除は、住宅近くの圃場を農業用ドローンで、それ以外の圃場ではスーパースパウダーを活用している。カメムシ防除の作業受託も請け負っており、手掛ける規模は地区のほぼ全域に当たる延べ300ヘクタールに及ぶ。
以前までは10ヘクタール当たり1人の割合で人を増やしてきたというが、機械化が進んだ現在は従業員一人当たり15ヘクタールの生産性を目指している。
通年での収益を上げる2枚看板
多角化経営の面ではさまざまな取り組みを講じてきたが、ここでは水稲の閑散期である冬場に安定した収益をもたらしている2つの事例を紹介したい。
まずは育苗ハウスでのスプレー菊の栽培だ。
同社では3棟のハウスで稲の育苗後にスプレー菊を定植しており、盆や彼岸などの需要期はもちろん、冬場にもストックを出荷できるよう体制を敷いている。「モロヘイヤやつぼみ菜などの野菜を試したこともありましたが、やはりスプレー菊が一番収益性が良かった。夏場や閑散期の収益源の一つです」(白鳥さん)
もう一つの特徴的な取り組みが、早くから事業化に向けて動いてきた米粉販売だ。
主食用米から新規需要米への転作に向けた政策を受け、2014年から2ヘクタールほどの規模で栽培を始めた。当初は販売に苦戦したものの、光明を見出したのが、フレンドリーチェーンによる販売だった。
同社ではパン店舗経営のコンサルティングを行っていた事業者と連携し、開業希望者の研修や米粉パンの原材料を販売する独自のフレンドリーチェーンを展開して引き合いを増やしてきた。現在、フレンドリーチェーンでの米粉の販売先は14店舗に及び、白鳥さんは「お米の直接販売と並ぶ、当社事業の2本柱」と胸を張る。
現在は協業者の勇退に伴い、開業支援は行っていないものの、すでに店舗を構えている事業者が米粉製品を新規で取り扱いたいという場合には、米粉や生地の提供を行っている。
今年こそ高い水準にある米価だが、近年は米需要の低下によって価格は低調に推移してきた。下火の時期でも、安定した収益を実現してきた理由がここにある。
地域の雇用を創出し、持続可能な地域へ
条件不利地も多く抱える中、米を軸にして多角化経営を実現してきた同社。事業の目的について白鳥さんは「地場産業を守りながら若者の雇用を創出し、持続可能な農業と地域を実現するため」と話す。
「何もしないままでは、地域はどんどん寂れていく。若い人を雇用し、定住してもらう環境をつくることで、この地域で活躍する人材を育成していきたい。そうでなければ、過疎化、高齢化によって限界集落になってしまう。これまでの米作りを地場産業として育てながら、雇用を創出することで持続可能な農業と地域を実現していきたい」
稲作には国民への食糧供給だけでなく、地域作りの役割も持っていると白鳥さんはいう。過疎化が進む地域で、人が生活できる環境を創るために次代の農家を育てていく。そんな農業、農村の持続可能性の一つの姿を見た取材だった。
2025年1月17日(金)に開催するクボタ主催のオンラインイベント「GRAUNDBREAKERS」では同社のように、条件不利地とされる中山間地域で新技術を活用した生産性向上やブランド化を実現する生産者が出演予定。詳しくはイベントの特設サイトをご参照ください。