低下し続ける日本の経済力

まず国際通貨基金(IMF)による国内総生産(GDP)の見通しを取り上げたい。比較対照は中国。2025年の中国の名目ベースのGDPは、日本の4.4倍になると予測する。さらに2029年にはその差は4.8倍に広がる。

中国は今、不動産市況の低迷をはじめ、景気が悪化しており、IMFの予想通りに成長し続けるとは限らない。ただ抑えておくべきなのは、日本の経済力がほとんど高まらないと予想されているという点だ。

日本の食料自給率は約4割で、食料の多くを輸入に依存している。では海外から好きなだけ食料を買い付ける経済力を今後も保つことができるのか。この点の懸念を抜きにして、食料と農業の将来を語ることはできない。

コメと果樹で耕作放棄の懸念

次に農林水産省が公表した国内農業のデータを見てみよう。

食料・農業・農村政策審議会(農相の諮問機関)が現在、中期的な農政の方向を示す基本計画の策定を進めている。その企画部会の11月の会合で、農水省は農地や農業経営体、収量の向上に関する見通しを示した。

予想年次は2030年。今の流れでいけば、経営体の数は2020年の108万から54万に半減する。それに伴い、もし規模拡大が進まなければ約3割の農地が利用されなくなる恐れがある。ようは耕作放棄だ。

農業は国民の人口構成の変化に先立って高齢化が進んでいる。特に深刻なのが、農業が副収入の農家や、年に60日以上農作業をする65歳未満の世帯員がいない農家。かつての第2種兼業農家のイメージに近い。

コメと果樹でとりわけそうした農家の割合が高い。コメと果樹で農家の減少に伴う農地の荒廃リスクが高まっていることを示す。

農水省は農地と農家の減少を予測する

カギは人事と収益管理のノウハウ

ではその先、2050年に向けて農業構造はどう変わっていくのだろうか。残念ながら、農家や農地の減少を緩やかなものにすることはできても、流れが反転して両者がともに増える未来を展望するのは難しい。

重要なのは、何を優先課題にするかだろう。日本の人口が減り続ける中で、農業の担い手もおのずと減り続ける。だがそれと同じペースで生産インフラである農地も減ってしまえば、日本の食料生産に黄信号がともる。

どうすればそれを防げるのか。答えはシンプル。少ない人数で広い農地を管理する経営と、それを支える技術が要るということだ。

これはコメのように広い農地を必要とする作物だけでなく、果樹や園芸作物にも当てはまる。適正規模に違いがあるだけだ。

経営に関しては、マネジメントを学ぶ仕組みがこれまで以上に大切になる。特に重要なのが収益と人事の管理。それがないと、いくら規模が大きくても経営の足元は危うい。今の大規模経営にもそれは当てはまる。

耕作放棄を防ぐのが最大の課題

必要なのは他産業並みのAI活用

技術について言えば、スマート農業の活用が必須になる。

現場を取材していると、スマート農業に対して懐疑的な見方が確かにある。実際、鳴り物入りで登場した技術で、その後泣かず飛ばすになったものも少なくない。熟練農家の技術を超えるのも簡単なことではない。

だが農地を守るという目的を考えれば、いずれそんなことは言っていられなくなる。農機メーカーやスタートアップ、農業関係者などが連携して実用的な技術を開発し、現場に取り入れていく以外の選択肢はない。

他産業で急激に進む人工知能(AI)などの活用が、農業で可能でないはずがない。これは「土に根ざす産業」という農業の本質と矛盾するものではない。足りないのは現場に即した技術と、それを受け入れる現場の態勢だ。

課題は自然の流れに任せていて、それが実現するかどうかだ。現状を見れば楽観は難しい。政策の後押しの重要性がますます高まるだろう。

さまざまなロボット農機

高齢化社会における農作業の価値

ここまで食料安全保障の観点から農業の未来を展望してきた。カギを握るのは先端技術と政策だ。ただ農業には食料安保で尽くせない意義がある。経済的な価値とは別の意味で、暮らしを豊かにする力が農業にはある。

「生きがい農業」という言葉はときに「採算度外視」といった意味で、ネガティブにとらえられることがある。だがそこにはビジネスの文脈だけでは評価することができない、人の生き方にとって大切な何かがある。

たとえ農産物を売って得る利益は少なくても、他の収入に支えられながら、農業と向き合う暮らしには価値がある。貯蓄や年金を頼りに、定年後に農作業を始めるのもステキな第2の人生。市民農園の魅力も高まるだろう。

2050年に向けて、日本は人口減少と高齢化という2つの現実に直面し続ける。経済力の飛躍的な向上も見通しにくい。そうした社会にあって、屋外で体を使い、知的刺激にも満ちた農業の果たすべき役割は大きい。

そこで得た農業への理解が、食料供給を支える農業経営をさまざまな形で支えたいという思いにつながってほしい。バラ色の未来を簡単には描きにくいこの国の農業にとって、それは最も貴重な応援団になると思う。

市民農園の意義は大きい

2025年1月17日(金)に開催されるクボタ主催のオンラインイベント「GROUNDBREAKERS」では、2050年の農業・農村を考える討論会と題し、筆者と3名の生産者らが長期的な視点で産業の将来像を語り合う。詳細は近日公開予定の特設ページへ。