雪菜と仙台雪菜
雪菜(ゆきな)は、降雪の多い地域で雪の中で栽培される、アブラナ科アブラナ属の葉菜類です。伝統野菜としては、山形県の「雪菜」と宮城県の「仙台雪菜」があり、同じ雪菜という名前でも栽培方法は全く異なり、食味も異なります。
山形県の「雪菜」は、畑で育てて収穫後に雪の中でとう(花茎)を立たせて食用とする全国的にも珍しい栽培方法の野菜です。一方で宮城県の「仙台雪菜」は、仙台では雪が少ないため雪中では栽培せず、霜に当たることで風味や甘みが増します。
この記事では、山形県の伝統野菜である「雪菜」について紹介します。
雪菜とはどんな野菜?
雪菜は、山形県米沢市の特産で、米沢藩9代藩主の上杉鷹山が、冬の野菜を確保するために栽培を奨励したと伝えられています。米沢市西部の上長井地区(笹野、古志田、遠山)のみで栽培されている希少な品種で、生産者が種を自家採取して代々守ってきました。
もともとは、同じく上長井地区特産の伝統野菜である「遠山かぶ」のとうを食していましたが、越後から伝えられた長岡菜(体菜/タイサイの一種)との自然交雑から選抜育成したものが雪菜のルーツとされています。「かぶのとう」と呼ばれていましたが、1930年に「雪菜」という名が付けられました。
雪菜は、貴重な在来種として、全日本スローフード協会の「味の箱舟」に登録され、山形県置賜地域の「山形おきたま伝統野菜」に認定されています。
味の特徴
ほのかに甘く、少し苦みも感じられます。アクはなくセロリに似た食感なので、生食もできます。
旬の時期
12月中旬から3月上旬、とうが伸びたところで雪の中から掘り出して出荷されます。真冬が旬の野菜です。
含まれている栄養や効果
カリウムやリンなどのミネラル、ビタミンC、食物繊維が含まれ、野菜が不足しがちな冬の貴重な栄養源とされています。
カリウム
ミネラルの一種で、ナトリウムの排出を助け、細胞の浸透圧を調節する働きがあります。
リン
ミネラルの一種で、骨・歯などの硬組織を作るほか、高エネルギーリン酸化合物としてエネルギー代謝を円滑に進める働きがあります。
ビタミンC
水溶性のビタミンで、皮膚や骨を構成するコラーゲンの合成に必要な栄養素です。また、ストレスに対する抵抗力と免疫力を高める働きがあるとされています。
雪菜の育て方
米沢の伝統野菜である雪菜は、春に花から種を自家採取し、初秋に畑に播種して雪菜を育て、晩秋に収穫した後、15~20株ずつ束ねて数カ所に寄せて稲わらと土で囲って床寄せし、積雪下の温湿度が一定の環境でとう立ちさせます。
約40日後、とうが30cm程度になったら二度目の収穫をします。自らの葉を養分としてとうを伸ばすため、冬の収穫時には秋の1/4ほどの量になります。
ここでは、伝統的な雪中栽培は割愛し、一般的な春から秋まきの雪菜(体菜)の栽培方法を紹介します。プランター(野菜用培養土)でも育てやすい野菜です。
畑の準備
植え付けの2週間前までに、堆肥、石灰、化成肥料などを入れて良く耕し、水がたまらないように畝を平にしておきます。
種まき
幅90cmほどの畝を立て、条間20cm、深さ約1cmに種をすじまきします。
間引き・管理
必要に応じて間引きをして、最終的に条間を15cm程度にします。プランター栽培は表面の土が乾いたら午前中に水やりをします。必要に応じて追肥をします。
収穫
種まきから約1カ月後、大きく育ったものから収穫します。
雪菜を育てるときに注意したい病害虫と対策
雪白体菜は病気に強く作りやすい品種ですが、他のアブラナ科の葉催類と同様にアブラムシやコナガなどの害虫に注意が必要です。
アブラムシ
アブラムシは、窒素成分の過多で発生しやすく、日当たり・風通しの悪い環境で増殖し、葉裏や新芽に寄生して汁を吸って作物を加害します。見つけたら水で洗い流す、粘着テープなどで取り除くなどして除去しましょう。黄色に集まる性質を利用して、黄色の粘着板を設置する方法もあります。
コナガ
コナガはアブラナ科の植物を好んで産卵し、幼虫がその葉や新芽を食害します。真夏を除く春から秋の暖かい時期に発生しやすく、薬剤での防除が難しいので、網目の細かい防虫ネットや寒冷紗を使って成虫の侵入を防ぎましょう。防虫ネットはアブラムシ対策にも有効です。
おいしい雪菜の選び方
一般的な葉物野菜は葉の緑色の濃いものを選びますが、雪菜の葉は食べません。白い花茎を食すので、ツヤがあり、茶色く変色していない新鮮なものを選びましょう。
購入後は乾燥しないように新聞紙などで包んで、冷蔵庫の野菜室にできれば立てて保存し、早めに食べましょう。
雪菜の基本的な食べ方とレシピ5選ぶ
雪菜は外側の葉を取り除き、新芽のとうの部分が出荷されるので、根本から剥がして調理します。主にふすべ漬け(漬物)として食べられることが多い野菜ですが、柔らかくシャキシャキとした食感でサラダやスープなどにも向いています。
珍しい雪菜の調理法は産地に聞くのが一番。に料理レシピを紹介してもらいました。
ふすべ漬け
ふすべ(る)とは、置賜地方の方言で「さっと湯通しする」という意味。熱湯にくぐらせることで独特の辛みが引き出されます。
材料(作りやすい分量)
・雪菜 適量
・塩 雪菜の2%
作り方
1.雪菜は洗って3センチ長に切り、広口の鍋とボウル、それに入るサイズのザルを用意する
2.鍋にたっぷりの湯を沸騰させ、1を入れたザルを湯に3秒間つけて引き上げる。雪菜の上下を返して再度3秒間湯につけて引き上げる。これを計3回繰り返す
4.引き上げたザルに鍋の蓋をかぶせて1分~1分30秒ほど蒸らす
5.ボウルにたっぷりの水を入れ、ザルごと雪菜を流水で冷やす
6.冷めた雪菜に塩を均一に混ぜ合わせ、ポリ袋に入れ、空気を抜いて密閉する
7.雪菜の重さの1.5~2倍程度の重石を乗せ、冷蔵庫などの冷暗所に置く。水が上がってきたら重石を半分から1/3程度の重さに替える
8.塩が均一になるように、時々袋の上から雪菜を混ぜ合わせる。漬け込み後3~4日が食べごろ
ふすべ漬け入りあっさりパスタ
ふすべ漬けのアレンジメニュー。シンプルなオイルベースで雪菜の味と食感が引き立ちます。
材料(4人分)
・パスタ 320g
・ニンニク 1かけ
・オリーブオイル 大さじ2
・赤唐辛子 1本
・ホタテ缶 1缶(100g)
・酒 大さじ2
・ふすべ漬け 150g
・しょうゆ 小さじ2杯
作り方
1.ニンニクはみじん切りに、赤唐辛子は種を取って輪切りにする
2.ふすべ漬けは、漬け汁をざっと切る(汁は取っておく)
3.パスタは袋の時間よりも1分短く茹でる
4.フライパンにオリーブオイルと1を入れ、弱火にかけて香りが出るまで熱する
5.ホタテの缶詰を汁ごと加え、酒、ふすべ漬けの漬け汁も加える
6.茹で上がったパスタを加えて混ぜ、ふすべ漬けとしょうゆを加えて、ひと煮立ちさせる
雪菜のカリカリベーコンソースかけ
雪菜のシャキシャキ、フライドガーリックとベーコンのカリカリ食感がたまらなくクセになる一品です。
材料
・雪菜 300g
・ニンニク 小1かけ
・ベーコン 5枚
・サラダ油 大さじ1
・レモン汁 大さじ1
・ハチミツ 小さじ2
・しょうゆ 小さじ1
・こしょう 少々
・パセリ 少々
作り方
1.雪菜は2センチ長に切り、皿に盛りつけておく
2.ニンニクはみじん切り、ベーコンは1センチ幅に切る
3.容器にレモン汁、ハチミツ、しょうゆ、こしょうを混ぜておく
4.フライパンに2とサラダ油を熱し、カリカリになるまで弱火で炒める
5.1の雪菜に熱々の4をかけ、3を加えてよく混ぜて、パセリのみじん切りを振る
雪菜とモッツァレラチーズのサラダ
生で食べても食べられる雪菜は、冬のサラダの食材としても活躍。セロリのように使えます。果物、チーズ、ナッツと合わせて栄養バランスと彩り良く。
材料(4人分)
・雪菜 200g
・モッツァレラチーズ 50g
・クルミ 大さじ1
・リンゴ 1/2個
・ブラックオリーブ 少々
・ミカンの搾り汁 大さじ3
・粗塩 少々
・オリーブオイル 大さじ2
作り方
1.クルミ(生の場合)は、小鍋で乾煎りして、冷ましておく
2.雪菜とモッツァレラチーズは一口大に切り、リンゴはいちょう切りにする
3.ボウルにミカンの搾り汁、粗塩、オリーブオイルを合わせ、2を入れて和える
4.器に盛り、1のクルミとブラックオリーブを散らす
雪菜とワカメのかき卵スープ
雪菜の独特の辛みも引き出され、シンプルな調味で味わい深いスープに。ごま油の香りが食欲をそそります。
材料(4人分)
・雪菜 200g
・カットワカメ 大さじ2
・卵 1個
・ネギ 1本
・水 800ml
・酒 大さじ1
・鶏ガラスープの素 小さじ2
・しょうゆ 大さじ1
・ごま油 小さじ2
・塩こしょう 少々
作り方
1.雪菜は2センチの長さに切り、ネギは小口切りにする。カットワカメは水で戻して水気を絞る
2.鍋に水を入れて煮立て、鶏ガラスープの素、ワカメ、ネギ、しょうゆを加える
3.雪菜を加えてひと煮立てし、溶き卵を加えて仕上げ、ごま油、塩こしょうで味を調える
産地は米沢市の一部地区のみ、雪で育む希少な伝統野菜
山形県米沢市で江戸時代から伝統的に栽培されてきた雪菜。生産する地域は昔も今も限定的で同市上長井地区のみと、非常に希少な野菜です。少数の生産者が、雪菜を床寄せして雪中に伏せ込む独特の栽培技術を受け継ぎ、種を自家採取して貴重な在来品種を守っています。
雪菜はふすべ漬けにして保存し、正月の郷土料理の冷や汁の具材に使うのが伝統的ですが、そのアレンジメニューや新しい食べ方も提案されています。冬になると山形県のスーパーや直売所、産直通販などで生鮮の雪菜が販売され、ふすべ漬けの新物も出回ります。産地では後継者不足に加えて雪不足も深刻ですが、その存在を知り、食べることで残していきたい伝統野菜です。
取材協力: