「感動的なまでのドライビング・ファンを感じさせてくれる」|新型ベントレー・フライングスパー海外試乗記

2024年11月、ベントレーの会長兼CEOであるフランク・ステファン・ヴァリザー氏から、これまでの「ビヨンド100」戦略をさらに進化させた、「ビヨンド100+」戦略が発表された。2030年以降のさらに高い環境目標を設定し、2035年までに自社製品の完全電動化を実現するための指針とされる「ビヨンド100+」。今回試乗した新型フライングスパー・スピードも、もちろんこの戦略の中から誕生したPHEVであり、その先には当然のことながらBEVが控えているという構図になるのだろう。その意味でも生産工場を含め、今さまざまな改革の最中にあるベントレーからは、圧倒的な勢いが感じられるのである。

【画像】アメリカ・アリゾナ州で開催されたベントレー新型フライングスパーの試乗会(写真15点)

フライングスパーはそもそも、2005年にコンチネンタルGTの4ドアモデルとして誕生し(正確には復活し)、そのフォーマルな装いと、それとは対照的にも感じる魅力的なドライビング・ファンで多くのカスタマーから高く支持されてきたモデルである。2ドアのコンチネンタルGTでは、ややオフィシャルな場には出向きにくい、あるいはリアシートにパッセンジャーを迎える機会が多いといったカスタマーに、フライングスパーの持つキャラクターと機能性は最適で、かつそれにライバル車の多くを超える運動性能が加わり、その人気は絶対的なものとなった。

今回誕生したニュー・フライングスパーは、2005年の初代から数えて4世代目にあたるもの。最大の話題は、これまでフライングスパーのトップレンジに相当するスピードに搭載されてきた6リッターのW型12気筒ツインターボエンジンが廃止され、新たに新開発の4リッター V型8気筒ツインターボエンジンに、エレクトリックモーターを組み合わせた、PHEVの「ウルトラ・パフォーマンス・ハイブリッド」に変更されたことだろう。ベントレーは同パワーユニットを、すでにコンチネンタルGTにも搭載しているので、その実力のほどは大きな噂になっているのかもしれない。

ベントレーのスタッフは、テストドライブを始める前に、この新型フライングスパーを「4ドアのスーパーカー」だと表現したが、なるほどそのスペックにはスーパーカーと評することに抵抗がないほどの数字が並ぶ。システム全体の最高出力は782ps、最大トルクは1000Nm。これは従来のW12と比較して、最高出力では19%、最大トルクでは11%もの強化に相当する。ちなみにバッテリーはトランクルームのフロア下に搭載されるが、その容量は25.9kWh。それでもトランクルームには十分な広さが残り、ゼロエミッションのEV走行は最大で76kmを可能にする。モーターの最高出力は190ps、最大トルクは450Nmだが、EV走行でも2646kgの車重を持つ大柄なフライングスパーは、ストレスを感じさせることなく、もちろんほとんど無音、無振動でシームレスな加速を続けていく。

車速が140km/hに達するか、あるいはアクセル開度が75%を超えると、最も標準的なドライブモードともいえる「B」モードでは、V型8気筒エンジンも始動し、その加速にはさらなる力強さが加わる。もちろんここからもエンジンの停止や始動、あるいは低負荷の高速走行ではコースティング機能が働くこともあるが、その制御はきわめてスムーズで違和感もない。それは下り坂やブレーキング時に運動エネルギーを電力に変換し、再びバッテリーに蓄える、いわゆる回生システムの制御に関しても同様。ドライビングモードでは、ほかに「スポーツ」や「コンフォート」、「インディビジュアル」が選択できるが、それによるパワーユニットやシャシー制御の変化も明確で分かりやすい。

4ドアのスーパーカーと聞いたからには、その実力を最後まで試してみたいと思ったが、今回のテストドライブの舞台はアメリカのアリゾナ州。スピードチェックも厳しそうなので、今回はその一端を味わうのみにしておいたが、たしかにパワーユニット全体がトルクを発揮した時の加速度感は驚くべきものだ。それでも安心してアクセルペダルを踏んでいけるのは、このフライングスパーがフルタイム4WDの駆動方式を採用しているからで、常に必要なタイヤに最適な量の駆動力が送られている安心感は高い。シャシーバランスもじつに優れている。アクティブトルクベクタリング付きの電子制御LSD、ツインバルブダンパーを持つダイナミックライドコントロールによる制御もまた巧みだ。唯一「B」、あるいは「コンフォート」モードではステアリングのニュートラル付近で手応えの薄さを感じる場面もあったが、「スポーツ」モードではその印象も薄く、しっかりとした手応えを感じながら正確なステアリング操作を楽しむことができる。22インチ径タイヤを装着しながら、フラットな乗り心地を演出してくるあたりも、さすがはベントレーの作といった印象である。

実際にこの新型フライングスパーの、エッジの効いた彫刻的ともいえるボディを眺めていると、多くのカスタマーは、自分はどのシートに座るべきなのかを悩むに違いない。ルーフラインはやや後方に傾いて見えるため、外観からはリアシートでのヘッドクリアランスの余裕に心配が残るものの、フットスペースやシートの素材、あるいはリアシート用の装備を含めて、そこは長時間の移動でもまったく苦にならない素晴らしいスペースだ。試乗車にはさらにオプションのツインのブラインドを備えるパノラミックグラス&サンルーフや、ウェルネスシートも装備され、それはまさに至高の空間にほかならなかった。

だがそのステアリングを握ると、新型フライングスパーは、これまでのモデルがやはりそうであったように、感動的なまでのドライビング・ファンを感じさせてくれるのだ。その楽しみをショーファーに譲るのは、やはりこの最新作で得られる楽しみの多くを譲り渡すことを意味する。

最後にPHEVモデルとして気になる燃費性能を紹介しておこう。新型フライングスパーのレンジ(走行可能距離)はトータルで829km。今回は市街地やハイウェイ、そしてワインディングロードを含む、約500kmのルートをドライブしてみたが、たしかにそれを終えた時のフューエルゲージには、まだかなりの余裕が残っていた。世界最高級のクオリティ、そしてスーパーカー級の速さと、最上級サルーンとしての快適性。新型フライングスパーに望むものなどほかにはない。それが正直な感想だった。

文:山崎元裕 写真:ベントレーモーターズ

Words: Motohiro YAMAZAKI Photography: Bentley Motors