「EOS R1」機能編レビューでは、基本的なスペックのほか、特徴的な機能を紹介しました。今回は、撮影した作例をもとに、いくつかの機能を具体的に紹介していきたいと思います。
圧巻の被写体認識AF、ブラックフリー撮影も快適
改めて、EOS R1のスペックを簡単に振り返ってみることにします。キーデバイスであるイメージセンサーはフルサイズ有効2400万画素裏面照射積層CMOSセンサー。このイメージセンサーは新開発で、注目は積層型と銘打っているところでしょう。積層型とは、裏面照射型イメージセンサーの配線部分をフォトダイオードの周囲に配置するのではなく、フォトダイオードと基板の間に入れたものを言います。そのため、マイクロレンズとフォトダイオードの間には何もなく、結果集光効率が高く階調再現性や高感度特性などが向上すると言われています。常用での最高感度はISO102400を実現しています。
映像エンジンは従来の「DIGIC X」に加えて「DIGIC Accelerator」を搭載。これらのシステムを総称して「Accelerator Capture」と言うようになりました。大量の画像データの解析や高速のAF処理、AE検出を行うほか、トラッキングや被写体認識AF、あらかじめ人物の顔をカメラに読み込ませておくとその人物を優先して検出する登場人物優先なども、このAccelerator Captureが貢献。撮影をパワフルにサポートします。
AFはクロスAFを採用。ファインダーエリア内すべてで縦線検出と横線検出のフォトダイオードを規則的に配列することで実現したといいます。これにより被写体の捕捉精度が向上し、横線移動が多い被写体などでも粘り強くトラッキングを行います。そのトラッキングは「デュアルピクセル Intelligent AF」により強化され、一度捕捉した被写体への食いつきはさらに向上しています。被写体認識機能である「検出する被写体」も人物/動物優先/乗り物優先の3つのモードを搭載。「人物」は瞳/顔/頭部/胴体/上半身、「動物優先」は犬/猫/鳥/馬、「乗り物優先」はモータースポーツ(クルマ、バイク)/鉄道/飛行機に対応します。
作例の撮影では、「人物」ではサッカーを、「動物優先」で馬を、「乗り物優先」で鉄道と飛行機を狙ってみましたが、それぞれ動く被写体であるにもかかわらず捕捉精度はきわめて高く、実用的といえます。さらに「アクション優先」では、サッカー、バスケットボール、バレーボールの3つのスポーツを対象に、それぞれの特有の動きをする人物をカメラが瞬時に認識し、ピントを合わせます。被写体や撮影意図などによっては、どの機能を選べばよいか選択に悩んでしまいそうです。
電子シャッターにまつわる機能の充実も本モデルの特徴。最高40コマ/秒の連続撮影コマ速は電子シャッターならではですし、最高シャッター速度は1/64000秒を実現しています(シャッター速度優先AEとマニュアル選択時)。シンクロ同調速度もこれまでになく高速で、1/320秒を達成(メカシャッター時1/200秒、電子先幕シャッター時1/250秒)。シャッターボタンを半押した状態を続け、その後全押しで撮影を開始すると、その瞬間から最大20コマ分さかのぼって記録する「プリ連続撮影」も搭載しています。電子シャッターで気になるローリングシャッター歪みの発生については、メーカーの説明によると「EOS-1D X Mark III」のメカシャッターと同等とのこと。電子シャッターは動体撮影に弱い、という考えはもう忘れてよさそうです。
作例の撮影では、カメラの性格から主に動体をメインに狙いました。もちろん、シャッター方式はすべて電子シャッターを選択しています。そのほかの設定としては、サーボAFをメインに、被写体認識AFや「アクション優先」など状況によって使い分けています。結果は、いずれもとても満足できるもので、特にファインダー画像が露光のたびに瞬間的に暗くならないブラックアウトフリー機能を併用すると、動く被写体がファインダーで追いやすく、写真が上手くなったかと勘違いしてしまうほど。シャッターボタンを全押ししてから実際に露光を開始するまでのシャッタータイムラグや、EVFに表示される画像の遅延も、今回の撮影ではほとんど気になるようなことはありません。動体撮影は長く撮ってないと腕が落ちてしまうものですが、そんな筆者をしっかりと支えてくれました。
「検出する被写体」については、いずれも該当する被写体を正確に捕捉します。私個人としては、この機能に頼っても問題ないように思えました。ただし、同じ被写体が複数画面のなかにある場合は、写したい被写体を選択しないことも。そのようなときは、視線入力を使ってピントを合わせたい被写体を見つめると素早くAFエリアが乗り移ってくれるので、便利に思えました。また「検出する被写体」を使用したとき40コマ/秒のコマ速で撮影しましたが、シャッタータイミングを見逃すことが少なく思われました(無駄打ちも増えましたが)。
プリ撮影やカメラ内アップスケーリングも期待以上の仕上がり
ノイズレベルについては、カラーマネージメントモニター(EIZO CG2420-Z)を使い、画像拡大率50%でチェックしてみました。「高感度撮影時のノイズ低減」はデフォルトの「標準」としています。
まずISO3200まではノイズレスと言ってよいレベル。色合いや階調の変化もありません。ノイズが気になる人も、この感度までなら安心して使えるように思えます。ISO6400でわずかにノイズが乗りはじめますが、解像感の低下などは見受けられません。ISO12800になるとノイズの発生が見極めやすくなり、ISO25600ではハッキリ認識できるようになります。ただし、さほど悪い印象はありません。解像感の低下や色のにじみもわずかです。これはISO51200も同様です。ISO102400になると、輝度ノイズに加え色ノイズが現れるようになり、解像感の低下や色のにじみも目立つようになります。ただし、ISO102400という高感度であることを考えれば、これはこれでノイズや画質の低下をよく抑えているもので、フルサイズ2400万画素の裏面照射積層CMOSセンサーの実力と述べてよいでしょう。
「プリ連続撮影」については、サギ(チュウサギ?)を狙いました。カメラは構えていたものの、油断した隙に飛び立ってしまい慌ててシャッターを切ったカットですが、しっかり飛び立つ瞬間も写し止めることができました。この機能は、野鳥や昆虫など思いもよらぬ動きをする被写体や、水が水面に落ちた瞬間のような一瞬を捉える撮影などでは重宝しそう。電子シャッターの可能性を強く感じさせるものです。ただし、シャッターチャンスだと思って何度もシャッターボタンを全押しすると、あっという間に無駄な画像が記録されてしまうのと、長時間シャッターボタンの半押しを続けるとバッテリーの減りが速くなり、さらにイメージセンサーが熱を持ち出すので注意が必要です。
今回の作例撮影は楽しいものでした。掲載した写真はそのほんの一部ですが、特に動体撮影では狙い通りの写真が撮れたときにこのカメラの実力の片鱗を見せつけられたように思えるとともに、写真が上手くなった気になりました。高機能・高性能であるEOS R1は、以上のように高いポテンシャルを秘めたカメラです。その実力を遺憾なく引き出すには、搭載される機能を理解し、そしていかに応用していくかが、ユーザーに与えられた命題となりそうです。一般向けとは言い難いプライスタグを提げていますが、スポーツやクルマ・オートバイなどのレース、鉄道、航空機など動くものだけでなく、ポートレートや動物なども含めシャッターチャンスに神経を尖らす被写体の撮影では、使い込むことで頼もしい相棒となるカメラであることは間違いないようです。
*掲載した作例はすべて撮ったままのJPEG画像となります。撮影後の編集加工やトリミングは一切行っていません。