フォルクスワーゲンの「パサート」というクルマをご存じだろうか? 実は50年以上の歴史を持つロングセラーモデルなのだが、日本では正直、そこまで知名度が高くない。シブいというか地味というか、そんなイメージのクルマなのだ。
ところが、2024年11月に発売となったばかりの新型パサートを取材してみると、これまでとは少し、いや、かなり印象の違うクルマになっていた。もしかすると今度の新型登場により、日本でパサートが脚光を浴びる日がいよいよ到来するかも? そう思った理由をお伝えしたい。
新型パサートってどんなクルマ?
まずは簡単に新型パサートの概要を押さえておきたい。今度の新型は通算9世代目。パサート自体は1973年の発売以来、世界で累計3,400万台以上が売れている人気モデルだ。フォルクスワーゲン(VW)のクルマとしては、あの「ビートル」よりも累計販売台数が多いらしい。
先代パサートにはセダンとステーションワゴンがあり、ステーションワゴンは「パサートヴァリアント」を名乗っていたのだが、新型はボディタイプがステーションワゴンのみとなった。なので車名から「ヴァリアント」が外れて、「パサートといえばステーションワゴン」という具合にキャラクターが明確化した。
セダンを廃止したのは「主要マーケットである欧州市場のトレンドにより」とVWは説明している。要するに、世界的にセダンのニーズが縮小してきている現状に合わせた判断だったのだろう。
新型パサートで選べるパワートレインは1.5Lガソリンターボエンジンのマイルドハイブリッド車(MHEV)、同じエンジンのプラグインハイブリッド車(PHEV、エンジンはPHEV用にチューニングしてある)、2.0Lディーゼルターボエンジン車(このエンジンのみ4輪駆動)の3種類。グレードは基本的に「Elegance」と「R-Line」の2種類だが、MHEVのみエントリーグレード「Elegance Basic」が選べる。全体の価格幅は524.8万円~679.4万円。
脚光を浴びそうな理由①:PHEVのEV走行距離が突出!
クルマが電動化していく流れについては理解できるが、いきなり電気自動車(EV)に乗り換えるのは、航続距離や充電インフラの面で不安……。そんな人が多い日本で(世界でも?)、今、注目の度合いが高まっているのがPHEVだ。
ガソリンで動くエンジンと電気で動くモーターの両方を積んでいる(ガソリンでも電気でも走れる)PHEVなら、走っていてバッテリーが空になったとしても、給油さえしておけば路上で立ち往生してしまう心配がない。自宅にクルマを充電できる環境があれば、普段の移動は電気だけで済ませられるので、ランニングコストが抑えられるしエコな乗り物でもある。
PHEVの特徴はEVのように電気だけでも走れることだが、問題はその際の走行距離だ。電気だけでどのくらい走れるか(=EV走行距離)が重要なポイントになる。
パサートのPHEVはEV走行距離が長い。発表資料では142km(WLTCモード、国土交通省審査値)となっている。搭載するバッテリーの容量は25.7kWhだ。
ご参考までにいくつかのPHEVの数値を載せておくと、三菱自動車工業「アウトランダーPHEV」はグレードによって違うが102kmあるいは106km(22.7kWh、526.35万円~)、メルセデス・ベンツ「GLC 350e」は118km(31.2kWh、1,046万円)、BMW「X5 xDrive50e」は110km(29.5kWh、1,276万円)だ。ほかにもPHEVはあるが、おそらくパサートのEV走行距離は突出して長い。発表数値通りの性能を本当に発揮してくれるのかどうかはわからないものの、142kmという数値は注目に値する。
脚光を浴びそうな理由②:装備が充実、価格は戦略的?
パサートの装備面はプレミアムブランド顔負けだ。詳しくは下のスライドを見ていただきたい。
オプションにはなるがシートベンチレーション機能や電動パノラマスライディングルーフまで取り付けられる。オーディオの「ハーマンカードン」は実際に聞いてみたが音質良好だった。それで価格は前述の通りとなると、コストパフォーマンスは高いと思える。
ちなみに、PHEVの場合は55万円の補助金が使える。
脚光を浴びそうな理由③:ステーションワゴンで天下を取る? VWの覚悟と本気度
ステーションワゴンは需要が減っているのか、車種の選択肢が少なくなってきている。国産車ではスバル「レヴォーグ」と、あとは何が残っているのだろう? もちろんドイツ御三家やプジョーなど輸入車には残っているが、とはいえSUVに比べると桁違いに少ない。
そんななか、VWはパサートをステーションワゴン専用モデルとして(セダンを廃止して)世に問うている。しかもパワートレインを3種類も用意して、である。「縮小しつつあるマーケットに、あえて3つのパワートレインを投入しているところから、VWの『このセグメントで天下を取る』という覚悟が感じられます。それくらいの自信をもって開発しているはずです」というのがフォルクスワーゲン ジャパン広報の解説だ。
脚光を浴びそうな理由④:スタイル重視のVWファンにとって貴重な存在?
これは多分に私見だが、ほんの少し前まで「カッコいいフォルクスワーゲン」といえば「アルテオン」だった。ところが、このクルマはなくなってしまった。
セダンとステーションワゴンが選べるカッコいいフォルクスワーゲン「アルテオン」の退場により、この手のフォルクスワーゲン車が欲しい人が「行き場をなくしている」のではないかと心配していたのだが、そこに新型パサートがピタリとはまる可能性はないだろうか?
セダンこそ選べないものの、背が低くて前後に長くて流麗なシルエットを持つ「スタイル重視」のフォルクスワーゲンという役割を担うことができえば、アルテオンからの乗り換え勢も含め、これまでより多くの人が新型パサートに注目してもおかしくないように思える。