◆ 白球つれづれ2024・第47回
マスコミ各社が前楽天・田中将大投手の巨人入りと、前レッドソックス・上沢直之投手のソフトバンク入りを報じている。いずれも近日中の発表が確実視されているので、今週中にも両球団から入団発表が行われる見通しだ。
先月24日に、楽天との契約更改交渉に臨んだ田中は、条件面が折り合わずに突如、退団を発表。その3日後には「期待されていない」「居場所がない」と古巣への決別を宣言。他球団への移籍に活路を求めていたが、来季には37歳となる年齢面や、右肘の手術明けで今季は0勝に終わった不安要素もあり、移籍交渉は難航していた。
だが、ここへ来て菅野智之投手のメジャー挑戦で、先発陣に大きな穴の開いた巨人が獲得に名乗りを挙げた。ヤンキース時代には7年間で78勝、日米通算で197勝の大エースは、故障からの回復が順調なら復活も期待出来る。
さらに戸郷翔征、山﨑伊織、井上温大の3投手までは先発として計算できるものの、若手の台頭を期待する4、5番手の枠は未知数。豊富なキャリアから菅野に代わる投手陣のリーダーとしても計算が立つ。もちろん「あと3勝」と迫る200勝への親心も加えれば、順当な新天地と言えるだろう。
メジャー挑戦1年で、新たな決断に迫られた上沢には2つの選択肢があった。昨年オフにMLBのレイズとマイナー契約を結んで海を渡ったが、真価を発揮出来ぬまま、レッドソックスに移籍。5月に待望のメジャーデビューを果たすがわずか2試合の登板で再びマイナー降格してしまう。3Aのウースター在籍中の9月には右肘を痛めて途中帰国。残された道はもう一度、3Aからメジャーに挑戦するか? 日本で再出発をするか? 上沢は後者を選んだ。
古巣の日本ハムからオファーもあったが、上沢が選んだのはライバル球団のソフトバンクだった。
4年総額10億円以上と言われる好条件に加えて、かつての同僚である有原航平や近藤健介選手も在籍、活躍しているのも決め手になった。
田中、上沢の入団の背景には、ソフトバンクからロッテにFA移籍した石川柊太投手の存在が影響しているのも興味深い。
巨人、ヤクルト、オリックス、ロッテに加えて所属するソフトバンクも加えた5球団の争奪戦となった石川の去就がロッテに決まると、オリックスは広島からFAの九里亜蓮投手を獲得。巨人やソフトバンクは次の対策に追われることになる。
今季7勝をマークした石川はノーヒットノーランも記録した実力の持ち主。その先発の穴を埋めるには、それなりの実力者が必要となり、田中と上沢の入団先が決まっていったのだ。一見して、難航、長期化が予想された両投手の去就が12月中旬までずれ込んだのは、こうした事情もあったからである。
いずれも楽天、日本ハムでエースとして大車輪の活躍を見せてきた。反面、近年は故障もあり、不本意なシーズンを送ってきた。田中には年齢の壁もある。復活の道のりは険しいが、新球団の期待通りに活躍出来れば優勝争いのキーマンになれる存在だ。
メジャー志向が当たり前の時代。このオフもロッテ・佐々木朗希投手の動向が注目を集めている。メジャーの20球団以上が関心を寄せる激しい争奪戦の行方は来年1月中旬に決定すると見られている。セリーグMVPの看板を背負って挑戦する菅野や中日・小笠原慎之介、阪神・青柳晃洋投手らが、夢を追って“その時”を待つ。
対照的に田中と上沢はメジャーからの帰国組である。実績を残した田中と、挫折を味わった上沢。それぞれの経緯は違っても、このオフは共にゼロからの再出発となる。
新人のドラフトに、現役ドラフトやトライアウト、FA、移籍まで球界の人の流れは激しい。2月のキャンプを経て各チームはどう戦力を強化して、新たなシーズンに臨むのか?
田中と上沢。元エースたちもまた、正念場を迎える。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)