メルセデス・ベンツが、そのカスタマーに究極のラグジュアリーを提供するために新たに設立したサブ・ブランドが、メルセデス・マイバッだ。そもそもマイバッハとは1909年にドイツで設立されたエンジンの製造会社。その技術を生かして後にマイバッハは高級車メーカーとしてもその卓越した実力を発揮し、1966年には当時のダイムラー・ベンツの傘下に収まるに至った。ちなみに創業者のひとりであるヴィルヘルム・マイバッハは、ダイムラー社でゴットリーブ・ダイムラーとともにエンジン開発を行っていた経歴を持つ。そしてもうひとりの創業者、カール・マイバッハは彼の子息という間柄である。
【画像】マイバッハの歴史と、そのヘリテージが受け継がれたニューモデル「SL680モノグラムシリーズ」(写真25点)
そのマイバッハが独立したブランドとして復活を遂げたのは2002年のことだった。この時市場に投じられたのはもちろんメルセデス・ベンツSクラスを超える、スーパー・ラグジュアリー・サルーンで、「57」や「62」というネーミングは富裕層が好むボートの全長に由来したものと説明された。実際の全長は57が5723~5734mm、62に至っては6165~6171mmという大きさを誇っていた。
その後もマイバッハからはさまざまな派生モデルが発表されるが、残念ながらその販売は好調ではなかったようだ。メルセデス・ベンツは2011年、2013年までにマイバッハのブランドを廃止することを決定。マイバッハは再び歴史の中にその名を残すのみの存在になるかと思われた。
だがマイバッハというブランドは、最初にも紹介したとおり、メルセデス・ベンツのサブ・ブランドとして2012年のロサンゼルス・ショーで復活を果たすことになった。そのコンセプトもまたすでに触れているとおり。余談ではあるが、一方で同様にサブ・ブランドとして存在するメルセデスAMGは、究極のパフォーマンスをカスタマーに提供することが、その直接的な目的とされる。
今回東京で行われたメルセデス・マイバッハのニューモデル発表会は、その会場に足を踏み入れた瞬間からマイバッハの世界観を体感できる、そのような趣向に満ち溢れたものだった。実際にニューモデルのプレゼンテーション会場までは感覚的にはとても長く、それはマイバッハの歴史や、マイバッハ・ツェッペリンDS8などの作例を思い浮かべるには十分な時間だった。はたして会場にはどのようなモデルが、いや究極的なモデルが待っているというのか。
最初に紹介されたのは、MANUFAKTURガーデンレッドとオプシディアンブラックという2色のメタリック・カラーで外観が演出された「SL680モノグラムシリーズ」だった。注目すべきはボンネット上にグラファイトグレーで描かれたマイバッハのエンブレム。これはマイバッハの専用工場においてハンドメイドで描かれたもので、縦方向のピンストライプに化粧直しされたフロントグリルやイルミネーション付きのマイバッハ・ロゴ、クローム装飾、21インチ径の鍛造ホイール等々、その雰囲気はベースのSLクラスから大きく変化しているのが分かる。
インテリアのフィニッシュもクリスタルホワイトのカラーが選択されたMANUFACTURナッパーレザーと、シルバークロームのトリムで、まさに究極のラグジュアリーを演出している。植物由来のなめし加工を施すなど、環境への対応にも十分な配慮を施したレザー素材など、ただ単に高級なだけではなく、未来への持続性にもきちんと表現しているのは、さすがマイバッハの仕事といえる。
参考までにこのSL600モノグラムシリーズには、ほかにMANUFAKTURパリスホワイトマグノとレッドアンビエンスのツートーン・カラーとなる仕様も用意。エンジンは4LのV型8気筒ツインターボで最高出力は585ps。ミッションは9G-TRONICとなり駆動方式は4MATICだ。静粛性を重視した専用のエグゾーストシステムや快適性を重視したシャシーセッティングも見逃せない。デリバリーは2025年春から、まずヨーロッパで開始される見込みだが、日本でもその人気は大いに高まりそうな気配だ。
今回の発表会では、同時に日本で50台が限定販売されるメルセデス・ベンツ・GLSクラス・ベースの、メルセデス・マイバッハ「GLS 600 ナイトエディション」も発表された。SUVのSクラスとも呼ばれるGLSにメルセデス・マイバッハが加えた専用装備は、オプシディアンブラックにモハーベシルバーを組み合わせたツートーン・カラーを始め、23インチ径のホイール、ナッパーレザーなど実に多彩なもの。こちらも早々に50人のカスタマーが決まりそうな予感を抱くことができた一台だった。メルセデス・マイバッハは、これからもさらに魅力的なモデルを、我々のためにプロデュースしてくれるに違いない。
文:山崎元裕 写真:メルセデス・ベンツ日本/メルセデス・ベンツ・グループ AG
Words: Motohiro YAMAZAKI Photography: Mercedes-Benz Japan / Mercedes-Benz Group AG