12月7日~2025年1月13日までの期間、浅草、谷中、上野の街を、「タイムトリップタクシー」がかけ巡ります。

このタクシーは、東京観光の移動時間を「時空を越えたアメージングなひととき」に一変させる、新感覚モビリティです。

本稿では、その試乗体験レポートをお届けします!

移動中の車窓風景をエンタメ化する複合現実技術

「タイムトリップタクシー」は、大和自動車交通とソニーグループのコラボレーションにより生まれた、次世代感満載のエンターテインメントタクシー。

ソニーグループが提供する「Mixed Reality(複合現実)」技術を活用した、「MR Cruise(MRクルーズ)」施策の第一弾で、東京観光の人気スポットである浅草、谷中、上野エリアの移動中、タクシー内で、現代から江戸時代にタイムスリップしたような体験が楽しめます。

その仕組みは……専用車両の車内前方中央に取り付けられた高感度カメラがフロントガラス越しの風景を捉えます。

その映像を後部座席前方に設置された大型4K液晶モニターからリアルタイムに映し出し、さらにCGや音声などのさまざまなオブジェクトを合成することで、現実とデジタルコンテンツが一体化した複合現実を車内につくり出すのです。

タイムトリップタクシーでは、浅草、谷中、上野エリアにまつわる、江戸文化をテーマにしたコンテンツを用意しています。

リアルな車窓の風景と、浮世絵や当時の街並みなどのCGをモニター上で同時に見ることで、まるで江戸の下町を旅しているような感覚を味わえます。

隣の車線に大名行列!? 商店街が江戸の長屋に?!

試乗体験したのは、約40分間の浅草周遊コース。その他、浅草~谷中銀座までの谷中コース(約40分)、浅草~上野駅までの上野コース(約30分)が用意。

通常のタクシー同様、移動手段として利用可能で、運行は1日7便、完全予約制となっています。価格は1台あたり6,000円~9,600円です。

車両はワゴンタイプで、乗客定員は4名。車内は広々としており、シートの座り心地も快適です。座席エリアの前方に大型の液晶モニターが設置され、運転席は見えない構造になっています。

MR機材やバッテリー類は車両後方に積み込まれていて、乗客の目には入らないよう配慮されています。

座席に座ったら、まずはモニターの映像及び音声案内に従ってコースと言語を設定。音声は日本語が基本ですが、インバウンド対応として、英語、韓国語、中国語の字幕設定が用意されています。

準備が整ったら、いざ出発です。車が走り出すと、モニターにはリアルタイムで前方車窓の様子が映し出され、高性能な高感度カメラを搭載しているため、雨の日や夕方の時間帯でも、肉眼よりも明るく鮮明な風景を楽しめるのです。

まもなく、モニター上の実景に重なるようにキャラクターが登場。以降、車の進行に合わせて、キャラクターがルート上の観光スポットについて解説を始めます。

ここで一つ疑問が浮かびます。道路の状況は刻々と変化しているのに、なぜ、ポイント周辺で正確にコンテンツが起動するのでしょうか。

それは、コンテンツが細かいコマの集合体として構成され、高精度のGPSを使って、各コマがロケーションベースで起動するようプログラムされているからだそうです。

一方で、実景とCGの一体感にも驚かされます。隣の車線に大名行列が現れたり、車道脇の商店街が江戸の長屋になったりと、今と昔が違和感なく混ざり合う様子を目にすると、一瞬にして時空を越えた気分になります。

その他、道中所々に、ゲームタイムや、CGを駆使したサプライズな仕掛けが織り交ぜられて用意され、終始飽きることがない。満足感にあふれた40分間はあっという間に過ぎていました。

タイムトリップタクシーは異業種コラボによるイノベーション

試乗体験後、大和自動車交通の小山哲男氏と、ソニーグループの髙梨伸氏に話を伺いました。

今回のタイムトリップタクシー運行の背景について髙梨氏はこう語ります。

「当社ではかねてより、来たる自動運転時代に、運転から解放された人々は車内で何をするのかをテーマに、新たな移動体験の提供が目的で、複合現実(Mixed Reality)技術を搭載する"New Concept Cart(ニューコンセプトカート)SC-1"の開発、運用をすすめてきました。この取り組みが台東区の目に留まり、関東大震災や太平洋戦争の影響で今に残る史跡が少ない浅草周辺地域で、MR技術を駆使し、新たな歴史観光の機会を提供できないかという相談を受けたことが、そもそものきっかけになります」とのことです。

ただ、自動運転モビリティのSC-1は、現状、一般道では走行できません。そこでソニーグループは、大和自動車交通に声をかけました。

「我々も、タクシーを点から点に移動する手段としてだけでなく、その時間を楽しめる乗り物としてご利用いただきたいという思いの下、これまで、日本人向け、インバウンド向けに、さまざまな観光タクシー企画を行ってきました。今回のタイムトリップタクシー企画もその一環であり、ソニーグループさんと当社が、それぞれの強みを活かして実現しています。今回は期間限定の試験運行ですが、事前の予約状況も好調で手応えを感じています。今後はお客さまのお声を基に、将来的な運行についても検討していきたい」と小山氏は期待を寄せます。

これぞまさに、異業種のコラボレーションによるイノベーション。両社の間では、すでにさまざまなアイデアが浮かび上がっている様子です。今後の動きにも注目です。