「中継ぎ1年目ということで、いろいろ探りながらのシーズンではあったんですけど、最後の最後、CSまで帯同もできていい経験になりました。来年に向けてステップアップしていけるようなシーズンだったかなと思います」。
ロッテの菊地吏玖はプロ2年目の今季、夏場以降一軍に定着し、20試合・24回を投げて、1勝0敗2ホールド1セーブ、防御率2.25と来季に期待の持てる投球内容でシーズンを終えた。
◆ 開幕ファームスタート
プロ1年目の昨季は一軍の登板は1試合にとどまり、シーズンオフは『2023アジアウインターベースボールリーグ』に参戦し、力強いストレートを中心に9試合・10イニングを投げ、5被安打、2与四球、6奪三振、防御率0.00と抜群の投球を見せた。
ウインターリーグが終わった後は、「いい感じで、一人の時間でちゃんとできましたし、いい時間だったかなと思います」と、自分自身を追い込み1人でトレーニングを積んだ。また、12月まで実戦を行っていたことも「年末ギリギリまで試合をやっていたので、体の出来具合も苦労しなかった。(体を)作んなきゃ、作んなきゃというふうに躍起にならずにスッと入れたのでそこは良かったかなと思います」と、プラスに働いた。
春季キャンプでは「もちろんシーズン戦える体づくりもそうですし、中継ぎで投げるのが濃厚なので、そこにちゃんと入っていけるように準備したりとか。オフにやってきたこと、ちゃんと体を作ってきたので、ボールに伝えられるかというところをやっています」と、しっかりとテーマを持って取り組んできた。
2月の練習試合では4試合・4回2/3を投げて、7失点だったが、失点したのは2月21日の中日との練習試合のみで他の3試合は無失点。オープン戦も1試合の登板だったが、3月5日のDeNA戦、2回を投げて被安打0、2奪三振、0与四球、無失点という投球内容だった。
開幕をファームで迎えたが、一軍の実戦で「しっかり自分のピッチングができれば、歯が立たないとかはないなと思ったので、おそらく歯が立たない感情になっていたら、色々迷っていたかもしれない。そういうわけじゃないので、色々クリアにしてできているかなと思います」と自信を持って投げることができた。
ファームでは「三振をしっかり取るというところは念頭においてやってきている。しっかり、3球以内で追い込んで、そこからきっちり1球で仕留めるのをやっていますね」と“奪三振”にこだわり過ごした。
一軍の練習試合、オープン戦での登板を経て、一軍で投げるにあたって必要と感じたからだろうかーー。
「そうですね、やっぱり僕みたいなピッチャーは三振を取らないと上で抑えていけないと思いますし、三振を取れないと球数もかさんでしまう。そのぶん、シーズン後半になったりとか、長い目で見たときに球数が多くなってしまったら、息も短くなってしまう。そこは1日でも早く仕留め切れるピッチャーになりたいなと思います」。
石垣島の紅白戦から「自分が課題に思っている部分が、セット以降のところ。そこでテンポよくたくさん投げたほうが修正も聞きやすいですし、その辺を考慮して、今後もワインドアップに戻すことを視野に入れつつ今はセットでやっている感じです」としばらくは走者がいない時もセットポジションでの投球を続けていたが、3月22日のヤクルト二軍戦から「そこもある程度落ち着いてきたので、いいかなというところで、はい」と走者がいないときは振りかぶって投げる形に戻した。
ファームで11試合・10回2/3を投げ、0勝1敗、防御率0.84と結果を残し、5月4日に今季初昇格を果たす。
◆ 5月6日の西武戦で今季初登板
今季初登板となった5月6日の西武戦、8-0の9回に登板した菊地は、先頭の中村剛也にオールストレート勝負で挑むも、6球目のストレートをレフトスタンドに運ばれた。
「カウント不利になってしまうと真っ直ぐに頼るしかなくなってしまってということがあって、結局最後も真っ直ぐ1、2、3で運ばれています。ただ、1ストライクから1球取って、その後2ストライク目で中村さんも真っ直ぐ100%で振ってくる中で真っ直ぐで空振りを取れた。球界で活躍している選手を真っ直ぐ狙いで真っ直ぐで空振りを取れたというのは、自分の真っ直ぐを投げられれば空振りを取れるんだと。自信にはなったので、そこは課題もありつつ、収穫もあったと思います」。
ファームでは“3球以内で追い込む”ことを心がけて投げていたが、「そこはマリンが風強くて、その辺が影響しつつ、そこに対応しきれなかった。中村さんもそうですし、結構不利なカウントになることが多かった。まだまだ勇気を出して、ゾーンに強く投げることをもっとやっていかないといけないなと思いました」と課題を口にした。
変化球に関しても「まだゾーンに投げているだけであったりとか、決まって欲しいところで決めきれていないところが多かった。まだまだだと思います」と反省。
中村に一発を浴びたが、1回を1失点に抑え、試合を締めた。吉井理人監督は試合後、この日の菊地の投球に「出鼻をくじかれたんですけど、最後は抑えてくれてよかった」と振り返った。
◆ 吉井監督から教わったフォーク
今季2度目の登板となった5月10日の日本ハム戦では3-6の8回に登板し、1回・13球を投げ、0被安打、2奪三振、1与四球、無失点に抑えた。この日は先頭の代打・レイエスに対して、2ストライクから空振り三振を仕留めた129キロフォークがストライクゾーンからボールゾーンに良い落ちを見せた。
フォークの軌道が変わったように見える。菊地本人も「変わったと思います。前日に吉井さんから教えてもらったフォークです。教えてもらって投げて次の日の練習でキャッチボールで投げて、感触が良くていざブルペンで投げてマウンドで投げても感触が良かった。いい感じかなと思います」と好感触。
これまでの取材で決め球に関しては「その日にいいものを使っていこう」と話していたが、フォークを決め球にしてもいいのではないかと感じた。菊地本人はどう思っているのだろうかーー。
「ああいうふうに毎回落ちてくれれば、バッターもおそらく警戒して真っ直ぐ取りやすくなったり、他の球種が取りやすくなるというのはあると思います。あのボールで空振りを誘ってというのもできると思う。あれは決め球で確立していきたいなと思います」。
吉井監督から教わったフォークが一軍定着した8月以降、菊地の投球を支える球種になる。
◆ 課題を持ってファームへ
続く5月30日のヤクルト戦で1回無失点に抑えたが、翌5月31日の阪神戦で失点し、6月1日に一軍登録抹消となった。
「しっかり少ない球数で三振を取るというのは継続してやっていきつつ、パワー、球速の方とかボールの力を出していくことを意識しています」。
一軍での4試合の登板を経験して、ファームでは少ない球数、三振をこだわってファームで腕を振った。
一軍では「真っ直ぐの球速はそんなに出なかったんですけど、刺せてましたし、痛打されている場面がそんなになかったので、そこら辺の力というのはあったのかなと思います」と振り返り、「課題としては変化球の精度をもっと上げていかないといけないない。最後、木浪選手とか若干手詰まりになった部分があったので、そこら辺を改善していければいいなと思います」と、5月31日の阪神戦、3-4の7回二死一塁で木浪聖也を中飛に仕留めたが、2球で追い込みながらもそこからボール、ファウルで粘られ、打ち取るのに9球を要したことを反省。
降格の際、首脳陣からは「一軍でした経験をしっかり頭に入れて、それをもとにレベルアップしていくように言われましたし、いつあがってもいいようにというのはコーチもおっしゃっていましたし、僕もずっと考えてやっています」と、いつ一軍から声がかかってもいいように準備をしていくよう言われた。
ファームでは7月11日の日本ハム二軍戦(9球)と7月16日のDeNA二軍戦(8球)は10球以内で1イニングを終えている登板もあったが、「ただ三振は取れていないので、三振を取れた上でそれだったらいいんですけど、結果は全部野手の正面に飛んでいる。ダメというわけじゃないし、悪くはないんですけど、より一軍の求めている選手にフィットしているのであれば空振りとって三振を取らないと、というところがあります。そこはやっていかないといけないなと思っています。じゃないと、一軍で投げられないかなと思っています」と、奪三振を増やしていく必要があると理解していた。
それは一軍を経験して感じたことなのだろうかーー。
「結果だけでなく内容も伴わないと一軍で抑えていけないと思う。そこはファームで完璧を求めてやっていきたいと思います」。
6月1日に一軍登録抹消されてからファームで13試合・14回1/3を投げ、防御率1.88と結果を残し、8月3日に満を持して再昇格を果たした。
◆ 一軍定着
再昇格後、初の一軍マウンドとなった同日のオリックス戦、先頭の西川龍馬を2ボール2ストライクから145キロのストレートで空振り三振に仕留めると、続くセデーニョもストレート2球で追い込み、最後は144キロのストレートで見逃し三振、最後は来田涼斗を2ボール2ストライクからフォークで空振り三振に打ち取った。1イニング目の7回は15球中12球がストレートのパワーピッチング。
「5月に上がってきた時もそうなんですけど、情報がないとはいえプロのアジャスト能力が高いですし、一軍のトップの選手と対戦させてもらった時に真っ直ぐで(押し)通せていたというのは少なからず自信になっていると思います」。
ストレートで押して、来田をフォークで三振に仕留めた場面については「(三振の)1球前に叩きつけてしまって、修正できたところはいいんですけど、あの日、フォークを全部叩きつけてしまった。抜けるよりはいいんですけど、1球で仕留めるようにならないと大事な場面では使えない。もっと突きつけないと行けないと思います」と反省した。
菊地は2イニング目となった8回は走者を出しながらも、ストレート中心の投球で無失点に抑えた。
磨いてきたストレートについて「スピードの割に空振りも取れたり、ファウルも取れているので、強さというところでは悪くないと思うんですけど、僕はまだ情報の少ない選手。情報を取られて対策されてきた時にそれ1本では抑えられないと思う。フォーク、カーブ、スライダーでカウントを取れて、空振りを取らないと行けないなと思います」と課題を口にした。
目的意識を持ってファームで取り組んできたことが、一軍の舞台で出せたというのはあったのだろうかーー。
「そうですね、ファームでの上がってくる最後の3試合、4試合も真っ直ぐをちゃんと通して、スライダーで打ち取ったり、カーブでカウントを整えることができた上で上がってきた。それが自信になっていますし、前回の経験も自信になっています」。
8月7日のソフトバンク戦ではプロ入り後初めて勝ち試合の7回に登板した。4-2の7回にマウンドに上がった菊地は、先頭の近藤健介にレフト前に運ばれたが、続く正木智也を二飛、柳町達を「あのボールはすごい思った通りにいい軌道で投げられたと思います」と、128キロのフォークで空振り三振。甲斐拓也を右飛に打ち取り、1回を無失点に抑え、プロ初ホールドをマークした。
「相手が首位で優勝に向けて負けられないところで登板させていただいて、すごいありがたいと思いますし、C.C.さんが前半粘って粘ってなんとか勝ったまま中継ぎに繋いでくれた。それも崩さないようにできたのは良かったと思います」と振り返った。
ファームでは“3球以内で追い込んで、そこからきっちり1球で仕留めること”、“三振をしっかり奪うこと”を頭に入れて取り組んできたが、8月20日と22日の日本ハム戦は1イニングをわずか8球で終えた。
「四球は(8月14日の)日ハム戦とかくらいしか自分で出したところはそんなにないのかなと。そのあたりが球数を多く使わないことにつながっているかなと思います。ボールが続いても落ち着いて投げられているのがいいのかなと思います」。
少ない球数で抑えていることに加え、三振も増えた。
「決め球を1球で決め切る。決め球の質が良くないといいバッター、一軍のバッターはみんな振ってくれなかったりファウルになったりしてしまう。その中で三振をしっかり取れるようになったのは確実に成長しているところなのかなと思います」。
9月11日のオリックス戦では12-3の7回に登板し、1イニング目の7回はわずか7球で三者凡退に抑えると、2イニング目となった8回は二死走者なしから杉本裕太郎にレフト前に運ばれたが、セデーニョを145キロのストレートで空振り三振。3イニング目となった9回は先頭の頓宮裕真に死球を与えたが、続く紅林弘太郎を二併。最後は代打・来田涼斗を126キロのフォークで空振り三振に打ち取り、試合を締めた。これが菊地にとって嬉しいプロ初セーブとなった。
9月17日の楽天戦では3-3の8回に登板し1回を無失点に抑え、プロ入り2個目のホールドを記録。9月30日の楽天戦は1-0の8回に登板し同点に追いつかれたが、直後の9回表に佐藤都志也が勝ち越しの適時打を放ち、プロ初勝利を挙げた。
◆ 一軍定着できた要因
8月以降の2ヶ月で16試合・19回1/3を投げ、1勝2ホールド、奪三振はイニングを上回る21、防御率は1.86。
一軍に定着できたのも、5月9日の練習中に吉井理人監督から教わったフォークを、試行錯誤しながら、自分のモノにしたことが大きい。
菊地本人もシーズン終了後、「フォークはちゃんと投げられるようになってからは、自信持ってマウンドに上がれるようになりましたし、困った時はフォークを投げればなんとかなるだろうなとか、真っ直ぐで押しながらフォークで引いたりということもできるようになってきた。良かったかなと思います」と振り返った。
少ない球数で抑えること、三振、ストレートにこだわってきたが、そこに関しても「真っ直ぐに関しては最後まで押せるところは押していけたかなと思いますし、フォークに関してはシーズン途中からちょっとずつモノになってきたかなと思うので、はい。課題に対してしっかり向き合えたシーズンだったかなと思います」と納得の表情を浮かべた。
一軍定着して得たものは何かあったのだろうかーー。
「来年どうなるか分からないですし、来年こそもっと頑張ってやっていかないといけないと思うので、どういうふうに取り組めばいい、どういう過ごし方をすればいいのかという感覚を掴んだと思うので、その辺が良かったかなと思います」。
シーズン終了後に行われた秋季練習では、全体練習後に「自分がやりたい動きをとにかく数投げて、潰していくというのが今しかできないので、それをやっていました」」と個人でキャッチボールすることが多かった。
シーズンオフは「体の中身を変えるイメージでやっていきたいと思っているので、色々課題が見つかっているのでその辺をやっていこうかなと思います」と秋季練習最終日に話していた。
来季は「今年の(鈴木)昭汰さんじゃないですけど、あれくらい投げられたら自分としてもチームとしてもすごくいいシーズンになると思いますし、昭汰さんが残した成績は、今までのNPBの歴史の中でもかなり上位の成績だったと思います。そういう成績は簡単に出せるものではないですけど、ああいうところを目指して、超えていけたらいいなと思います」と、鈴木昭汰が今季マークした51試合に登板して防御率0.73の数字を超えていくつもりだ。
取材・文=岩下雄太