横浜市内の大学に所属する学生向けのワークショップ『これからの「スマートシティ横浜」とは!?』が、11月~12月にわたって開催されている。

NTT東日本 神奈川事業部は、本ワークショップを主催する横浜市と横浜未来機構とともに、「NTTe-City Labo」を活用したプログラムを11月20日に実施。ワークショップの参加者にスマートシティ実現に向けた実践的な学びの場を提供した。

  • 第3回目のプログラム「スマートシティ横浜での企業共創可能性」が開催された

■学生のキャリア教育に注力する横浜市

横浜市内にキャンパスがある大学に学ぶ学生(専門や学部・大学院は不問)が全5回のプログラムを通じて、国内外のスマートシティの動向に関する理解を深め、横浜市がめざすべきスマートシティを自ら追究する本ワークショップ。

11月20日、「スマートシティ横浜での企業共創可能性」と題した第3回目のプログラムが、調布市の「NTTe-City Labo」で実施され、学部1年生から大学院生まで多様なバックグラウンドを持つ学生が参加した。

本ワークショップを主催するのは横浜市と、横浜市が特別会員として加入する横浜未来機構だ。100を超える企業・団体、大学が加入する会員制の任意団体として、令和5年度に横浜市と学生のキャリア教育を促進するための連携協定を締結。産学官連携で地域の課題の解決支援を行なっている。

「横浜市との連携協定の締結や『キャリア教育促進に係る取組』の一環で、令和5年度には、横浜国立大学客員教授の佐藤千惠さんと、横国の留学生を対象に道路インフラをテーマとするワークショップを開催しました」と、同団体の事務局次長・亀若智洋氏。佐藤氏からスマートシティをテーマとするワークショップの提案があり、横浜市とともに本ワークショップを主催するに至ったそうだ。

横浜市が学生のキャリア教育に注力する背景やねらいについて、横浜市総務局大学調整課の橋岡雅樹氏は「横浜市も将来的な人口減少が見込まれる中、こうした取り組みを通して学生たちに横浜に愛着を持ってもらい、定住などにつなげていくという観点から、昨年度から学生のキャリア教育支援に取り組んできました」と説明する。

  • 「NTTe-City Labo」の見学ツアーも実施された

また、横浜未来機構にはNTT東日本 神奈川事業部も加入している。今回、スマートシティ実現に向けて実践的な学びの場を提供することを目的に、本ワークショップのプログラムのひとつとして、地域循環型社会の実現に向けた最新技術やソリューションを体感できる施設「NTTe-City Labo」の見学ツアーを実施した。

■次世代通信の可能性を実機で体験

「NTTe-City Labo」は、NTTグループの研修センターの敷地や設備を活用し、様々な事業の実証を行うフィールドとして2022年に開設された施設。営業活動の一環などで次世代技術を活用したユースケースなどを紹介する見学ツアーを実施している。

今回の見学ツアーで最初に紹介されたのは、絵画などのアート作品をデジタル化する取り組み。地域に残る文化財を保護し、精密なレプリカを作成することで場所・時間を問わない鑑賞機会や新たなアート作品を作り出している。また、デジタル化された文化財をさまざまな地域へ発信することで地域送客につなげる取り組みも行っているという。

  • 絵画などのアート作品をデジタル化

NTTグループでは、インフラ設備の保守点検や防災・減災、農業などでの社会実装が進むドローンの運用支援におけるソリューションも提供していることから、ドローンのデモフライトなども行われた。

  • ドローンのデモフライトも実施

また、NTT東日本は地域の通信インフラ会社として、災害に強いまちづくりの推進にも力を入れている。これまでに340の自治体と災害時における連結協定を締結していることや、災害時の自治体の情報収集や被災地支援をNTT東日本グループがBPO的に代行する取り組みなどが説明された。自治体の防災課などで人的なリソースの不足が課題となっていることなどが、こうした取り組みの背景にはあるという。

  • これまでに340以上の自治体と災害時における連結協定を締結

その後、参加者たちは調理屑、食べ残し、売れ残り食品などの食品残渣を原料に、電気・熱といったエネルギーや農作物などの肥料となる液体残渣を作り出す超小型バイオガスプラントの設備を見学した。NTTe-City Laboでは、NTT東日本本社ビルの食堂や近隣の小学校の給食の食料残渣を原料として実証を行っている。

  • 超小型バイオガスプラントの設備も見学

さらに、光技術を活用した次世代通信基盤構想「IOWN」のラボへ移動。「IOWN」 は2030年代までに、電力効率100倍、伝送容量125倍、エンド・ツー・エンドの遅延200分の1を達成することを目標としているが、2023年3月に商用化された「IOWN APN1.0」 において早くも1/200の低遅延目標を達成。数百km離れた場所をつなぐリモートコンサートやeスポーツ対戦、ロボットの遠隔操作が遅延を感じることなく行われることが確認できており、今後もさまざまな分野での活用が期待される。

  • 次世代通信基盤「IOWN」のラボ

最後に紹介されたのはローカル5Gの取り組み。ローカル5Gは企業や自治体などが自らの敷地内に「超高速・大容量」「超低遅延」「多数同時接続」といった特徴を持つ5Gのネットワークを専用で構築する免許制の通信のため、5Gを安定的に利用可能だ。また、普段利用している5G(パブリック5G)がダウンロードに優先されて通信の帯域を設定されているのに対して、ローカル5Gはアップロードに比率を割り当てることができるため、高精細な映像を無線ネットワーク経由で遠隔地へ伝送するようなリモートモニタリングでの活用が進み始めている。

オートメーション化が進む製造業などからの引き合いが多い技術で、NTTグループでは遠隔営農指導や自動運転の実証でも運用中。農業従事者や農業指導者の減少・高齢化といった課題解決を目指す遠隔営農指導では、様々なIoTを使ってより円滑で細かい指導を遠隔から可能だという。

  • ローカル5Gの取り組み

■より高い学習効果が得られる施設へ

1時間半の見学ツアー後、参加者たちはNTTグループの取り組みを踏まえ、それぞれの興味・関心のあるテーマを選択。横浜市ならではのスマートシティのあり方について議論した。

  • 横浜市ならではのスマートシティのあり方について議論

本ワークショップのファシリテーターを務める佐藤氏は、今回のプログラム内容や参加者たちの様子を次のように振り返った。

「第1〜2回は座学が中心で、スマートシティが実際にどういったものかなかなかイメージがしづらいのかなと思いましたが、今回のプログラムでディスカッションがずいぶん前に進んだと思います。今回のように企業の技術をしっかりと見せていただける機会はまず普通の学部生などにはないので、非常に有意義なマッチングでした」

学生向けワークショップと掛け合わせたかたちでの施設見学は、今回が初の試み。ガイド役を務めたNTTe-City Labo主管の金子珠里氏は、今回のプログラムの手応えを述べた。

「本施設は、弊社の研修施設としての設備も完備されていることも特徴です。今回のようにNTTe-City Laboの見学を組み合わせたかたちは初めての試みでしたが、学生にとって高い学習効果が得られたのかなと。学生や社会人向けのワークショップや研修にも提供し、地域循環型社会の実現を加速する施設として運用を広げていきたいです」(金子氏)

災害時の地域住民の安否確認などの把握にIOWNやドローンを活用するアイデアや、新旧の地域住民の共同性を深めるeスポーツイベントといったアイデアを、プログラムの最後に発表した参加者たち。

12月11日には第5回プログラムで成果発表準備が行われ、来年1月25日のYOXO Festivalで成果発表とパネルディスカッションを実施する予定となっている。

最後に、NTT東日本 神奈川事業部 まちづくり推進グループ担当課長の千原史也氏は、横浜市や横浜未来機構との取り組みを踏まえ、「人口減少社会が加速するなか、自治体様に寄り添いながら我々のリソースを活用して地域を守る仕組みづくりを地域の通信インフラを支える企業として担っていきたい」と語っていた。