朝井リョウ“ネタバレ厳禁”3年半ぶりの新作『生殖記』に込めた思い「どこまで遠くに伝えられるか」
脳科学の茂木健一郎がパーソナリティをつとめ、日本や世界を舞台に活躍しているゲストの“挑戦”に迫るTOKYO FMのラジオ番組「Dream HEART」(毎週土曜 22:00~22:30)。 12月7日(土)、14日(土)の放送ゲストは、作家の朝井リョウさんです。7日(土)の放送では、3年半ぶりの新作「生殖記」(小学館)などについて伺いました。

朝井リョウさん、茂木健一郎

1989年生まれ、岐阜県出身の朝井さん。早稲田大学在学中の2009年、「桐島、部活やめるってよ」で第22回小説すばる新人賞を受賞しデビューされました。その後、2013年に「何者」で第148回直木賞を、2014年には「世界地図の下書き」で第29回坪田譲治文学賞を、2021年には「正欲」で第34回柴田錬三郎賞を受賞されています。

◆デビュー作の衝撃

茂木:デビュー作の「桐島、部活やめるってよ」が、衝撃的すぎました。

朝井:それ、すごく久しぶりに言っていただいた気がします(笑)。ありがとうございます。

茂木:あのあとの映画も、素晴らしかったですもんね。

朝井:「桐島〜」はもちろん映画自体も素晴らしかったんですけど、今でも監督や出演していた方々、プロデューサーの方々とつながっていることが嬉しいです。良いプロジェクトって、結果どうこう関係なく、終わったあとも関係性が続いていくものだと思っています。映画「桐島~」にはまさにそれを感じます。

茂木:実はあの映画は、日本映画のなかでは僕の「10年に一度のベスト作品」だったんですよね。

朝井:吉田大八監督と脚本の喜安浩平さんが本当に見事に改変してくださいました。

茂木:鮮烈なデビューを果たした朝井リョウさんですが、その後の作家としての変化がすさまじく、現在、小学館から発売中の新作「生殖記」では、新しい文学の境地にまた挑まれていて、心の底から尊敬申し上げます。

朝井:とんでもないです。

茂木:実はネタバレ禁止というか、内容については一切(情報を出していない)……?

朝井:そうですね。本の帯や公式サイトなどでも、最小限の情報しか公開していないです。

茂木:そうなんですね。新作は、3年半ぶりなんですね。

朝井:単行本の長編小説としては、そうなります。

茂木:今回の新しい小説「生殖記」もですけど、朝井リョウさんは、直木賞系とも芥川賞系ともいえない立ち位置のような気もするんですが。

朝井:そう思っていただけること、とても嬉しいです。私が好きな書き手の方々もそのあたりのラインが曖昧な方が多いので、そういう存在になりたいなあとずっと思っています。色んなものを書いて、結果的にどこにも分類しづらい書き手になれたら嬉しいです。

◆ネタバレ禁止の新作「生殖記」

茂木:新作「生殖記」は、実はネタバレ禁止ですが、小学館のWebサイトには「とある家電メーカー総務部勤務の尚成は、同僚と二個体で新宿の量販店に来ています。体組成計を買うため——ではなく、寿命を効率よく消費するために。この本は、そんなヒトのオス個体に宿る◯◯目線の、おそらく誰も読んだことのない文字列の集積です」という文章が掲載されています。

朝井:このあらすじにはほとんど何の情報もないですよね。あらすじに内容の情報はないんですけど、「ヒトのオス個体に宿る」であったり、人に対してどういう呼称で表現しているか、というところで、読者の方々には何か違和感を持って頂けるといいな、と思っています。

茂木:前から扱っているモチーフだと思うんですけど、世の中で「うまくいってる」とされる価値観に対する距離感というか、それが非常に心に響きますね。

朝井:ありがとうございます。今回は特に、どういうことに対するどんな距離感なのかということを本の外側には出さないように気をつけています。というのも、どういうトピックスを扱っているのかと隠して「物語だよ」という状態で世の中に差し出せるのが、小説の持つ1つの力だと感じているからです。

「このトピックスについて書いてますよ」と明かすと、元々そのトピックスに興味があった方や、その情報を知りたかった方は手に取ってくださるかもしれないですが、そうじゃない方々にとっては「自分とは関係ないな」とか「じゃあ今自分は読まなくていいかな」というふうに簡単に避けられてしまうかな、とも思っていて。だけど、そういう人にこそ届くというのが私の理想なんですよね。

なので今回は、どんな人が中心人物なのかとか、どういう物差しが語りの基準になっているかということは明かさずに、「物語を書きました」というだけでどこまで遠くに伝えられるかな、と思っています。

茂木:目指されているところが非常にストイックというか、文学におけるアスリートというか。これも小学館のWebサイトにある、朝井リョウさんご自身の言葉なんですが「自分のなかにあるルールをすべて撤廃して書きました」と。これはどういうことですか?

朝井:まず、私はいわゆるエンターテイメントの小説の賞でデビューしたんですね。

茂木:小説すばる新人賞ですもんね。

朝井:そうなんです。エンタメ小説の賞でデビューしたということもあって、割とずっと「エンターテイメントをきちんと書ける人になろう」という気持ちが強かったんです。

茂木:そうだったんですね。

朝井:勝手に、「どこでデビューしたか」を考えすぎてしまって。特に、2013年に直木賞を頂いたこともあって、「エンタメをちゃんと書ける人にならないと」と気負っていました。

その状態で10年以上書いていたのですが、今回の『生殖記』を連載するにあたって、そういう縛りを全部なくしてみたくなったんです。連載だと「続きが気になる」とか「色んな展開が巻き起こって、あっという間に読めてしまう」というものが適していると思います。ただ今回は、物語としては読みづらい形式でも、定めた語り手の設定で湧き出てくる言葉をひたすら詰め込むという方針でやってみたかった。自分で勝手に構築しまくっていたルールを全部破らないと次にいけないというか、そういう時期だったんだと思います。それが『自分の中にあるルールを全て撤廃して書きました。』に繋がっています。

次回12月14日(土)の放送も、引き続き朝井さんをお迎えしてお届けします。

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<番組概要>

番組名:Dream HEART

放送エリア:TOKYO FMをはじめとするJFN全国38局ネット

放送日時:毎週土曜22:00~22:30

パーソナリティ:茂木健一郎

番組Webサイト:http://www.tfm.co.jp/dreamheart/