藤井聡太竜王に佐々木勇気八段が挑戦する第37期竜王戦七番勝負(主催:読売新聞社)は、第6局が12月11日(水)・12日(木)に鹿児島県指宿市の「指宿白水館」で行われました。対局の結果、佐々木八段渾身の相掛かり研究に苦しみながらもなんとか持ちこたえた藤井竜王が106手で勝利。4勝2敗として竜王4連覇の偉業を達成しました。
相掛かり大研究時代
先手番をキープし合って迎えた第6局。2勝3敗とあとがない佐々木八段は本局に向けて渾身の研究を用意していました。先手番で相掛かりに誘導したのがその手始め。数局ある前例の中には藤井竜王が後手をもって敗れた11月の対局(日本シリーズ、広瀬章人九段戦)も含まれています。追われた飛車を中段にキープしたのが前例からの修正点でした。
物語の結論を急ぐように佐々木八段はかなりのペースで指し手を進めます。対する藤井竜王は道中の落とし穴に気をつけるかのごとくこまめに時間を使って対応。対局開始から2時間にして手数は50手を超え、盤上は早くも終盤戦の様相を呈しています。大きな分岐点となったのはこの少しあと、封じ手が行われる直前の局面でした。
問題の一手と複雑な背景
連続長考の藤井竜王を尻目に佐々木八段は勢いよく攻め立てますが、56分の考慮で指した端角での王手はすぐに後悔することに。中継カメラは頭を抱えて身をよじる佐々木八段の姿を捉えます。感想戦ではこの手に代えて先に馬を出て形を決めるのが肝要で、数手後に香を成り捨てる軽妙手があり先手の攻めが続くとの結論が導かれました。
佐々木八段が香捨ての好手に気づいたのは封じ手後の夜のこと。ミスに気づき「悲しかった」という佐々木八段ですが、想定以上に局面の難易度が高く正解手がひとつしかなかったこと、事前研究の経験から得られた部分的な好手が今回の最善手に当てはまらなかったこと、持ち時間の優位性からくる焦りなど複合的な要素が裏目に出ての敗着となりました。
両者の長所が出た名局
濃密な読み合いを経て窮地を脱した後手の藤井竜王は、3時間という限られた持ち時間のなかで2日目の戦いを乗り切ります。自玉が竜と成香に迫られて再びピンチを思わせる局面、ここで見せた金寄りの受けが決め手となりました。怖いようでも藤井玉に詰めろはかかりません。終局時刻は15時21分、最後は自玉の受けなしを認めた佐々木八段が投了。
全体を振り返ると、膨大な手数に及ぶ佐々木八段の事前研究だけでなく、優位に立ってから短い持ち時間でも間違えない藤井竜王の正確な終盤力までも印象に残る一局となりました。貴重な後手番ブレイクで防衛に成功、竜王4連覇とした藤井竜王は局後「後手番で苦戦する将棋が多く課題が残ったが結果を出せてよかった」と喜びを語りました。
水留啓(将棋情報局)