一般向けに農福連携の魅力を発信
SHIBUYA QWSスクランブルホールにて12月2日、農福連携のトークセッションや農福連携で活躍する障害者の作文の展示や商品の展示・試食などが行われた「ノウフクの日」制定記念イベント。一般も予約不要で無料、さらに入退場自由のオープンさからも、イベントは終日、にぎわいを見せました。
障害者が農業で活躍することで社会参画を実現するなど、農業と福祉の分野が組み合わさる農福連携 。主催する一般社団法人 日本農福連携協会の渡部淳さんは、「これまでは『農福連携に取り組む主体を増やす』ことが啓発の中心でした。福祉事業者の農業参入や、農業者による障害者雇用を増やすという観点です。もちろん、それらも継続しますが、現在は次のフェーズに入っています。今回は、農福連携という取り組みを一般消費者や、他の企業に知っていただこうと、オープンなスペースでのイベントを初めて実施しました」と話します。
講演やトークセッションを実施
イベントは7つの講演と4つのトークセッションにより、農福連携に関わる人たちが取り組みの実態や思いなどが語られました。
その人が輝ける場を作っていく
株式会社AGRIKOの代表取締役で俳優の小林涼子(こばやし・りょうこ)さんとプレミアムウォーター株式会社の広報宣伝課長である與風明広(よかぜ・あきひろ)さんは、「企業の農福連携への参画」をテーマに企業のCSR・サステナビリティ担当者などに向けてトークセッション。
與風さんは「障害のある従業員の方々が活躍できる場を用意し、力を発揮していただくというシンプルなことで企業体としても企業活動としても、最大の効果を発揮すると考えています」と話しました。これを受けて小林さんも「私自身、まだ取り組んでから間もないですが、農福連携は本当に可能性を秘めていると思います。その可能性には日々驚かされることばかりです」と話しました。
“未来設計型農業”の実践者たちがトーク
さらに「多様な人材が生み出す新たな食と農」というテーマでトークセッションに参加したのは株式会社ファーマンの代表取締役の井上能孝(いのうえ・よしたか)さん、遊士屋株式会社の代表取締役の宮澤大樹(みやざわ・だいき)さん、株式会社アグリーンハートの代表取締役の佐藤拓郎(さとう・たくろう)さん。
3人は今回のセッションのための事前オンライン打ち合わせが初対面だったそうですが「週2回は飲んでいるのでは」と本人たちが感じるほど、考え方に共感する部分が多く勉強になったことも多かったようで終始和やかに進みました。
佐藤さんは会場に向けて「企業が農家や福祉の事業者とやっていくときに必要なのは『取り引き』ではなく『取り組み』を行うということ。地球と人のウェルビーイングを一緒に目指していくことが大事だと思います」と話しました。
「農業というビジネスと環境のバランスについて」という司会者からの問いには「事業の持続性を考えれば利益は追求すべきだと考えています。ただ生み出した利益を何に使うかが大事。次世代、社会の多様性・包摂性、環境の持続性に対して投資する。そういったことが私たち3社に共通していると思います」と井上さんは回答しました。
宮澤さんも「課題を掛け合わせればビジネスで解決できる。この『ビジネスで』ということが置いていかれがちですよね。課題を解決できて、ビジネスとして成り立つものを作る。そこにブレイクスルーのポイントがあるんじゃないかと思います」と話しました。
農福連携を実践する3人は、共通して「未来に何が必要か」というバックキャストで物事を考えるそう。これを“未来設計型農業”だと佐藤さんが話すと、井上さんと宮澤さんが共感するという一幕もありました。
ノウフクの見本市も盛況
イベントでは同時にノウフクの見本市も開催していました。個々の出展ブースでも、農福連携の優れた実践例が集まっていました。JAちば東葛󠄀もその一つ。人手不足という地域の困り事に、ちば東葛󠄀農業協同組合の指導経済部兼直販事業部、川島翔平(かわしま・しょうへい)さんは自ら福祉事業所をマッチングしています。生産者思いのJAが実現した優良事例といえるでしょう。
農作業を通じた「自立・就労支援」トレーニングをしているのは一般社団法人都市農福を推進する会エシカルベジタブルス八王子。見本市では、農薬・化学肥料を使わないカラフルニンジンを使ったジャムが好評でした。
また、花きでは初となるノウフクJASを取得し、ノウフク・アワード2024の優秀賞を受賞した、山形県の株式会社バラの学校〈ナカイローズファーム〉 も出展。専務取締役の中井貴宏さんは、「3年前から活動拠点を千葉県から山形県に移し、農福連携に真剣に取り組んでまいりました。当社の手法で食用バラを栽培し、6次化する同志も72件まで増えました」とこれまでの歩みを振り返ります。こうした思い溢れる出展者による商談会も同時開催され、多くの交流が生まれていました。
農福連携の関係人口を増やす
⼀般社団法⼈⽇本基⾦が2023年に発表した消費者向けアンケート調査では、農福連携を内容も含めて知っている人は7.8% 。決して高いとはいえないでしょう。イベントの実施事務局は「農福連携は単に農業と障害者の連携だけではありません。地域創生にもつながる話だと思います。こうした観点からも、もっと多くの方に知っていただき、関係人口を増やすことで、これからも活動が広がってほしいと思っています」と話しました。
一般消費者はもちろん、企業のサステナビリティ推進やCSRの担当者も多く来場したこの日。一人ひとり異なる立場から、農福連携の応援や、積極的な取り組みが期待されます。