九州を拠点とするJリーグクラブであるアビスパ福岡とギラヴァンツ北九州は、NTT西日本 九州支店、西部ガス、九州電力送配電とともに、気候アクションクエスト「Catch The Manhole (キャッチ・ザ・マンホール)」を10月10日より開始した。

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    (写真左より)アビスパ福岡 執行役員 マーケット開発部/営業サポート部の佐川諒氏、ギラヴァンツ北九州 クラブ事業本部 社会連携推進部の永由杏氏、NTT西日本 九州支店 設備部 総括担当 担当課長の東正和氏

「Catch The Manhole」は、日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)とNTTグループが推進する気候アクションプロジェクト「TH!NK THE BALL PROJECT」の一環として実施される、スマートフォンアプリ「fowald」を用いたファン・サポーター参加型の気候アクションクエストで、「Jクラブと行政、インフラ事業者による官民共同クエスト」、「複数クラブによる共催クエスト」の開催はいずれも本プロジェクト初の試みとなっている。

スタジアム観戦や観光、通勤・通学や日常の買い物など目的地への移動の際、徒歩で"まち"を周遊しながら歩道に点在するマンホールを撮影し投稿する、誰もが楽しみながら参加できる「Catch The Manhole」は、自動車利用などによるCO2排出を抑制することで、カーボンニュートラル社会の実現に向け、個々人の行動変容を促し、楽しみながら気候変動対策への意識高揚を図ることを目的としている。

参加者は、登録の際に、アビスパ福岡、ギラヴァンツ北九州のいずれかのチームを選択。マンホールの写真の投稿数をチーム対抗で競う、いわば福岡ダービーの様相を呈しており、両チームの投稿数上位5名に対して、個人賞としてリワード(景品)が進呈される。

  • まちに点在するマンホールを撮影

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    「fowald」で撮影した写真を投稿

企業は、社会資源を利用して経営活動を行っていることから、社会に対してその資源を丁寧に扱う義務を負っており、「企業の社会的責任(CSR)」として、社会貢献活動や社会連携が求められている。これはJリーグに参加する各クラブも同様で、「シャレン!」をテーマに様々な地域貢献活動が実施されている。

福岡市を拠点とするアビスパ福岡では、2023年2月より社会連携プロジェクト「FUKUOKA TAKE ACTION!」を発足し、社会連携に特化したパートナーシップを作り推進している。「我々のクラブ理念は、子どもたち(教育)と社会づくり、そしてまちづくりの3つ。それに沿ったアクションを持続的にやっていくことを目的としています」と、アビスパ福岡 執行役員 マーケット開発部/営業サポート部の佐川諒氏はプロジェクトの目的を説明する。「このプロジェクトでは、企業様にアビスパを使って、社会課題を解決していただくことが狙いで、アビスパがアクションを行うのではなく、地域のあらゆるステークホルダーがコミュニティになって、当事者として一緒に解決していく」という取り組みであり、課題解決のために「アビスパのアセットを使い倒していただきたい」とその意気込みを明かす。

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    アビスパ福岡 執行役員 マーケット開発部/営業サポート部の佐川諒氏

一方、「ホームタウンとなる北九州市では、高齢化と交流人口の減少が地域課題」と話すのは、ギラヴァンツ北九州 クラブ事業本部 社会連携推進部の永由杏氏。北九州地域で協定を結んでいる18市町のフレンドリータウンと協働しての特産品開発や、「スクール☆ギラヴァンツ」と呼ばれる学校訪問などを実施することで、交流人口の増加を目指しながら、「Be supporters!」という高齢者や認知症の方を対象とした企画を実施。「様々な施設を巡ったり、高齢者の方に試合を見に来ていただいて、元気になってもらうことが目的」と、その企画意図を説明する。

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    ギラヴァンツ北九州 クラブ事業本部 社会連携推進部の永由杏氏

このように、各クラブにおいて、社会連携を目指した様々な取り組みが行われているが、すべてが上手く行っているとは言い難い現状について、アビスパの佐川氏は「気候アクションの具体的な取り組み内容が『クリーン活動』『SDGsワークショップ/セミナー』程度で、回数や参加人数などの定量化しかできておらず、実際のCO2削減などの数値化のアウトプットに課題があった」と分析。「気候アクションと言われても、なかなか自分事としては捉えにくいのでは」と現状の問題点を指摘する。一方、ギラヴァンツの永由氏も、様々な取り組みを実施するものの、いかに参加者を集めるかが大きな課題になっているという。

一方、「循環型社会の実現」を事業の柱の一つに掲げるNTTグループでは、2040年度までに自らのカーボンニュートラルの実現を目指すとともに、楽しみながら脱炭素に貢献できる仕組みづくりや、スマート農業・漁業といった地域で資源を循環するビジネスの創造などにも取り組んでいる。その一環として、地域に根差し、発信力と求心力を持つスポーツクラブとの協働が重要と考えるに至り、同じ想いを持つJリーグと気候アクションプロジェクト「TH!NK THE BALL PROJECT」を始動。ファン・サポーターが気候アクションに参加しやすくなる仕組みづくりに取り組んでいる。

アビスパ福岡、ギラヴァンツ北九州、そしてNTT西日本が手掛ける気候アクションクエスト「Catch The Manhole」は、この「TH!NK THE BALL PROJECT」の一環として行われている取り組み。「気候アクションなので、まずは歩いていただこうと思った」と、その仕掛け人でもあるNTT西日本 九州支店 設備部 総括担当 担当課長の東正和氏は、企画立案の経緯を紹介する。「車を使わずに歩くことは、CO2削減に繋がるというだけでなく、まちのことをより深く知ることにも繋がる」とその狙いを明かしつつ、「ただし、歩いていただくためには何か目的が必要」であることから、マンホールを撮影して投稿するという企画が生まれたという。「普通のマンホールをただ撮るだけだとまったく面白くない。しかし、福岡市や北九州市には、様々な模様の入ったマンホールがたくさんあって、それを撮りながら歩くことは、新たな気づきにもなる」という発想が、今回の企画を始動する大きなきっかけとなった。

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    NTT西日本 九州支店 設備部 総括担当 担当課長の東正和氏

今回、NTT西日本が、アビスパ福岡とギラヴァンツ北九州をパートナーとして選んだのは、両クラブチームが「TH!NK THE BALL PROJECT」に参画していることも大きな理由のひとつだが、プロジェクトにエントリーはしたもののアビスパ単体での活動は考えておらず、「せっかく、『シャレン!』という枠組で活動をしているので、他の企業の方と一緒に考えて活動がしたかった」というアビスパの佐川氏。一方、昨年のトライアル期間から参画しているギラヴァンツの永由氏は、「なかなかアプリに馴染みのないサポーターの方が多かったこともあって、最初は誘導するのも大変だった」と初期の苦労を明かす。

NTT西日本より「Catch The Manhole」の企画を提案された際、アビスパの佐川氏は、ホームスタジアムの立地から見ても最適な企画だったと振り返る。アビスパ福岡のホームスタジアムであるベスト電器スタジアムは、最寄りが福岡空港という日本でも珍しいスタジアムだが、徒歩でおよそ25分という距離に、ネガティブな印象を持たれることも少なくないという。「ちょっと微妙な距離で、バスの本数もあまり多くないので、スタジアムに足を運びにくい要因のひとつになっている」という現状に対し、「逆に考えれば、その距離を楽しみながら歩くという文化が作れれば、アクセス問題というネガティブな要素をなくせるのではないか」と分析。「楽しくマンホールを探しながら歩けば、あっという間にスタジアム。そんな構造が出来上がれば、気候変動にも貢献しながら、アクセス問題も解決できる」と、そのメリットの大きさについて言及する。

「北九州にはデザインマンホールがすごく多いので、ファンも楽しみながら参加できると思った」というギラヴァンツの永由氏。実際、北九州市には、ギラヴァンツ北九州のクラブマスコット「ギラン」や『銀河鉄道999』のメーテル、『ポケモン』のキャラクターなど、多種多様なデザインマンホールが設置されている。さらに、「北九州は車社会なので、普段車に乗っている方が歩くことによって、健康面での効果も大きい」と健康面での効果にも期待を寄せる。

「TH!NK THE BALL PROJECT」は、あくまでもJリーグとNTTグループが作った器であり、企画内容についてはそれぞれのクラブチームに任されている。「ほかでも同様な取り組みが行われていますが、なかなか盛り上がらせるのに苦労しているようです」というNTT西日本の東氏。その点、「『Catch The Manhole』は、アビスパさんとギラヴァンツさんの対決という構図が作れたことによって、『TH!NK THE BALL PROJECT』においても一番の盛り上がりを見せている」という。

実際、10月10日にスタートしてからおよそ1カ月の反応について、「当初の期待値を大きく上回っています」と評価。「年末までの活動期間で、3,000件くらいの投稿があれば良いと思っていたのですが、1カ月も経たずに、その10倍を超える40,000件くらいの投稿が寄せられていて、皆さんがこの企画を楽しんでいただけていることがわかった」と笑顔を見せ、現在、アビスパ福岡がJ1、ギラヴァンツ北九州がJ3ということもあり、「普段、チーム自体の直接対決がなかなか実現しない両チームが、サッカーとは別の要素でダービー的に対戦できる。この構図がファン・サポーターの方に刺さって、すごい起爆剤になったのではないか」と分析する。

話を伺った時点ではアビスパ福岡が優勢だったが、企画のスタート時点から接戦を繰り広げており、まさに日替わりで順位が変わるデッドヒートを展開。「本当に上手い具合に競い合っていて、お互い負けたくないという心理が絶妙に作用しているのでは」とアビスパの佐川氏は戦線を見守り、ギラヴァンツの永由氏も、「課題であったアプリのダウンロード数が増えたのも、この対決構造が良かったのだと思います」と高く評価する。

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スタートしてまだ1カ月だが、一定の成功を収めているのは、NTT西日本のサポートが大きく貢献しているというアビスパの佐川氏。「アビスパだけでは絶対に出来なかったと思います。今までのスポーツ界におけるスポンサーシップは、協賛金をいただいて、クラブが権利をお渡しするという構図で、どちらかというと、コンテンツホルダーであるクラブ側が企画を考えて、それに乗ってもらうという文化でした」とこれまでのあり方を振り返りながら、「今回のように、企業側がクラブのアセットをフル活用する企画を考えて、自身の事業としても成り立たせるというモデルは、日本のスポーツ界においても珍しい事例。新しいロールモデルを作っていただいたという点でも非常に感謝している」と述べ、「先程も話しましたが、『アビスパのアセットを使い倒してください』という我々の想いをしっかりと体現していただいている」と感謝の意を表する。

今回の取り組みは、アビスパ福岡、ギラヴァンツ北九州、そしてNTT西日本 九州支店の三社を中心としているが、西部ガス、九州電力送配電といったインフラ企業も協賛に加わり、福岡市、北九州市など自治体も後援として関わっていることについて、ギラヴァンツの永由氏は、「ギラヴァンツだけでは普段関わることのない企業と関わるきっかけを作っていただいた」と感謝。さらに、「アプリの内部調整もけっこう大変だったのですが、そのあたりをすべてお任せできたのも非常にありがたかった」と付け加える。

「今回、西部ガスさん、九州電力送配電さんにも快くご協力いただけたのは、福岡における環境貢献活動を、みんなでやっていくという想いに共感していただけたことが大きい」というNTT西日本の東氏は、「これをきっかけにさらに社会連携を広げていければ」と、今後のさらなる広がりを展望しつつ、「今後も引き続き、環境貢献に取り組んでいきたい」と力を入れ、「今回はこの2チームとやらせていただいて、ひとつのモデルが作れたと思うので、次年度以降も連携できる面白い取り組みを企画していきたい」とさらなる意欲をみせる。そのうえで、「今回はJリーグさんとの取り組みでしたが、さらに輪を広げて、それこそ野球であったり、そのほかのスポーツとのジャンルを超えた対決ができたら、さらに盛り上がるのではないか」と今後のさらなる発展に夢をはせる。

「Jリーグクラブは、社会を変える存在にならないといけない」というアビスパの佐川氏は、「社会課題の構造を変えていくためには、日々の行動を変えないといけない。そして、行動を変えるためには日々の意識を変えていかないといけない」という前提を挙げ、「サッカークラブが社会課題を構造ごと変えていくのはなかなかハードルが高いのですが、ファン・サポーター、スポンサー企業、自治体といったステークホルダーが多いのが我々の価値だと思っているので、最初に意識と行動を変えさせるアクションは起こすことができるはず」と自信を覗かせつつ、「社会課題の解決にはエンタメ要素も絶対に必要である」との見解を示し、「サッカークラブがあったからこそ、まちの文化や社会課題が変化する。その実現を目指していきたい」と今後の目標を挙げる。

また、「ブランドを作るということは、やり続ける姿勢を見せ続けること」という考えの下、「FUKUOKA TAKE ACTION!」で様々なテーマの社会課題に取り組んでいるのは、「アビスパが本気で福岡の町のために活動しているクラブだと住んでいる方に思っていただくため」であり、最終的には「すべてのアクションを集客に繋げていく」ことが目標であるという。「残念ながら、アビスパの観客動員はJ1の中でも最低クラス。観客動員を増やすためには、日本代表選手がいますとか、ユニフォームがもらえますとか、地元のアーティストが歌いに来ますみたいなコンテンツとしての面白さも重要ですが、その一方で、5年後、10年後にスタジアムに来ていただける層を開拓するためには、サッカー好き以外の方とのタッチポイントをいかに作り出せるか」が重要であるとし、「社会課題に対してのアクションを続けることで、サッカーにあまり興味のない方とのタッチポイントを作り、『こんなにまちのために頑張っているアビスパを応援してみよう』と思っていただくことに繋げていきたい」と、社会連携に本気で取り組む理由を説明した。

集客という点ではギラヴァンツも同様で、「今回の企画はアプリ上での取り組みですが、スタジアムでも、防災であったり、SDGs関連のイベントを毎試合実施していますので、ぜひ多くの方に参加していただきたいですし、来年以降は、スタジアムでの取り組みにもさらに力を入れていきたい」というギラヴァンツの永由氏。そのうえで、今回の取り組みについても、「ギラヴァンツのサポーターの方にもっと参加していただいて、最終的に勝てればうれしいですね」と企画に参加するファン・サポーターにエールを送った。

なお、今回この取り組みでは、リワード(景品)として、両チームの投稿数上位5名に対して、普段は手に入れることができないサイン入りユニフォームなどが用意されている。「Catch The Manhole」の実施期間は2024年12月31日まで。ファン、サポーターに限らず、誰でも参加可能となっているので、福岡県内の歩道に点在するマンホールの写真を撮影し、スマートフォンアプリ「fowald」からどんどん投稿し、さらに企画を盛り上げてみよう。

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  • 投稿数上位5名にはサイン入りユニフォームなどが進呈される