2024年12月12日午後11時、Intelの新たなディスクリートGPU「Arc Bシリーズ」から「Arc B580」の性能評価が解禁となった。発表時の情報では、NVIDIAのミドルレンジGPU「GeForce RTX 4060」に対して10%、前世代の「Arc A750」より24%性能が高いとしている。実際にどうなのか。ここでは8タイトルのゲームで性能を比較していく。Arc B580が新たなミドルレンジGPUの選択肢となり得るのか。注目したい。
なお、国内でArc B580搭載カードは、ASRockの「ASRock Intel Arc B580 Challenger 12GB OC」(メーカー想定価格4万9980円前後)、「ASRock Intel Arc B580 Challenger 12GB OC」(メーカー想定価格5万2980円前後)が12月13日に午後11時から発売予定。SPARKLEの「SPARKLE Intel Arc B580 TITAN OC」(メーカー想定価格4万800円前後)が12月14日から発売予定となっている。
「Arc B580」と「Arc B570」のスペック、「XeSS 2」に注目
すでに発表されている「Arc B580」と「Arc B570」のスペックを下の表にまとめた。Arc B570は219ドルで2025年1月16日に発売予定だ。スペックで注目はビデオメモリの容量だろう。Arc B580で12GB、Arc B570で10GBが搭載されている。ライバルに位置するGeForce RTX 4060、Radeon RX 7600はどちらも8GB。ビデオメモリの消費量が多いリッチな描画のAAAゲームやAI処理では有利に働くと考えられる。
その一方で、カード電力はArc B580が190W、Arc B570が150Wだ。前世代のArc A770/750が225Wだったので下がってはいるが、それでもGeForce RTX 4060の115Wよりかなり高い。カード単体の消費電力も測定するので、そこにも注目してほしい。
仕様 | Intel Arc B580 | Intel Arc B570 |
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Xe Core | 20基 | 18基 |
レイトレーシングユニット | 20基 | 18基 |
XMX AI Engine | 160基 | 144基 |
GPUクロック | 最大2670MHz | 最大2500MHz |
GPUメモリ | GDDR6 12GB | GDDR6 10GB |
メモリバス幅 | 192bit | 160bit |
メモリ速度 | 456GB/s | 380GB/s |
接続インタフェース | PCI Express 4.0 x8 | PCI Express 4.0 x8 |
消費電力(TBP) | 190W | 150W |
今回テストするカードを紹介しておこう。今回テストするのは「Arc B580 Limited Edition」だ。Arc A770/750のLimited Editionは国内でも発売されたので、こちらの登場も期待したいところ。ちなみに、Arc B570にはLimited Editionは用意されないようだ。カードのデザインはArc A750 Limited Editionに近い。LEDは天面にある「Intel ARC」の文字だけで、シンプルで渋いな雰囲気だ。
Arc Bシリーズは、Intel最新世代のXe2アーキテクチャを採用しているGPUだ。前世代よりもレイトレーシング性能が大きく向上するなど、全体的な底上げが行われているが、一番のポイントはIntel独自の描画負荷軽減技術「XeSS」が「XeSS 2」に強化されたこと。従来からのアップスケーラー(Super Resolution)は、XeSS-SRと呼ばれるようになり、そこにフレーム生成(Frame Generation)のXeSS-FG、表示遅延を軽減するXeLLが加わった。NVIDIAの「DLSS 3」やAMDの「FSR 3」と同じような技術へと発展したわけだ。
Arc B580の性能をベンチマークテスト
さて、気になる性能チェックに移ろう。テスト環境は以下の通りだ。比較対象としてArc A750 Limited EditionとGeForce RTX 4060を用意した。CPUのパワーリミットはPL1=PL2=253Wに設定。ドライバは、Arc B580はテスト用に配布された「32.0.101.6252」、Arc A750は「32.0.101.6319」、GeForce RTX 4060は「Game Ready 566.36」を使用している。Arc B580はWQHD解像度でのゲームプレイをターゲットにしているため、テストの解像度はフルHDとWQHDの2種類とした。
【検証環境】 | |
CPU | Intel Core i9-14900K(24コア32スレッド) |
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マザーボード | ASRock Z790 Nova WiFi(Intel Z790) |
メモリ | Micron Crucial DDR5 Pro CP2K16G56C46U5(PC5-44800 DDR5 SDRAM 16GB×2) |
ビデオカード | Arc B550 Limited Edition、Arc A750 Limited Edition、GeForce RTX 4060 |
システムSSD | Western Digital WD_BLACK SN850 NVMe WDS200T1X0E-00AFY0(PCI Express 4.0 x4、2TB) |
CPUクーラー | Corsair iCUE H150i RGB PRO XT(簡易水冷、36cmクラス) |
電源 | Super Flower LEADEX V G130X 1000W(1,000W、80PLUS Gold) |
OS | Windows 11 Pro(23H2) |
まずは、3D性能を測定する定番ベンチマークの「3DMark」から見ていこう。
3DMarkの結果を見ると、Direct X11ベースのFire Strike、Direct X12ベースのSteel NomadではRTX 4060を上回った。レイトレーシングのテストが含まれるSpeed WayではRTX 4060がわずかに上回る結果だ。
では、実際のゲームではどうだろうか。まずは、定番FPSの「Apex Legends」と「オーバーウォッチ2」を試そう。Apex Legendsは射撃練習場の一定コースを移動した際のフレームレート、オーバーウォッチ2はbotマッチを実行した際のフレームレートをそれぞれ「CapFrameX」で測定している。
Apex Legendsでは、Arc B580とRTX 4060はほぼ拮抗。オーバーウォッチ2では、Arc B580が上回った。とくにWQHDでは、約25%もフレームレートが上回っており。WQHD解像度での強さを見せた形だ。
描画負荷が高く、XeSSとDLSS 3の両方に対応しているゲームではどうだろうか。「Ghost of Tsushima Director's Cut」と「サイバーパンク2077」を用意した。ポイントは、XeSSはアップスケーラーだけ、DLSS 3はアップスケーラーとフレーム生成の両方を使えること。XeSSやDLSS 3を使わない結果も試すので、“素”の状態での性能、そして使える描画負荷軽減技術の違いでフレームレートの伸びがどこまで変わるのかに注目してほしい。
Ghost of Tsushima Director's Cutはを旅人の宿場周辺の一定コースを移動した際のフレームレートを「CapFrameX」で測定。サイバーパンク2077はゲーム内のベンチマーク機能を利用している。
XeSSやDLSS 3を使っていない状態では、いずれもArc B580がRTX 4060を上回っている。基本的な性能は、Arc B580に軍配が上がると言ってよいだろう。その一方で、Ghost of Tsushima Director's CutではDLSS 3(アップスケーラー+フレーム生成)を有効にすることで2倍ほどフレームレートを伸ばした。XeSSはアップスケーラーだけなので、WQHDで約1.4倍ほどの増加だ。ただ、サイバーパンク2077を見るとRTX 4060はフルHDだと大幅にフレームレートを増加させているが、WQHDはわずかな向上。XeSSを有効化したArc B580のほうがフレームレートが高い。搭載メモリの多さが効いたと見られる。
2024年末発売の注目タイトルも試してみよう。「Microsoft Flight Simulator 2024」、「S.T.A.L.K.E.R. 2: Heart of Chornobyl」、「インディ・ジョーンズ/大いなる円環」を用意した。Microsoft Flight Simulator 2024はアクティビティのディスカバリーで東京を選び、60秒間飛行した際のフレームレート、S.T.A.L.K.E.R. 2: Heart of Chornobylはザリシアの一定コースを移動した際のフレームレート、インディ・ジョーンズ/大いなる円環はバチカンの一定コースを移動した際のフレームレートをそれぞれ「CapFrameX」で測定している。
Microsoft Flight Simulator 2024は、XeSSに対応していないのでArcシリーズはアップスケーラーにはFSRを利用した。非常に描画負荷の高いゲームだ。アップスケーラーを使わない状態では、Arc B580とRTX 4060は同等と言える。しかし、RTX 4060はDLSS 3が使えるのでそこから2倍以上フレームレートの増加が可能だ。FSRではわずかしかフレームレートがアップしなかった。
S.T.A.L.K.E.R. 2: Heart of Chornobylは、アップスケーラーを使用しない場合、Arc B580がRTX 4060を大幅に上回る。これはビデオメモリ量の差と見られる。最高画質設定ではフルHDでもビデオメモリ使用量が8GB(Arc B580使用時)を超えるからだ。ビデオメモリが8GBのRTX 4060では、容量不足でフレームレートが伸びないのだろう。しかし、DLSS 3を有効にしたフルHDでは平均98.2fpsと大幅に向上。アップスケーラーによって使用するビデオメモリ量が減り、フレーム生成の効果が出たと見られる。ただ、WQHDではやっぱりビデオメモリ不足からか、XeSSを有効化したArc B580を下回った。
インディ・ジョーンズ/大いなる円環は、フルレイトレーシングに対応した描画負荷の非常に高いゲーム。GeForceに最適化されており、描画負荷軽減技術はDLSSだけの対応だ。しかし、ここでもビデオメモリ量の多さが効いて、フルHDでDLSS 3を有効化したRTX 4060と同等、WQHDでは上回った。大容量のビデオメモリを求めるゲームにおいては、12GBを搭載するArc B570の強さが出やすい。
次は、XeSS 2最大の特徴であるフレーム生成「XeSS-FG」の効果を見てみたい。原稿執筆時点では正式に実装されているゲームはなく、「F1 24」のテスト用バージョンを利用している。フレームレートはゲーム内のベンチマーク機能で測定した。
XeSS-FGの効果は大きく、XeSSを使っていない状態に比べてフルHDで約2.4倍、WQHDで約2.7倍もフレームレートが向上した。これはDLSS 3を有効化したRTX 4060のフレームレートを大きく上回っている。XeSS 2対応のタイトルが増えれば、Arc B580の価値はアップすると言ってよいだろう。
消費電力はどうだろうか。ビデオカードの消費電力を実測できるNVIDIAの専用キット「PCAT」を使用し、Apex LegendsとF1 24のベンチマーク実行時におけるカード単体の平均消費電力を測定した。
Arc B580は、Arc A750に対して性能をアップしながら消費電力は減っており、電力効率が大きく向上しているのが分かる。しかし、RTX 4060に比べると30~40Wほど高い。電力効率の面では、RTX 4060が強いと言える。
システム全体の消費電力ではどうか。OS起動10分後をアイドル時、サイバーパンク2077プレイ中の最大値を高負荷時として測定した。電力計にはラトックシステムの「REX-BTWATTCH1」を使用している。
Arc Aシリーズはアイドル時の消費電力が高かった。Arc B580ではかなり改善されたようで、RTX 4060とほとんど変わらないレベルになった。これはよいところだ。ただ、高負荷時はカード単体の消費電力と同様にArc B580のほうがRTX 4060よりも35W高くなった。ちなみに、Arc B580 Limited EditionはArc A770/750のLimited Editionと同様に動作音が非常に静かという特徴を引き継いでいる。ほとんどファンの音が気にならないレベルだ。一般的なPCならば、CPUクーラーのほうが動作音が大きいだろう。
このほか、Arcシリーズを使ってAIによる画像生成やチャットが手軽に楽しめる「AI Playground 2」アプリを用意したり、ディスクリートGPUとCPU内蔵のGPUのコントロールアプリを統合した「Intel Graphics Software」を新たに開発するなど、ソフトウェア面の整備も積極的に進めている。Arc B570の発売時には、このあたりの使い勝手も含めてじっくりとレビューをしてきたいと思う。
インテルの本気? RTX 4060超えの場面が目立つ
駆け足となったが、ここまでがArc B580のレビューとなる。アップスケーラーを使わない素の性能で、RTX 4060を上回ることが多く、ミドルレンジGPUとしての価値は十分ある。ドライバーに関しても安定度は確実に上がっており、Intelの本気度が見えるところだ。
ただ、RTX 4060と同等の戦いをするにはXeSS 2対応のタイトルを増やす必要がある。描画負荷の高いAAA級ゲームを快適にプレイするには、アップスケーラーとフレーム生成を組み合わせるのがスタンダードになりつつあるからだ。
あとは価格だろう。RTX 4060の最安値クラスは4.2万円程度まで下がっている。Arc B580の国内価格は5万円前後から。本格的な普及は、価格がこなれてXeSS 2対応タイトルが増えてからではないだろうか。それでもミドルレンジGPUの選択肢が増えることは喜ばしいことだ。