新卒入社の早期退職がニュースになる昨今、令和6年入社の新入社員800名を対象にしたアンケート※では、入社2ケ月の時点でナント約3割が「辞めたい」と感じていた。
※『マイナビ転職』の「新入社員の意識調査(2024)」より
こうしたミスマッチを防ぐためには、受け入れ側が学生の就職意識を知ることがヒントになり得る。本記事では、リクルートマネジメントソリューションズが実施した「2025年新卒採用 大学生就職意識調査」の発表会で得た知見を紹介したい。
採用の売り手市場で学生の大手志向が強まる
新卒採用における大学生の就職意識調査は、同社が毎年行っているアンケート調査のひとつ。
今年も6月27日から7月10日にかけ、2025年卒の大学4年生と大学院2年生1,174名にインターネットでアンケートを実施し、その結果を発表した。
発表会は、同社の主任研究員である飯塚彩氏による2025年卒の採用・就職活動の市場分析からスタートした。
「求人総数は79.7万人で、ほぼコロナ禍前と同じ水準まで回復しました。一方、民間企業就職希望者は約45万人で求人倍率は1.75倍に達し、2017年度卒並みの売り手市場になりました」(飯塚氏)
では、こうした売り手市場は学生の企業選びにどういった影響を及ぼしているのであろうか。飯塚氏は次のように指摘した。
「求人総数はどの企業規模においても前年並みもしくはやや増加しています。ところが就職希望者数の前年比は、300~900人未満で-26.0%なのに対し、5,000人以上では+24.3%になりました。学生の大手志向が伺えます」(飯塚氏)
そういえば、筆者が就職活動をした1989年もバブル期の絶頂で、「寄らば大樹」といった考え方が一般的だったと思う。リーマンショック後の就職氷河期と言われる時代に就職活動を行ったビジネスパーソンからすれば、うらやましい限りであろう。
安定志向の一方で、定年まで勤めたい学生は20%未満
同調査では、学生に対し企業選びにおける価値観についても質問している。例えば、「仕事に求めること」については、次のような結果になった。
「1位の『安定』と2位の『貢献』は6年間変わっていません。3位と4位は順位に多少の変動はあるものの『金銭』と『成長』が占めています。このデータから言えるのは、学生はまず安定した環境や報酬を確保したうえで、仕事を通じて貢献や成長をしたいという想いがあることです」(飯塚氏)
「安定」という選択肢を詳細にみると、「守られる」や「保証がある」、「安心できる」といったものが挙がる。「働く上で重視したい社風」についても、こうした安定志向と相通じるものがあった。
「2015年卒と2025年卒で好む社風を比較すると、『相互の思いやりとあたたかさ』や『オープンなコミュニケーション』の項目で25年卒のグラフが張り出し、『理想に向かう情熱と意欲』で減少しています。学生は安心感を重視し、挑戦的な雰囲気を好まない傾向が浮き彫りになっています」(飯塚氏)
こうした安定志向を強める学生は、入社する企業に対し、どのような勤続意向を持っているのであろうか。この点についても、同調査ではアンケートを実施している。
「内(々)定先企業への勤続意向が3年未満の人は合計6.6%です。また、『3~5年未満』『5~10年未満』『10年以上』『定年まで』はそれぞれ15%前後存在しており、さまざまな考えを持った人がいることがわかります」(飯塚氏)
筆者が社会人に成り立ての頃、大手就職情報会社の自社アンケートで『定年まで勤めたい』という社員の割合が20%未満だったことに驚いた記憶がある。
安定志向の一方で、定年までの勤続意向がやはり20%を下回っているのは、終身雇用制が崩壊した結果と言える。
「面接官ガチャ」に対応し採用面接官を選べる企業も
同調査がユニークな点は、興味ある企業への入社意向に影響を与える要因についても聞いていることだ。同社研究員の橋本浩明氏が次のように解説した。
「約6割の学生が、入社前に勤務地がわからないこと、配属部門・職種を選べないこと、入社後に転勤があることで入社意向が低下すると答えています。いわゆる『ガチャ』、不確定な要素はできるだけ避けたいという安定志向の表れです」(橋本氏)
「~ガチャ」とは最近よく聞く用語だ。橋本氏によれば「勤務地ガチャ」や「配属ガチャ」、さらには採用面接における「面接官ガチャ」といった使われ方もある。
この「面接官ガチャ」の不安を解消するため、学生が面接官を選べるようにした企業もあるようだ。
さらに、採用コミュニケーションにおけるアンケート結果も参考になる。
「本選考で企業に対して受けた印象で、その後の選考参加意欲がどう変わったかを聞いたところ、『企業が学生にしっかり向き合ってくれている』と感じられると、学生の選考参加意欲は上がり、感じられないと下がることがわかりました」(橋本氏)
しっかり向き合って話すことはコミュニケーションの基本中の基本だが、学生たちが入社してきたとき、そうした誠実な姿勢が相互理解を深めるのは間違いない。
いずれにしても「最近の若者は」とぼやくのでは、こうした価値観を持った学生たちが入社してくることを肝に命じることが大切であろう。