ブロッコリーを全国で栽培することで通年を通した安定供給を可能にする
北海道勇払郡むかわ町にある株式会社I Loveファームは、国内5カ所でブロッコリーを栽培することで、産地リレーを実現しています。I Loveファームグループで働く正社員は49名。パートやアルバイト、派遣社員は全国で500名を超えるなど、各地での雇用の創出にも大きく寄与しています。
2024年の各拠点の作付面積と出荷時期は以下の通り。
〇I Loveファーム日胆(北海道勇払郡むかわ町)
面積:300ヘクタール 出荷時期:6月から10月
〇I Loveファームおだか(福島県南相馬市)
面積:70ヘクタール 出荷時期:5月から6月、10月から12月
〇I Loveファーム笠岡(岡山県笠岡市)
面積:100ヘクタール 出荷時期:11月から5月
〇I Loveファーム五島(長崎県五島市)
面積:143.9 ヘクタール 出荷時期:11月から5月
〇I Loveファーム宮崎(宮崎県児湯郡川南町)
面積:88 ヘクタール 出荷時期:11月から5月
この他、青森県(10ヘクタール)と鹿児島県(55ヘクタール)の生産者に契約栽培を依頼しており、全国での産地リレーにより、年間を通した安定供給を実現。量販店や全国のCOOPで取り扱われています。
父は、国産ブロッコリーを世の中に広めた第一人者
先代である豊純さんの父・出羽盛久(でわ・もりひさ)さんは1990年代、大学を卒業した若者の多くが都心の企業へ就職することが一般的となりつつある状況で、地方から人が居なくなり、遊休農地や耕作放棄地が増えていく未来に危機感を感じていました。
そこで目を付けたのが、昭和後期以降、国内で多く消費されるようになっていたブロッコリーの栽培でした。当時、ブロッコリーは取扱数量のほとんどを輸入している状態で、国内生産はほとんどありませんでした。
同じく地方の行く末に危機感を抱いていた仲間に構想を話し、仲間がブロッコリー栽培を、青果卸の経験があった盛久さんが販売する形で事業が発足。現在のI Loveファームおかだがある福島県南相馬市で、1998年から耕作放棄地となっていた20ヘクタールの畑を開墾するところから始まりました。それに伴い、株式会社北海道産直センターを同年に国産ブロッコリーの販売会社として設立したと言います。
福島県でのブロッコリー栽培をスタートした同社でしたが盛久さんは、卸売の経験から「輸入ブロッコリーと勝負するには通年を通した安定供給できる基盤が必要」と考え、産地リレーできる生産地を検討しました。その条件として、南から北上して来る台風による生産リスクの観点から、台風が右に曲がる時と左に曲がる時で片方は影響の出ない地域。輸送にはまとまった物量が必要といった物流の観点から、最低でも60ヘクタールの遊休農地や耕作放棄地がある地域で探したと言います。
盛久さんの出身であった北海道で2001年にI Loveファーム日胆を立ち上げたのを皮切りに、2002年にI Loveファーム五島、2005年にI Loveファーム笠岡、2009年にI Loveファーム宮崎を設立しました。
その後、徐々に生産規模を拡大していき、一時は計1000ヘクタールを超える栽培面積を有していたと言います。そこから年を追うごとに栽培技術が確立されていき、栽培の精度と収量が向上したことで、現在の約700ヘクタールに落ち着きました。
2021年には盛久さんからバトンを継いだ豊純さんが代表取締役に就任し、現在に至ります。
国内5カ所で700ヘクタールを超える生産基盤の農業経営
他に例を見ない生産規模を誇る同社のブロッコリー栽培。どのように生産現場を回しているのかあまりイメージがつかないかと思います。そこで、これまでI Loveファームが手掛けてきた農業経営について伺いました。
チームでの収穫で日量13万株から14株を収穫、選別
まず始めに収穫から選別までの形態を伺いました。
「地域によって1枚当たりの畑のサイズが変わるので、収穫の方法が変わってきますが、I Loveファーム日胆では、11人から12人が1チームとなり同時に収穫、コンテナへの箱詰め、運搬を行っています。その日ごとの必要数や従業員数により多少の動きはありますが、最大8チームで収穫作業が可能で、日量13万株から14万株を収穫しています」(豊純さん)
取材当日は、1枚10ヘクタールの畑で同時に7チームが収穫作業を行っていました。I Loveファーム日胆では最大1枚20ヘクタールの圃(ほう)場もあると言います。
収穫されたブロッコリーは畑にある集荷地点へ運ばれ、大型トラックに載せられます。その後、まとめて選果場へ運ばれ、収穫された日量13万株から14万株は全て、収穫した日に予冷を掛け、翌日厳しい基準で選別し発砲氷詰めの形にされます。
流動的に人材を動かしてきた歴史。現在は
元々は、リーダー役の正社員がブロッコリーの繫忙期に合わせて各拠点へ飛び、宿舎で共同生活をしながら作業に当たってきました。「当時は出荷時期に合わせて流動的に人を動かしており、私も繫忙期に合わせて5カ所の産地を周りながら現地の社員やパート、アルバイトと一緒に働いていました。現在は各産地で社員が育ち、栽培が自走できているので、人を動かす場面はかなり限られてきています」(豊純さん)
近年は繁忙期に合わせて特定技能を持つ人材を派遣する会社が存在するため、そうしたサービスを利用しながら繁忙期を乗り切る場面もあると言います。
栽培拠点ごとの採用は
「私たちは栽培のプロですので、農産物の生産と採用活動を同時に行うことは難しいと考えています。そのため、人材雇用については北海道産直センターに業務委託という形で協力いただき、採用管理をしていただいています。各産地ごとにパートやアルバイトの最適な募集方法は異なってくるので、拠点間で情報共有をしながら行っています」(豊純さん)
当初、青果卸として設立された北海道産直センターですが、ブロッコリーの販売は現在、北海道産直センターの親会社である株式会社ファーマインドと協力して行っています。それに伴い、北海道産直センターでは、I Loveファームグループの人材採用や各書類の管理を行っていると言います。
パートやアルバイトなどの採用については、地域によって最適解が異なるため、各産地ごとにインターネットでの募集やハローワーク、チラシなどでの周知を使い分けていると言います。実際、I Loveファーム笠岡では岡山県倉敷市や広島県福山市と人口が多い市町村が近いことからインターネットからの応募が多いが、I Loveファーム日胆ではインターネットからの募集はほとんど集まらず、チラシや口コミといった応募が多いそうです。
これからの展望
最後に、これからの展望について伺いました。
「これまで、私どもが凄いことをしてきたのではなく、地域や社会の皆様や従業員の皆に支えられて現在の姿を維持させてきました。今後においては、気候変動や温暖化など変化が多い今だからこそ、食に関わる企業やこれまで食とは関りのなかった日本の技術、会社と共に、日本の食を守るため、一緒にリスクを取りながら地域や社会に貢献できることを行っていきたいと考えています」(豊純さん)
「遊休農地や耕作放棄地の解消」「トレーサビリティの取れる農業の実現」「農業の地位の向上」といった3つの思いを持ち、地域や社会への貢献を考えているI Loveファーム。だからこそ、世の中で信頼され、国内5カ所で700ヘクタールを超える栽培面積を任せて貰えるのだと感じた取材でした。