シモダファーム、これまでの「循環」
会の前半は、シモダファームの栽培担当である環境部の木村達徳さんと羽鳥真亜子さんから、「越後バナーナ」の5年間の栽培に関する報告がありました。そして、霜田真紀子副社長から、「越後バナーナの”これまで”と”これから”」というテーマで、これまでの取り組みと今後の展望についてのお話がありました。
「越後バナーナ」の取り組み
「循環」をテーマに事業を行ってきたシモダ産業は、「雪国新潟で南国の甘いバナナを栽培したい」という代表の思いから、自社農園「シモダファーム」を立ち上げ、2019年8月にバナナ栽培事業をスタートしました。
シモダ産業は、2017年焼却施設を設置し運転を開始しました。焼却施設は常に外壁を冷やし続けなくてはならず、毎分200ℓの熱湯が発生します。その「熱」を何かに循環利用できないかと考え、着目したのが、温室ハウスによる南国フルーツ「バナナ」の栽培です。
この排熱をハウスに供給することでハウス内の温度を一定以上に保ち、バナナの生育に適した環境を作り出すことに成功しました。ハウスの加温には、この排熱のみを使用しています。(※)
通常であればハウスの熱源をボイラーや加温機によって全て重油で賄う為、著しい量の重油が必要となりますが、排熱を再利用する熱交換器を使用したことで、重油使用量(年間)は約188,323ℓの削減、電力消費量(年間)は約4,801kWhの削減、CO2排出量(年間)は約505.01t の削減効果を生み出します。 熱エネルギーを循環させるサーマルリサイクルを取り入れることで、雪国でも温暖な気候を好むバナナの栽培に成功した、 国内初で唯一のプロジェクトです。
※外気が過去気象データを元にした予測値以上に下回った場合は重油を使用。
事業構想発表・賞味会の前後には、「越後バナーナ」のハウスの見学も行われ、参加者は普段見ることのできない成長途中のバナナや管理が大変な大きなバナナの葉、そして、ハウスを熱している配管などを見学しました。
生産する「越後バナーナ」は、雪国「越後」で栽培していること、普段食べ慣れているバナナとは違う品種、食味であることを伝えたいという思いで名付けられました。品種は 「グロスミッチェル」。タイでは“黄金の香り”と形容され、 華やかな香りと濃厚な甘みに特徴があり、熟成度合いによっては皮まで食べられます。1本1,000円以上で、現在は県内を中心に販売されています。
昭和40年代からサーキュラーエコノミーを実現
排熱利用による農業を通じてさまざまな「循環」を作り出す姿。霜田真紀子副社長は、この「循環」のきっかけは、シモダファームの母体であるシモダ産業が創業した75年前に遡ると説明しました。霜田副社長の祖父が1949年、紙やすり工場の製造過程から出る紙やすりの切れ端を集め、近くの鋳物工場に販売。この「紙やすりの再資源化」が事業のスタートでした。その「もったいない」という気持ちが現在のシモダ産業の「循環」の始まりでした。
その後、シモダ産業は紙やすりを販売していた鋳物工場から相談を受け、1972年から鋳物を作るための特殊な砂の製造・再資源化の事業を始めます。仕組みとしてはまず鋳造砂を製造。それを熱して固め、精密鋳造部品の砂型を製造します。そして、その砂型は鋳造メーカーなどに納めます。メーカーで使い終わった砂型はまたシモダ産業で集めて焙焼・研磨をし、再び再生砂としてよみがえらせます。それを、またスタート地点の特殊な砂の原料にする、という「砂の循環」を行っています。このように、シモダ産業は昭和40年代から、今でいうサーキュラーエコノミーを実現し、循環を理念に事業展開をしてきました。
その後、2017年に焼却施設を立ち上げ、2019年には「シモダファーム」を設立し、排熱利用による環境に優しい農園を実現しました。
シモダファーム、これからの「循環」
5周年を迎えた「シモダファーム」のこれからについて。霜田真紀子副社長は、「環境の循環はもちろん、地域との循環が、ファーム設立当初から実現したいことでした」と言います。
シモダファームは、そのような越後バナーナを通じた持続可能な地域づくりの一環として、地域内外の人々が集うことができる「シモダファームエリア」の創出を、今回発表しました。
越後バナーナの香り、甘さを生かし、サスティナビリティを表現したお菓子の開発と商品化。販売できる店舗開発。その場でしか食べることができない商品の提供。そして、子供から大人まで楽しめるワークショップや展示スペースの設置などの他、ファームエリアには、柏崎市の地域産品等を置くことで、地域とのつながりを深め、魅力を広く発信できるようにしたいと、今後の構想を語りました。また、これまでも実施してきた総合学習の内容を深め、地元大学との共同研究により越後バナーナの生産量や付加価値を高めていくことも視野に入れていると話します。
また今回、新ブランドスイーツロゴイメージを制作したことも発表。排熱を活用し雪国新潟で誕生した越後バナーナや今後生んでいく循環をイメージし、また、排熱ファームの温かさの色合いをオレンジで表現しています。
霜田副社長は、「開発したお菓子を、地域の人の手土産や、旅行に来られた方の旅の思い出に選んでいただくことで、柏崎を発信することができたら」と、思いを語りました。
カクテル・スイーツで表現される「循環」
会の後半では賞味会として、武田 海 氏(BAR FARO)、佐川 優氏、平山 拓徳 氏(CHOCOLATERIE NOIROUGE)、鈴木 鉄平 氏(KIKI NATURAL ICECREAM)の4名のバーテンダー・パティシエが、「越後バナーナ」を使用したカクテルやスイーツを参加者に振る舞いました。
佐川氏は、普段から環境への配慮・フードロス・無農薬など、意味のある何かを伝える食材を使い、スイーツを通して伝えるということに力を入れており、シモダ産業の事業に共感し、今回の賞味会に参加。佐川氏が提供したスイーツでは、バナナの葉っぱや皮、日本ではほとんど使われることが無い花を使用。また、柏崎で採れた黒イチジクや、デザートには珍しい柏崎特産のカリフラワーが使用されていました。
シモダファームの思いを表現し、捨てられるものを素材として無駄なく取り入れ、葉っぱや皮も使用するなど、無農薬だからこそできる一皿に仕上げられていました。
また、「KIKI NATURAL ICECREAM」の鈴木鉄平氏も、「果物としてというより、植物としてのバナナを味わっていただきたい」との思いから、通常であれば間引いて廃棄されてしまう子株や、花・葉っぱなど素材を余すことなく使用したアイスクリームを提供。
普段食べることのできないバナナの花や葉っぱも、さまざまな食感を含めて味わえるだけでなく、シモダファームの「循環」を表現したカクテルやスイーツ。参加者も説明を聞きながら興味深く味わい、楽しんでいる様子でした。
最近、言葉として知られるようになってきた「サーキュラーエコノミー」を、昭和40年代から実現していたシモダ産業。そして、シモダファーム設立後は「サーマルリサイクル」によるバナナの栽培にも成功し、今度は「地域との循環」も目指す。5周年を迎えたシモダファームの今後の展望に期待を抱きながら、「循環」を表現したスイーツまでいただける、有意義な事業報告会・賞味会でした。
編集協力:内藤千裕