広島県呉市では12月7日、小中学生を対象にした練習船『広島丸』の体験航海イベントが実施された。主催したのは、呉海事振興会および広島県内航海運組合呉支部。参加した子どもたちは、呉湾クルーズのひとときを思い思いに楽しんだ。
船に乗る前に……内航海運ってなに??
本イベントは、大和ミュージアム(呉市海事歴史科学館)南側岸壁にある大和波止場に停泊中の広島商船高等専門学校の練習船『広島丸』にて行われた。
イベントでは冒頭、広島県内航海運組合による海洋教室が開催された。テーマは『内航海運ってなに??』。日本の物流を担う内航海運について、呉支部に所属する青年部女性メンバーが分かりやすく解説した。
「内航海運」とは、日本の港から港へ船で物を運ぶことで、内航海運を行う船は「内航船」と呼ぶ。ちなみに日本の港と外国の港の間で物を運ぶことは「外航海運」だそう。
「内航船は、日本全国にどのくらいの数がある?」(正解は約5,200隻、内航海運事業者の数は約3,000社)、「日本国内で運んでいる物のうち、船で運んでいる割合は?」(正解は約40%、トラックは55.4%)、「499トンの内航船1隻で運べる物の量は、10トンのトラックの何台分?」(正解は約160台)、といった小中学校では習わないクイズの出題に、頭を悩ませながら回答していく子どもたち。トラック輸送よりも環境に優しく、鉄道よりもたくさんの物を運べ、地震や大雨などの災害にも強い輸送手段になっていることを学んだ。
このあと、内航船に乗っている船員には船長、航海士、機関長、機関士、司厨員がいて、誰1人が欠けても船は動かないと説明。さらには船員の1日の生活サイクルにも触れて「休憩時間は、食事、洗濯、入浴、睡眠などにあてます。なかには魚釣りをしたり、YouTubeを見る船員さんもいるみたいですよ?」と、子どもたちに親近感をもたせる。
最後に、船員になるためには専門学校で勉強して経験も積み、船員の資格をとることが近道であると説明。全国には広島商船のような高等専門学校、そして船員を養成するための海上技術短期大学校という教育機関もあると紹介した。「内航海運は、私たちの生活を支える大切な役割を担っています。ぜひ、今日は海や船のお仕事についてたくさん学んでくださいね」と担当者。
広島商船で学ぶ生徒たちの夢は?
そして、いざ乗船。体験航海は2回に分けて行われ、各回に小中学生80名ほどが乗船した。船が穏やかな湾に乗り出すと、船内は子どもたちの歓声で満たされる。
船内では、広島商船の生徒が子どもたちの安全に配慮。またブリッジ、デッキ、機関室、サロンなどの各部屋では、子どもたちに船の設備を丁寧に紹介した。
広島商船の生徒に話を聞いた。ある男子生徒は、広島商船を選んだ理由について「呉市出身なので小さい頃から船をよく見ていました。将来は船を使った仕事がしたいと思い、この高校を選びました」、また女子生徒は「卒業したら大きな貨物を運ぶ仕事に携わりたいです」と夢を語る。なお内航船と外航船、どちらも人気のようだ。
彼ら彼女らは商船学科の3年生。同校は全国に5校ある商船高等専門学校のひとつで、商船学科の修業年限は5年6か月と定められている。普段はどんなことを勉強しているか尋ねたところ「いま学校では、数学などの一般教科と、船について専門的なことを学ぶ教科が半々という割合です。でも4~5年生に上がると、専門教科の割合が増えます」とのこと。
学校では3年生から、航海科、機関科のコースに分かれる。航海科に進んだ生徒は「ゆくゆくは船長になりたいです」「船で国内の様々な地域に行けることに魅力を感じます」と目を輝かせる。
一方で、機関科に進んだ生徒は「エンジンが好きなんです。趣味はクルマですが、やっぱりエンジンが気になっちゃいます」「機械が好きです。機関科は、就職率も高いので」「新しい燃料の開発に興味があります。これからの時代、重油を燃料として炭素を出しながら船舶を動かすことが難しくなります。そこで、アンモニア由来の新燃料の開発に携わりたいです」と先の先をしっかり見据える。
思い思いの時間を満喫
イベントは、子どもたちにはもちろん、同伴する保護者にとっても貴重な時間となったようだ。学生たちに広島商船の校内の雰囲気などを聞き、ひいては子どもの進路について相談する母親の姿があった。また、ジャパンマリンユナイテッド(JMU)が呉事業所で建造していた巨大なコンテナ船MAERSK EL PALOMARを間近で見れたことに喜ぶ親子もいた。
日本製鉄の瀬戸内製鉄所呉地区の跡地をめぐっては、その活用方法について、いくつかの案が出ている。地域住民の関心も集める、そんなスポットの現状について自分の目で確かめる機会にもなった。
船首まで行って、記念写真を撮る親子。サロンに飾られていたクリスマスツリーの前で休憩する親子。参加者は、自由に航海を楽しんだ。
そして1時間の乗船時間が過ぎると、広島丸は大和波止場に無事帰港。参加者たちは束の間の乗船を満喫し、船を後にした。