第83期順位戦A級(主催:朝日新聞社・毎日新聞社)は6回戦が進行中。12月10日(火)には永瀬拓矢九段―中村太地八段の一戦が東京・将棋会館で行われました。対局の結果、角換わり棒銀を用いてリードを奪った中村八段が107手で勝利。難敵を下して今期順位戦成績を3勝3敗としています。
こだわりの角換わり棒銀
ここまで4勝1敗の永瀬九段と2勝3敗の中村八段。先手となった中村八段は序盤早々に棒銀を繰り出す積極策を披露しました。これに意表を突かれたか、後手の永瀬九段は16手目にして30分以上の長考に沈みます。やがて放った空中の角は珍しい受けでややひねった印象。昨今の角換わりには珍しく序盤から慎重な読み合いが始まりました。
角交換が行われて一段落かと思われた盤上は、永瀬九段が桂跳ねの速攻を用意したことで激しい攻防戦に突入します。夕食休憩後、永瀬九段が先手陣に香を成り込めば中村八段は後手陣に馬を作って応戦。形勢は難解で、居玉のままの中村玉がどれほど安全かが勝敗を分けるポイントとなりました。永瀬九段は小駒の圧力で敵玉への寄せをにらみます。
受けて築いた勝勢
部分的に受けがないだけに先手が攻め合うのは自然な流れですが、中村八段はこのあとに好手順を用意していました。馬を切って敵の成香を引き寄せたのち、一転して自陣中央に飛車を回ったのが自玉への嫌味を一掃する受け手順。日付が変わるころに指されたこの緩急自在の指し回しが功を奏して形勢の針は一気に中村八段へと触れました。
終局時刻は翌11日0時28分、最後は自玉の受けなしを認めた永瀬九段が投了。中盤に遊び駒となった先手の棒銀が、最後は後手玉の死命を制する要の攻め駒として働く終局図が印象的な一局となりました。これで勝った中村八段は3勝3敗の五分の星取りに。敗れた永瀬九段は4勝2敗となって一歩足踏みです。
水留啓(将棋情報局)