ある程度仕事にも慣れて周囲を観察してみると、自分の特技や資格を活かしてイキイキと仕事をしている人と、なんか楽しくなさそうだし、澱んでるな……という人がいることに気づくと思います。

こうした違いは、労働環境や待遇、福利厚生では埋められない「キャリア形成」という観点が、あなたの中で重要になり始めているからではないでしょうか。

実際、社会人になってからの学び直しやリスクキングの需要は年々高まっていて、支援する動きも活発化しています。今回は、令和6年10月から更に拡充された教育訓練給付制度について、現在働かれている皆さまへ向けて詳しく解説します。

教育訓練給付制度とは

教育訓練給付制度は、雇用保険法に基づき昔からある制度です。「働いていく中で、仕事に必要な教育を受けたのであればその費用の一部を補助する」という主旨のもので、働く人の主体的な能力開発やキャリア形成を支援するものです。

対象となる教育訓練は「仕事に必要なもの」に限られますが、現在約1万6,000講座もあり、レベル等に応じて3種類の給付制度に分かれています。

なかにはオンラインで受講可能なもの、夜間、土日開催の講座等もあり、「働きながら学ぶ」という選択が可能な講座もあります。

「教育訓練講座検索システム」から今の自分に必要なもの、興味のあるものを検索してみてください。ここでは支給の目的と具体的な給付額、そして手続きの違いについて詳しく説明していきます。

講座によって対象となる給付金の種類が違う

1.一般教育訓練

こちらは働く人の主体的な能力開発を支援し、雇用の安定と再就職の促進を目的とした給付制度です。教育訓練対象講座も例えば建設機械の運転免許や簿記検定、WEBクリエイターなど非常に幅広い分野にわたります。

支給対象者は、教育訓練を開始した日(以下、受講開始日)に雇用保険の被保険者期間が3年以上(初回の場合1年以上)の方、または離職していても離職した日の翌日から受講開始日が1年内で在職時の雇用保険被保険者期間が3年以上(初回の場合1年以上)の方が対象です。

支給金額は教育訓練実施者に対して支払った経費の20%(上限10万円)になります。この経費には入学料及び受講料(最大1年分)が含まれます。

例えば、簿記講座を5万円で受講した場合、
5万×20%=1万円
が支給される仕組みです。

2.特定一般教育訓練

こちらは早期の再就職とキャリア形成支援を目的とした給付制度です。対象講座は例えば介護職員初任者研修や情報通信技術関係資格など、即戦力として必要な専門スキルや短期間でキャリア形成できるものが中心になります。

支給対象者は、一般教育訓練を受けられる方と同様です。ただし、一般教育訓練給付と違う点で、教育訓練を開始する前に「訓練前キャリアコンサルティング」を受けることが必須条件となります。

このコンサルティングでは、自身の職務経歴や目標が整理され、今後の能力開発・向上にむけどのような講座を受講するのが適切なのかのアドバイスを受けます。

その内容を反映したジョブカードが交付され、受給資格確認書類とともに本人の住所地のハローワークへ受講開始日の2週間前までに提出する必要があります。

支給金額は教育訓練実施者に対して支払った経費の最大50%(令和6年9月までに受講開始した場合40%)で、この50%はさらに40%と10%に分かれています。

まず特定一般教育訓練を終了した場合に教育訓練経費の40%(上限20万円)が支給されます。

さらに、令和6年10月以降に受講を開始した講座で資格を取得し、継続して雇用されているか、訓練終了日の翌日から1年以内に雇用保険被保険者として雇用された場合、同経費の10%(上限5万円)が上乗せされます。

例えば、情報通信技術関係資格を30万円で受講した場合、
訓練終了後に
30万円×40%=12万円

さらに合格した場合で引き続き雇用されている又は訓練終了日の翌日から1年以内に就職している場合
30万円×10%=3万円

が支給される仕組みです。

3.専門実践教育訓練

こちらは中長期的なキャリア形成を支援し、雇用の安定と再就職の促進を目的とした給付制度です。

対象講座も看護師や調理師など高度な専門知識を習得し就職、転職、キャリアアップに直結する講座が中心です。

支給対象者は、一般教育訓練と同じ条件ですが、初回の教育訓練の受講の場合は支給要件の被保険者期間が2年になります。

また、特定一般教育訓練と同様に、受講前に「訓練前キャリアコンサルティング」を受講し、ジョブカードを作成した上で、受講開始日の2週間前までに必要書類を住所地のハローワークへ提出する必要があります。

支給金額は教育訓練実施者に対して支払った経費の最大80%(令和6年9月までに受講開始した場合70%)で、この80%は3段階に分かれています。

まず専門実践教育訓練の受講中及び終了時に教育訓練経費の50%(上限年間40万円)が支給されます。

さらに、その資格を取得した場合で継続して雇用されている又は訓練終了日の翌日から1年以内に雇用保険被保険者として雇用された場合、同経費の20%(上限年間16万円)が支給されます。

そしてさらに令和6年10月以降に受講を開始した講座について資格取得・就職してその後の賃金が受講開始前の賃金と比較して5%以上上昇した場合、同経費の10%(上限年間8万円)を追加で支給されるという仕組みになっています。

支給申請の時期については他の給付制度と異なり、受講開始日から6ケ月ごとの期間で行います。

これは対象講座の受講期間自体が長期になるため、その間の費用を補助し生活を安定させるためです。

例えば調理師資格取得の為
教育訓練期間2年 入学金10万円 半期ごとの授業料40万円の場合
経費は最終的に10万円+40万円×4回=170万円
になります。 この経費を6ケ月ごとに申請していきます。

初回申請
(10万円+40万円)×50%=25万円
2回目
40万円×50%=20万円ですが、年間上限が40万円の為
40万円−(初回25万円)=15万円
3回目、4回目
40万円×50%=20万円

さらに合格した場合で引き続き雇用されているまたは受講終了日の翌日から1年以内に就職している場合
170万円×20%=34万円ですが、年間上限16万円の為
16万円×2年=32万円

その上さらに賃金が5%以上上昇した場合
170万円×10%=17万円ですが、年間上限8万円の為
8万円×2年=16万円
が支給されます。

そして、専門実践教育訓練のみの制度として、教育訓練支援金制度があります。

これは専門実践教育訓練給付の受給資格のある方が受講開始時に45歳未満であること、失業状態であること等一定の条件を満たしたときに、その受講期間をさらに支援するため支給されるものです。

ここについては資格や、受講日程等で対象になるかどうかが変わるので、目指すものが決まった際に確認するとよいでしょう。

給付金制度を利用する際の注意点

なお、いずれの教育訓練給付も、支給対象となる教育訓練経費は受講者が教育訓練実施者に支払った入学料及び受講料の合計になります。

必ずしも必要でない補助教材費やPC等機材の費用等は含まれません。また、各種割引等ある場合は割引後の金額が教育訓練経費となります。どの費用が経費になるのか整理するために必ず領収書を保管しておきましょう。

厚労省の職場における学び・学び直し促進ガイドラインでは、この変化の時代に、労働者の自律的・主体的かつ継続的な学び・学び直しが重要であり、そこには労使の協働が必要と明言されています。

そのため、教育訓練給付制度以外にも会社のリスキリング施策に対しての補助金、助成金も多く、あらゆる角度から国として後押ししている重要課題です。

近年、AIやロボットが仕事を代替する場面が増えていて、多くの方が現状のスキルだけでは将来に対応できないと気づいているのではないでしょうか。

これを機に、自分の職歴を棚卸しし、新たな一歩を踏み出してはいかがでしょう。出る杭は打たれず、その英断を後押ししてくれる時代になったのです。

著者プロフィール:鈴木麻耶(すずき・まや)

特定社会保険労務士、採用定着士。大槻経営労務管理事務所所属。
実家の寺院を継ぐことになり、子の小学校入学を機に夫とともにUターン。現在フルの在宅勤務。事業規模、業種ともさまざまなクライアントを担当し、「離れていてもできる! 伝わる! やりきれる!」を実践中。