「だいやめ」や「CHILL GREEN」といった銘柄で若者の焼酎人気を牽引している「濵田酒造」。ロングセラーブランドの本格麦焼酎「隠し蔵」が今年で30周年を迎えるにあたり、2日間にわたるメディアツアーが開催された。同社の焼酎造りのこだわりを前後編で紹介していく。

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    鹿児島県「濵田酒造」の焼酎造りのこだわりを紹介

伝統的な焼酎づくりを行う「伝兵衛蔵」

濵田酒造の3つの蔵のうち、創業の地にある「伝兵衛蔵」では、併設されたミュージアムで創業当時からの焼酎造りの道具を展示。伝統的な焼酎造りを行っている。

「伝兵衛蔵」で蔵人の手作業によって造られているのは、「伝」「宇吉」「兼重」などといった本格芋焼酎。これらはそれぞれ黄麹・黒麹・白麹という3種類の麹を使っており、麹の菌が混ざらないように麹室(こうじむろ)も3つに分けられている。

一回の仕込みに使うさつまいもは1トン。米麹の米は200キロで、そこから一升瓶換算で約500本の焼酎が造られる。一升瓶1本の芋焼酎に2キロほどのさつまいもが使われている計算だ。

原料のさつまいもの8割ほどはでんぷん質が多く焼酎造りに最適な「黄金千貫(コガネセンガン)」という品種。焼酎の味わいや風味は主原料の品種でも変わり、濵田酒造には紫芋や紅芋といった品種を使用した焼酎もある。

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蒸留の工程で木桶蒸留器を採用していることも、この蔵の大きな特徴のひとつ。鹿児島県には110の焼酎蔵があるが、木桶蒸留器を採用するのは20社ほど。木桶蒸留器をつくる職人は現在、日本で一人しかいないという。木桶蒸留器は耐用年数が短く、5年に1回、樽が緩んだ蒸留器を交換する必要があるが、蒸留の過程で杉の木のいい香りをお酒につけられるのだそうだ。

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    木桶蒸留器の奥にあるのは主に麦焼酎や米焼酎を造る減圧蒸留機。低温で沸騰する減圧蒸留機は原料の特性が出やすく、芋焼酎も種類によっては減圧蒸留機で蒸留・ブレンドして商品化している

アルコールは80度前後で沸騰し、蒸留初期のアルコール度数は70%ほどだが、蒸留が進むにつれてもろみ中の水分が上がり、3時間ほどかけて蒸留すると36〜37%程度の原酒ができる。

「伝兵衛蔵」の焼酎は多くが素焼き甕で貯蔵され、最短でも約1年寝かせて瓶詰めとなる。15年以上樽貯蔵したとうもろこし原料の焼酎「野風」や、蔵人の7つのこだわりが詰まった高級芋焼酎「なゝこ」(1万2,100円)も、この蔵で造られる人気商品だ。

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また「伝兵衛蔵」では毎年秋に「いちき串木野新酒まつり」を開催。今年の「新酒まつり」には2日間開催で4,000名が来場したという。新酒でもおいしく飲める蒸留酒は世界でも焼酎くらいとのことで、それだけ焼酎は熟成・貯蔵の前段階で洗練されたお酒と言える。

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金山の坑洞を利用した唯一無二の焼酎蔵

本ツアーの最後に訪れた「薩摩金山蔵」は、かつて薩摩藩の栄華を支えた串木野金山の坑洞を利用した唯一無二の焼酎蔵。これまで採掘された金の産出量で国内第4位の串木野金山は、最盛期の江戸時代には7,000人が働いていたが、1997年に金鉱山としての操業を終え、2005年に濵田酒造が焼酎の仕込み蔵・熟成貯蔵庫として活用を始めた。

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焼酎造りや金山の歴史を伝える施設として一般見学者に公開されており、蔵見学者はトロッコ列車に乗って約700メートル、10分弱かけて坑洞の中に入る。焼酎造りを行う蔵人や道具の運搬、焼酎の出し入れにもトロッコが使われており、1,000リットルの甕壺に貯蔵されているという。

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    貯蔵甕が300メートル奥まで続いている

トロッコで到着したのは2番坑という坑洞。串木野金山は1〜16番坑まで30メートル間隔の深さで掘り進められており、坑洞の総延長距離は約120キロと言われている。最深の16番坑は2番坑から400メートル地下にあり、2番坑より下の坑洞はすでに水没して中には入れないそうだ。

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    金山の歴史を伝えるトロッコなどを見学できる。坑洞内には薩摩開運神社と黄金の観音像という2つのパワースポットも

酒税法ができるまで薩摩の一般家庭で造られていたという焼酎。年間通して19度と安定した気温で太陽の紫外線も届かない「金山蔵」では、"どんぶり仕込み"にこだわり、手作業による焼酎造りを行っている。

現在の焼酎づくりは「一次」と「二次」に仕込みを分けて、「二次仕込み」で主原料を入れるが、どんぶり仕込みは「一次仕込み」の段階で芋や麹、水、酵母といった材料をすべて甕に混ぜ入れる。一般家庭で行われていた昔ながらの方法で、もろみを釜で蒸留し、甕で貯蔵する。

安定した気温の中でないと失敗しやすく、材料がすべてロスになるリスクも高いため、こうした仕込み方法を採用する焼酎メーカーはあまりないそうだ。

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    正面にある丸い窯が100年ほど前の蒸留機を再現した「カブト釜式蒸留器」という蒸留器。タイミング次第では麹菌を混ぜる作業も見学できる

また、「薩摩金山蔵」では100年以上前に発見され、品質管理の難しさからお蔵入りとなっていた麹を「黄金麹」と名付け、焼酎造りに用いている。この「薩摩金山蔵」オリジナルの麹を使って、商品名に蔵名を冠した焼酎は栗のような華やかな香りや甘みが特徴だという。

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蔵の売店ではどんぶり仕込みによる焼酎の原酒が「熟成と共に福来たり」として販売されている。思い思いのメッセージと購入日から1年〜5年の間で飲みたい日にちを書いたラベルをボトルに貼り、「薩摩金山蔵」の貯蔵庫で保存。指定した当日に送料無料で送られてくるこのサービス。記念日のプレゼントなどに人気で、現在約2,000本のボトルを預かっているという。

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食中酒としての懐の深さを感じる「隠し蔵」の味わい

1泊2日の日程で行われた本ツアーの中では濵田酒造の3つの蔵見学のほか、代表ブランド「隠し蔵」のテイスティングも実施された。

一般的な25度の麦焼酎と比べると、樽貯蔵された「隠し蔵」はほのかな色味があり、特徴的なバニラの香りの後、フルーティーな香りを感じられる。一般的な麦焼酎も華やかさとすっきりとしたおいしさを感じる麦焼酎だが、ストレートで飲み比べるとピリピリとした荒い口当たりという印象を受ける。

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「隠し蔵」は樽で熟成させたお酒ならではの重厚感や熟成感があり、かつウイスキーなどではあまり感じることがないフレッシュな香りがより際立っているようだ。加水して度数を落とすと、一般的な麦焼酎との香りの立ち方の違いがさらにわかりやすい。洗練された麦焼酎として、とにかく懐が深そうな食中酒だ。

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長期貯蔵の「特選 隠し蔵」は、35%と度数が高いわりに辛さをあまり感じさせず、熟成による甘みやマイルドさが強い印象を残す。「隠し蔵」のブレンダーは空になったグラスの残り香も大切にしているそうで、「特選」ではその特徴もよく表れているようだ。

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「特選」のために選定された樽で熟成し、木の香りを強めることで通常の「隠し蔵」との差別化を図ったという。また、43%の「別撰 隠し蔵」はアルコール度数43%という高濃度ならではの重厚な味わい。深く長い余韻と幅広い香味が愉しめる。

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いずれも樽感や熟成感にプラスして、本格焼酎らしい麹由来の香味を兼ね備え、麦焼酎のすっきりとフレッシュな魅力がしっかりと表現されていた。

ラムやウイスキー、ブランデーなどの洋酒は割るほどに度数だけでなく味が薄まっていくのが普通だが、焼酎など麹を使った日本のお酒はいくら割っても味が薄まりにくいという魅力もあるそうだ。1: 9の水割りでもしっかりと残る焼酎の味わいは、麹の神秘と言うほかない。

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濵田酒造LINE公式アカウントでは「隠し蔵」の30周年記念のキャンペーンを来年1月31日まで開催中だ。クイズに回答する懸賞では「城山ホテル鹿児島」のペア宿泊券や鹿児島の特産品グルメを抽選でプレゼント。「隠し蔵」を購入したレシートを濵田酒造LINE公式アカウントにアップロードする懸賞では、30周年記念ボトル「BLENDER’S SPECIAL」・「スモークヘッド」・隠し蔵の樽材チップのセットを300名に贈呈する。