「だいやめ」や「CHILL GREEN」といった銘柄で若者の焼酎人気を牽引している「濵田酒造」。ロングセラーブランドの本格麦焼酎「隠し蔵」が今年で30周年を迎えるにあたり、2日間にわたるメディアツアーが開催された。同社の焼酎造りのこだわりを前後編で紹介していく。

ヒット焼酎を生産する革新の焼酎蔵

濵田酒造の設立は1868年(明治元年)。もともと油屋を営んでいた濵田家が、家業のひとつとして行っていた焼酎造りを本業にしたのが始まりで、鹿児島県・いちき串木野市に所在する。

焼酎王国・鹿児島県には110の蔵元があり、いちき串木野市にはうち8つ(6社)の焼酎蔵が密集する。シラス台地の水捌けの良い土で濾過されたまろやかで清冽な水が豊富な上、江戸時代、参勤交代の際の最初の宿場町・港町として人の出入りが多かったことも焼酎造りが同地で盛んな背景にはあるようだ。

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    鹿児島県「濵田酒造」の焼酎造りのこだわりを紹介

そんな串木野の地で濵田酒造は現在、伝統的な焼酎造りを行う「伝兵衛蔵」、その伝統を継承しつつ最新設備を導入した「傳藏院蔵」、串木野の金山跡地を利用した「金山蔵」の3つの蔵で、焼酎造りを行っている。

女性や若年層にも高い人気を誇る本格芋焼酎「だいやめ」、「海童」や本格麦焼酎「隠し蔵」といった同社の代表3銘柄を主に製造しているのが「傳藏院蔵」だ。

中でも1994年に誕生した「隠し蔵」は、シラス台地の清らかな湧水と、たんぱく質の少ない二条大麦で生み出した雑味のない原酒を樽で貯蔵熟成。深いコクとバニラのような芳醇な香りを特徴に多くのファンを獲得し、2022年にはブランド累計出荷本数1億本を突破した。

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    1994年に誕生した本格麦焼酎「隠し蔵」

「傳藏院蔵」では県内の焼酎メーカーでも屈指の規模で最新のオートメーション設備を導入。製造棟の機械は24時間体制の集中制御室ですべて制御され、蔵人による伝統的な手仕込みをデータ化し、高品質の焼酎を安定して生産している。

そもそも焼酎って、どうやって造られるの?

焼酎造りの工程は大きく「製麹」「一次仕込み」「二次仕込み」「蒸留」に分けられる。約2日かけて米や麦といった穀類原料に麹菌を散布して麹をつくり、その麹に酵母・水を加えて1週間ほど発酵させる「一次仕込み」(一次発酵)。

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    一次発酵室のタンク

一次発酵でできた「一次もろみ」に主原料(芋焼酎の場合は芋、麦焼酎の場合は麦)を入れ、約10日間発酵させるのが「二次仕込み」(二次発酵)だ。

この工程でできた「二次もろみ」を蒸留すると、貯蔵やボトリングといった次の工程に進むことになり、麹づくりから蒸留までの約20日の間に焼酎は完成する。麹菌や原料となる穀類/品種の選定、蒸留方法など各工程で差別化の工夫が施されるが、蒸留後は熟成・貯蔵によって個性と付加価値をつけていくことになる。

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「傳藏院蔵」は穀類原料を蒸す工程で蒸気の圧力や量を調整できる機械を使い、「麹づくり」に最適な"外硬内軟"の状態に蒸し上げ、35〜40度程度まで冷却して麹菌を散布。品温35〜40度・湿度90%以上に保たれた装置の中で約2日かけて麹菌を増やしている。

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    麹づくりを行う機械

麦麹の実物は表面にうっすらとカビのようなものが覆い、試食すると硬い歯応えと酸味が感じられた。酸味の正体は焼酎づくりで最も重要な成分である麹菌が生み出すクエン酸。もろみのpHが下がり、一種の酢漬けのようにすることで鹿児島の温暖な気候でも発酵がうまくいくのだそうだ。

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一次発酵室では、この麹に水と酵母を加えて6日間ほど発酵。「一次もろみ」をつくり、さらに蒸し上げて細かく砕いた主原料をそこに加えて二次発酵タンクへと移す。タンクの中ででんぷんの糖化とアルコール発酵が同時に進み、10〜15日ほどで「二次もろみ」が出来上がれば蒸留の工程だ。

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    「一次もろみ」をつくる一次発酵室

「傳藏院蔵」が採用しているのは大気圧下で蒸留する常圧蒸留と、気圧を下げて蒸留する減圧蒸留が切り替えられる併用タイプの蒸留機。

常圧蒸留は取れる原酒の香りはふくよかな香りがするため主に芋焼酎で、減圧蒸留は原酒の香りがキレのあるスッキリとした香りになるので主に麦焼酎で主に使用される。白麹や黒麹が生成するクエン酸は、蒸留工程ですべて除去されるため焼酎の味わいに影響することはない。

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蒸留初期に出てくる焼酎はアルコール70%ほど。蒸留が進むにつれて少しずつアルコール度数は下がっていき、蒸留のどの部分を回収するかで焼酎の香味は大きく変化します。

「隠し蔵」の樽貯蔵庫とブレンド室を特別に見学

ボトリングにおいて「傳藏院蔵」は複数の生産ラインを所有し、高速瓶ラインでは「だいやめ」や「隠し蔵」といった主力製品を約3,200本/時間のスピードで生産している。

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    この日は「だいやめ」や「CHILL GREEN」、紙パックの「隠し蔵」が生産されていた

ウイスキーやブランデーと違い、焼酎は熟成させなくても十分おいしく飲めるお酒だが、あえて樽熟成させて個性づけをしていることが「隠し蔵」最大の特徴だ。

本ツアーでは「傳藏院蔵」の敷地内にある一般に公開されていない「隠し蔵」の原酒を貯蔵する樽庫と、香味調製を行う原酒のブレンド室を特別に見学することができた。

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隠し蔵の原酒が入った450リットルの樽が2,000樽ほど貯蔵されている。樽は新樽と古樽の2種類。新樽は名前の通り、一度も使用されていないまっさらな樽、古樽は、主にブランデー・コニャック等で過去に使われてきた樽だという。

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熟成樽には「チャー」(チャーリング)という樽の内面を焦がす工夫が施されている。原酒に生木臭がつくのを防ぐ効果などがあり、焼き具合はヘビー・ミディアム・ライトの3種類。10〜20年に一回焼き直され、パンのトーストのように表面をうっすらと焦がす「トースティング」という焼き方も含めると4種類があるようだ。

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    焼き加減はヘビーとトースティングでこれほど違う

樽の材質や焼き方、貯蔵環境といった要素が絡み合い、色や香りの出方や熟成の進み方は大きく変わる。熟成にはある程度過酷な環境に置くことも大切らしく、樽貯蔵庫内の温度管理は基本成り行き。樽貯蔵庫は紫外線が入らない6フロアの構造で、天井に近いほど気温が高く熟成も早い。

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    アルコールとバニラの香りが漂う樽貯蔵庫内。歩いているだけで酔っぱらいそう

「隠し蔵」ではこうしてできた様々な個性と性質を持つ原酒をブレンド。ブレンダーが毎月、1週間ほどかけて使用する原酒や比率などを決めている。原酒の香味や口当たりなどを実際に口に含んで確認し、将来の原酒の在庫も管理しながらのブレンド作業は非常に複雑だ。焼酎は色の規定が酒税法で着色度0.080以下(ウイスキーの10分の1以下)と決められており、原酒を焼酎として出荷するには、この色規制もクリアする必要がある。

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    樽一本一本で性質が違う原酒は3ロットで60種類ほどの数に。これを1週間ほどかけてブレンドしていく

自社製品の品質を維持・管理・創造していくという業務上、同社のブレンダーは嗅覚・味覚を常日頃から研ぎ澄ませておく必要があり、普段の食生活や体調管理にも高い意識が求められる。濵田酒造ではブレンダー育成のために独自の社内制度を設けており、ベテランの唎酒師・ブレンダーも年1回の認定試験を受ける必要があるそうだ。

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「隠し蔵」らしい香味を生み出す原酒のブレンドがすんなりと決まることは少ないそうで、勤続25年のベテランブレンダーでも「隠し蔵」品質を維持できたときは安堵感と達成感を感じるという。

後編ではこうして生み出された「隠し蔵」の味わいなどを紹介していく。