1970年代から80年代にかけて、関西弁を武器にした軽妙な語り口と下ネタ満載の内容で一世を風靡した伝説の深夜ラジオ番組『笑福亭鶴光のオールナイトニッポン』。ファンからの熱い要望に応えて、2017年にはJ:COMテレビの番組『笑福亭鶴光のオールナイトニッポンTV』として復活を果たし、好評を博している。
その50年におよぶ歴史を記念し、12月14日(土)には自身も「オールナイトニッポン」パーソナリティを務めたデーモン閣下をゲストに招き、「オールナイトニッポン」の思い出を振り返る放送を予定している。
その番組放送に先立ち、笑福亭鶴光師匠に独占インタビューを敢行。番組の思い出や裏話、現在のメディアに対する想いなどを存分に語ってもらった。
グレーゾーンギリギリを攻めた3カ月で若者の心を掴む
──鶴光師匠が1974年にニッポン放送のラジオ番組『笑福亭鶴光のオールナイトニッポン』のパーソナリティを務めることになってから、今年で50年になります。そもそも番組を担当するきっかけは何だったのでしょうか。
笑福亭鶴光師匠(以下、鶴光):当時『オールナイトニッポン』の土曜日は、あのねのねがパーソナリティを務めとった。それがコンサートツアーで3カ月くらい休むというので、ピンチヒッターとして担当することになったのがきっかけ。だから最初から、あのねのねが戻ってくるまでの3カ月でおしまいという話やった。たとえ頑張って(リスナーから)ハガキがたくさんくるようになっても、知名度が上がっても、絶対それ以上はないからと。
──それが、結果的に11年以上にわたって続くことになったわけですよね。
鶴光:だいたい3カ月やそこらで人気なんて出えへんのよ。それやったら、短い間だけど『オールナイトニッポン』の歴史の中で「こんな無茶するヤツがおったんか、怖いわぁ」と思ってもらおうと。そこで居直って、グレーゾーンギリギリでガンガンやった。そのおかげで評判がウワーッと広まるわ、ハガキも増えるわで、ものすごいことになって。ハガキなんて毎日1万通よ。全部は読めんから1,000通くらいだけ残して、それをプロデューサーやディレクターが仕分けて、その中から選んでいたけどね。
それで、あのねのねが戻ってきたときに「こんだけ反響があるのなら」と、別の曜日に移ってパーソナリティを続けさせてもらえることになったわけ。あのねのねが番組を辞めた後は、その後任として再び土曜日を担当することになって、最終的に1985年まで11年9カ月続くことになったんや。
──居直ったことが、逆によかったと。
鶴光:そう。「マジメにやって認めてもらおう。“いい子”でおろう」じゃあかん。“悪い子”じゃないと。そう考えて思い切りやった。その代わり一か八かやで。二度と使ってくれへんかもしれん。でも、それがよかったんやな。今、ラジオやっている人もそれくらいの気持ちでやってもいいと思います。
──鶴光師匠は『オールナイトニッポン』以外にも『MBSヤングタウン』や『鶴光の噂のゴールデンアワー』など、さまざまな番組でパーソナリティを務められてきましたよね。番組によって意識していることは異なるのでしょうか?
鶴光:違わないですよ。『ヤングタウン』や『オールナイトニッポン』を聴いていたリスナーが、大人になって『噂のゴールデンアワー』や『噂のゴールデンリクエスト』を聴いてくれている。だからずっと同じ。僕のファンも永久に変わらずよ。最後に全員いなくなるやろうけど(笑)。
ただ、関西の番組だった『ヤングタウン』とは違って『オールナイトニッポン』は全国放送だったからね。北海道から沖縄まで、どの地方に行ってもみんな「聞いてるよ」と言ってくれた。その意味でも大きな転機になった番組だったと思います。
──新しいファンを開拓しようとは思いませんか?
鶴光:そう思ったらあかんねん。若い子を意識せんでも、大人向けの話をバンバンやっときゃいい。そうすると若い子の中に興味を持ってくれるヤツが出てきて学校で広めてくれる。ませたヤツがね。今、僕のいちばん若いリスナーって15歳くらいちゃうかな。でも、その15歳が今どきの曲じゃなくて演歌なんかをリクエストしてくる。島倉千代子さんの『りんどう峠』とか。「ほんまに知ってんのか、それ」って感じだけど、逆におもしろいね。
ハガキからメールへ……時代の移り変わりに思うこと
──50年を振り返って、大きく変わったと思うことはありますか?
鶴光:リスナーからの投書がハガキからメールに変わったのは大きいね。ハガキの時代は1週間考える時間があったんですよ。たとえば番組でネタを提供するでしょ。そうすると、起承転結を意識しながら「鶴光にどんなふうに読んでもらいたいか」を考え、文章を練りに練って出してくれる。それをこっちがハガキを見た瞬間に感じとって、いちばん喜んでくれるような落とし方をするわけよ。
それがメールになったら、何もかもが早い。ネタを提供したら、その場ですぐに反応がバンバンくるのよ。しかも文章も起承転結じゃなくて、起があったらもう結がある。生放送だと、初見でそれを理解して落とし方まで考えなあかんから、ある程度歳いったらできんことやな。頭の回転が必要と思います。それにハガキの頃は誤字脱字があったけど、今の子は賢いからめちゃくちゃ難しい漢字を変換して使ってきよる。そんなときは「これなんて読むん?」と隣にいてくれてる作家に聞いてるけどね。僕の場合は、アナウンサーとちゃうからそれが許される(笑)。
──ラジオが世の中に与える影響も、以前とは変わってきている気がします。
鶴光:ハガキの頃は、番組で投書を読んだら次の週に何百通と反応がきて、それがさらに何千通という具合にグワーッと広まっていくことがあったんや。「なんちゃっておじさん」なんてまさにそれ。電車に出没して「なーんちゃって」って笑わせるおじさんの目撃談なんだけど、僕とタモリさんが番組で取り上げて一大ブームになった。
生放送中に地震が起きて、ニッポン放送のマニュアルに書いてあるとおり「今すぐストーブを消してください」言うたら「この暑い8月に誰がストーブつけとるねん」ってクレームのハガキが5,000通くらいきたこともあったな。
僕に「エロカマキリ」というあだ名がついたとき、番組で「誰がカマキリじゃ」言うたら、とあるリスナーがカマキリを1匹送ってきよったのよ。それを話したら、今度は全国からダンボールいっぱいにカマキリが送られてきて。その中にカマキリの卵があったんや。ディレクターがそれを引き出しにしまっておいたら、暖かくなった頃にいつの間にか卵が孵ってカマキリの子どもがブワーッと出てきてえらいことに。広がりはじめたら、とめどなく広がるというか、当時のラジオはそれがすごかったね。
──社会現象まで起こる……。
鶴光:だってその頃、番組占拠率が90%行ってたから。裏に文化放送の『セイ!ヤング』やTBSラジオの『パックインミュージック』のような人気番組がある中で、100人ラジオ聴いているうちの90人が僕の番組を聴いてくれていた。
ただ、自分の影響力を恐ろしいと思うこともあったで。あるとき本業の噺家として一席やるために神社に赴いた際、楽屋代わりの社務所で待っていたら子どもの声が聞こえてきよるんよ。なんやろなと思って境内の方を見てみると、小学生くらいの子どもが10人ほどで「ええか、ええか、ええのんか?」と言うてて、「ああ、これは俺、相当悪い影響与えてるわ」と。リスナーの中にも、学校で校長先生に「深夜放送を聴くなとは言わんが、鶴光だけは聴くな」と言われた人がおったそうや。
ファンの期待に応えて復活した『笑福亭鶴光のオールナイトニッポンTV』
──そんな伝説の番組が、2017年に『笑福亭鶴光のオールナイトニッポンTV』として復活を果たしましたね。
鶴光:ありがたいことに、リスナーから復活してくれという要望がずっとあって。ただ、今の『オールナイトニッポン』は若い人を対象にしてるから、僕の年代の出る幕ではないわけよ。そこで、ニッポン放送とJ:COMのお偉いさんが「じゃあ、テレビでやったらどうだ」と言ってできたのがこの番組。だから、やってることは同じだし、コーナーも同じ。スタジオ内もラジオの現場と同じ雰囲気にしているんや。
──ラジオとテレビというメディアの違いは意識していない?
鶴光:この番組に関してはまったくない。テレビでどう映るかということも考えてない。冒頭でカメラに向かって「わんばんこ」くらいは言うけど、あとは勝手に撮ってくれてるから全然意識せえへんもん。そのぶん、ディレクターは大変やと思うけどな。
──テレビでも如意棒やエロリーマン川柳、ミッドナイトストーリーなど、下ネタが健在で安心しました。
鶴光:エロリーマン川柳では小道具の如意棒を使ってるけど、あれは僕のアイデアよ。子どもが水泳を練習するときに使うプールスティックってあるやん。ディレクターがそれを持ってきたから、そこに如意棒と書いたり、筋を描き入れたりして作ったわけよ。ただ単に言葉で「もっこり90度!」言うたっておもろない、スティック持ってやった方がリアル感があるやんか。この如意棒、毎年チャリティでオークションに出すけど、結構な値がついてるんやで。
ミッドナイトストーリー、あれは結局落語やからね。卑猥な話に思わせといて、最後でポーンと落とす。落語の手法と同じ。だから、『オールナイトニッポン』の頃からずっと続いているんやろね。下ネタっていうのは、人によってすごく卑猥に聴こえることもあれば、さらっと聴こえることもある。いかに聴いている人に不快感を与えないギリギリのところで止めておくかというのが大事。それが話術よな。
──そのギリギリの基準みたいなものはあるのでしょうか。
鶴光:それは、本人がスケベじゃないというだけよ。スケベなヤツはあかんのよ。それがモロに出てくるから。
基準というわけじゃないけど、僕は前からラジオは“大人の遊園地”と言うてますな。リスナーと一緒に遊びましょうと。だから政治や経済、世界情勢とかは一切言わない。何にも考えんで、聴いたあとに「ああ、今日おもろかった」と思ってもらえればそれでいい。聴いたことみんな忘れてもらって結構やで。僕もやったあと忘れるもん。
現在のメディアや“笑い”に対する想い
──最近は、YouTubeなどの新しいメディアがいろいろ登場し、誰もが発信できるようになりましたね。
鶴光:あれはええんちゃう? ラジオやテレビから流れてくるのを受けるだけだったのが、自分から発信して誰もが主役になれる時代が来たんやからね。その中からすごいヤツが出てきているわけで、それはそれでいいことだと思う。でも、僕はやる気全然ないよ。やっている仲間もいるけど、映像の編集とかものすごい手間かかるねんて。僕がやるとしてもVoicy(※1 )くらいやね。あれはラジオと同じで、5分間ペラペラと喋ったらええから。
──発信する場が増え、コンプライアンスが厳しくなったこともあって、個人の発言が「炎上」することも増えてきました。
鶴光:ラジオやテレビには放送基準があるけど、YouTubeなどにもガイドラインはあるわけで、それが守られているなら炎上まで行くことはあまりないと思います。
コンプライアンスと言うけど、「笑い」はもともと差別から来ているところがあるからね。たとえば金持ちと貧しい人のように、人間には財産や容姿、地位などの差がある。その立場を逆転させて、弱い方が強い方になんかやるとおもしろかったりするでしょ。そこから笑いが生まれる。『オールナイトニッポン』の頃は僕も新人で、ディレクターの方が立場が上やった。そこを逆手に取って、当時のディレクターに「宮本、お茶もってこい」と偉そうに言うたら、ブームになってみんな真似するようになったんや。
そういうものまでダメ言うことになったら、もう世界から笑いをなくさないといかん。落語も全部人情噺になってしまう。それはちょっと違うと思うね。今、漫才で自虐ネタを笑いに昇華している人がおるけど、それもどこが悪いんやと思う。ただ、個人攻撃はあかん。たとえば、特定の人間を動物にたとえるようなのはね。
僕が尊敬する人に毒蝮三太夫さんがいるけど、あんだけお年寄りに「ジジイ」とか「ババア」と言うても誰も怒らへんのやで。なんでかというと、あの人は弱ってるお年寄りには言わないのよ。自分に向かってくる強い人にしか言わない。しかも「ジジイまだ生きてやがったのか」と言っておいて、最後に「長生きしろよ」と声をかける。言いっぱなしじゃなくて、相手に対する思いやりがある。そういうやり方もあるのよ。僕には絶対できへんけど。今、炎上するのは言いっぱなしだからやないかな。
──現在のメディアやパーソナリティについて思うことがあれば教えてください。
鶴光:今の深夜放送って、そのパーソナリティのファンが聴いたらおもろいんや。でも、ファンじゃない一般の人が聴いたらよくわからんこともあると思う。ファンだけに絞って喋るのもいいけど、もうちょっといろんな人が聴いているかもしれないと意識したら、ネタや喋りも変わってくるんちゃうかな。
たとえば、ラジオをやっているとメールやファクスがくるけど、送ってくれた人以外にも聴いてくれてる人はいっぱいおる。高級なレストランで飯食ってるヤツは絶対ラジオなんて聴かんよ。でも、その裏で皿洗ってる人や料理作っている人の中には聴いてくれとる人もいる。そういう人は忙しくてメールも出せないし、ファクスも出せない。それが頭の片隅にでもあるとね、喋りが変わってくると思うんや。
以前は番組が僕みたいな新人を育ててくれたけど、今は最初から売れている人を使ってるから、ディレクターがタレントに対して言いづらいとこがあるのかもわからん。でも、作家はおもろいやつを書いて、ディレクターはそれを演出し、パーソナリティがそれに応えて喋るという、この3つが対等な関係でそれぞれの職分を果たすことが必要だし、それが成り立っている番組ほどええと僕は思うね。
──番組で経験を積むことで成長した?
鶴光:経験というより、リスナーが僕を育ててくれた。今でもリスナーってあったかい思うもん。公開録画や公開生放送とかやったらわかるわ。以前、誰かが僕に「長方形(ちょうほうけい)師匠」っていうあだ名をつけよったが、公開録音に行ったら「ちょうほうけい」を漢字で書いた紙(※2)を持ったリスナーがずらっとおったんや。それも、ええ歳したおっさんやで。その一体感がええやんな。そういうリスナーひとりひとりを、これからも大切にしていきたいね。
『笑福亭鶴光のオールナイトニッポンTV』放送情報 あの伝説のラジオ番組がテレビで復活!12月14日(土)の放送回では、ラジオ『笑福亭鶴光のオールナイトニッポン』放送開始から50周年を祝って、「オールナイトニッポン」パーソナリティを務めた経験もあるゲストのデーモン閣下と夢の競演。豪華プレゼントも予定しています。 放送日:12月14日(土) 23:00~24:00 ほか 出演 パーソナリティ:笑福亭鶴光 ナビゲーター:田中美和子 アシスタント:紺野ぶるま ゲスト:デーモン閣下 放送・配信:J:テレ生放送(視聴方法)、地域情報アプリ「ど・ろーかる」 |